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第七話 予兆

「ねぇ、起きてー」


 暇を持て余したティナが机の上で爆睡しているウォルトの身体を揺する。

 ここ数日、舞い込み続ける舞踏人形の依頼を処理し続けていたためウォルトが起きることはなく、メリアも出かけているため遊び相手は居ない。


「もうっ! 遊びにいってくる!!」


 メリアから勝手に外に出てはいけないと言いつけられているが、他にすることもないティナは舞踏人形を抱えて宿を抜け出した。


 言いつけを破った若干の罪悪感と友達と遊べる高揚感を胸にティナは広場へと走っていく。

 そうしてやってきた広場で見知った茶髪の少女に声を掛ける。


「アニー! あそぼっ!」

「ティナちゃん!!」


 最近、ティナが仲良くなった初めての友達。

 背丈はティナより少し低いくらいなのに、少しだけティナより大人びた発言をする少女である。


「今日はメリアさんは一緒じゃないの?」

「うん! 忙しいみたい」

「そっか。わたしの家もそうだから同じだね」

「そうだね……。それよりもあそぼっ!」


 抜け出してきたとは言わず、ティナは舞踏人形を見せて話題を逸らす。


「わぁ。踊るお人形さんだぁ。いいなぁ」


 覗きむように舞踏人形を見て、アニーはそう零す。


「アニーは貰えないの?」

「うん。少しだけお高いから」

「そうなの?」


 彼女の家庭事情も知らず、舞踏人形の値段も知らないティナはそう訊くしかなかった。


「そうだよ」

「そっか。じゃあ、こっちあげる」

「えっ……」


 二体で一対の舞踏人形を分け、片方をアニーへと手渡す。


「これで一緒に遊べるでしょっ」

「そうだけど。いいの……?」

「うん!」


 そこに憐れみはなく、同情もなく。ただただ純粋な遊び友達に対する好意だけがあった。


「でも、この魔法陣がないと動かないよ……」

「ほんとうだ!」


 下に敷く皮紙の魔法陣が無ければ人形は踊らない。

 そんなことに今さら気づきつつも、些細な問題は余所にして人形を踊らせ始める。


「遊ぶときは一緒!! だから大丈夫だよ」

「そうだね。ありがとう」


 そう答えたアニーも受け取った人形を魔法陣の上に乗せ、一緒に踊らせ始めた。

 そうして舞踏人形を眺める二人には、短いながらも確かな友情があった。


「本当に凄いね」

「うん」


 一人じゃつまらないことも、二人だと楽しく感じる。

 そんな新鮮な気持ちにティナは心地よさを覚え始めていた頃。

 アニーが美しく踊る人形に対し羨望の眼差しを向け。

 幼い少女なら誰もが思うような、そんな願望を何気なく口にしてしまう。


「いつかこんな風に踊ってみたいな~」


 それはありふれた幼子の願望。

 大人に魅せられた未熟な子供が抱く理想像。

 今は叶わなくともいずれは、という未来への希望。

 そんな何気ない一言にティナは共感し、叶えてみたい。そう思ってしまった。


「やってみようよ」

「え?」


 そう提案したティナに明確なビジョンはない。

 舞踏の経験はないし、知識がある訳でもない。特別、運動神経が良い訳でもない。

 普通の少女が乗り気になってしまった。ただそれだけのお話。―――のはずだった。


「ほら、立って」

「え、なにをするの?」


 舞踏人形と同じようにティナはアニーの手を取って、一歩踏み出し踊り出す。

 ダメもとで踏み出した一歩は次の一歩を自動で探し出し、綺麗な舞踏を再現していく。

 少女は自身の才に気づかず、見様見真似でウォルトの魔術(わざ)を盗んでいた。


「え、どういうこと……、身体が勝手に」

「あははは」


 困惑するアニーと対照的に少女は笑う。


「楽しいね!」

「う、うん。ねぇ、ティナちゃん……何をしたの?」


 踊れている楽しさと困惑、何が起こっているのか分からない恐怖。

 そんなごちゃ混ぜの感情でアニーは満面の笑みの少女に問いかけるも。


「あははははははは」


 アニーの感情など知る事なく、少女は踊りながらひたすら笑い続けていた。

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