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第四十六話 波瀾の幻影都市~エピローグ〜

 制御門奪取後の帰り道。

 疲労と好奇心に苛まれながら坂を下っていると、メリアがふいに口を開く。


「ところで、ウォルトさん」

「……はい?」


 何故だか嫌な予感がする。

 この枕詞から始まる彼女の話には、何一つとして良かった記憶が無い。

 続くメリアの言葉は一体何なのか。微かに緊張が走る。


「確認しておくべきだと思うので、今、確認しておきますが」

「…………はい」


 一体、何を確認されるのか。

 心当たりなどないはずなのに、脳内で警鐘が鳴り響く。


「今回、幻影都市に滞在するにあたって受けた依頼について覚えていますか?」

「依頼って、コハクから受けた話だよな? それなら――」


 と、ひと安心して思い返す、コハクとの会話の内容を。――『手段は問わん。どうにかして、八本でも運用できるようにしてもらえぬだろうか?』

 あの時、確かにコハクはそう言っていた。


「この際、尾の本数については目を瞑りましょう。

 依頼に向き合っていた姿勢も理解してはいます。

 ですが。結果だけに目を向けると今回、ウォルトさんは何を達成したことになりますか?」

「何って……えっ、何もしてないことに、なるのか……? 俺」


 思い返せば、制御門の認識を欺く為にコハクの補助こそすれど、それ以降はお狐様に化かされ、挙句問題の根本は全て依頼主である彼女が解決してしまった。

 胸を張って貢献したと言える功績は、自分の一体何処にあるのか。そう問われている。


「ま、待ってくれ。確かに、全く以て、その通りだとは思うんだが……! 

 何一つ役に立っていなかった訳ではないはずだ。

 なぁ、コハクからも何か言ってくれないか?」


 そう訴えてコハクへと視線を送る。

 装束は既に消え、元に戻ってもなお残り続ける九本の尾を揺らしながら彼女が答える。


「そうじゃのう。お主、一体何をしておったんじゃ?」

「コハクサン!?」

「ふふっ。冗句じゃ。お主の功績は確かに存在しておろうて」


 揶揄うように笑いつつ、コハクは続ける。


「依頼は想定と異なる結果に終わったが、何もそれは悪い結果という訳ではない。寧ろ最良であり、妾が九本目の尾を創造できるようになったのも、お主の尽力あってこそ」

「ちょっと待てくれ。今、創造できるようになったって言ったか?

 その言い方だとまるで、自分で創り上げたように聞こえるんだが。お狐様の力じゃなかったのか?」


 ずっとお狐様と契約したことで得た成果だと、考えていただけに彼女の口ぶりに驚きが隠せない。


「お狐様の力であることに相違はない。

 ただその本質、簡単に言うならば入れ物は妾の術式によるものじゃな」

「なるほど……。つまり、コハクが幻影で形作った尾に、お狐様が機能(なかみ)を与えたということであってるか?」

「その認識で違いはない。厳密には妾の術式に対し、お狐様が下駄を履かせているような状態じゃがな」


 ミズチ討伐の際に行った外的補助による一時的な術式昇華のようなものだろう。

 その持続性や精度から、比べるのも烏滸がましいほどではあるが。

 そう理解したところで、メリアが口を挟む。


「先ほどの、ウォルトさんの尽力あってこそというのは? 詳しくお聞きしてもいいですか?」

「構わぬが、今さら取り立てて語るほどのことでもなかろうて」

「そうですか……。気持ちは分かりますが、厳密に依頼達成とは言えなさそうですね」


 商人としての律儀さというべきか。メリアは少しだけ残念そうに、そう呟く。


「そう悲観する必要もあるまいて。共に制御門制圧を為したこと。ミズチ討伐を為したこと。

 疑似的に妾の九本目の尾を再現した経験、それが後の創造にも大きな影響を与えたこと。どれも値千金の働きであった。

 今一度、感謝しようぞ」

「コハク……」


 彼女の言葉が胸に染みる。

 だが、今抱えている問題の本質はそこではない。


「なら、依頼は達成ということだな。うん。よかった。よかった」


 そう言って無理やり話を締めようとする。いや、締めなくてはならない。

 無理を言って受けた依頼が、達成できませんでした。そんな状況になってしまえば、メリアが何をするか分からない。少なくとも、既に無い信用が最低値を更新するのは確定だ。

 そうなってしまう前に、話は締めるに限る。

 そんな小賢しい努力も虚しく、無情にもコハクが口を開く。


「依頼は失敗じゃ」

「……」

「ごしゅじん、どんまい」


 これまで静かに聞いていたティナが、ここぞとばかりに慰めの言葉を口にする。

 まるでこの後の惨劇を予見するように。

 そんな絶望にも似た状況の中で、コハクが補足する。


「依頼は失敗。じゃが、これは妾の想定を超えた成果によるもの。

 元の依頼では報酬に釣り合いが取れまい?」


 そう言って悪戯っぽく微笑むコハク。

 その言葉が意味することとは、つまり――


「少々回りくどくはあるが、依頼は修正。

 追加報酬を手に、これより始まる祝祭を存分に楽しんでいくがよい」


 一歩前に進み、振り返る彼女の背に映るのは、沈む夕日に照らされ輝く幻影都市の姿だった。


--- ---


 陽が沈んだ頃。

 帰り着いた屋敷の前で、一つの大きな影がゆっくりと揺れていた。


「お嬢、お帰りなさい」

「大事ないようで何よりだ」


 まだ身体が覚束ないビャクヤと、それを支えるノモリが出迎えていた。


「うむ。全て、為してきた」

「そうか……継承したのだな。契約を」

「母様の跡が、務まるかどうか……分からぬが」


 コハクは不安とも謙遜とも取れる言葉を口にする。

 するとビャクヤは僅かに語気を強め、穏やかな声で返す。


「主は主の道を往け。力不足ならば余を頼れ。知恵が足らぬならノモリを頼れ。

 完全を目指すな。未熟は罪ではない。足らぬ才は補えると主が証明したのだから。

 ………よく頑張ったな、コハク」

「にぃ様……! にぃざま……あぁっ……!!」


 溢れる感情に耐え切れず、ビャクヤの胸に飛び込むコハク。

 その肩は震え、年相応になった彼女の声は夜の静寂に溶けていく。

 零れる雫は、虚飾を剥がしながら。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

これにて第2章・幻影都市編は、ひとまず幕間を残して完結となります。


彼らの歩んだ旅が、あなたの中にほんの少しでも何かを残せたのなら、それ以上の幸せはありません。

もしよければ、ご感想など頂けましたら、今後の創作の大きな励みになります。


なお、第3章の執筆に向けて、構想をさらに深めるため、しばらくのあいだ筆を置かせていただきます。

長期の休載となりますが、必ず戻ってまいりますので、どうか気長にお待ちいただけましたら幸いです。


また、物語の続きを紡げるその日まで――。

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