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第四話 資金調達

「―――じん! ごしゅじん!!  起きて!!」


 溌剌とした少女の声が眠っていた意識を覚醒させる。

 身体を揺さぶられる感覚を味わいながら、ゆっくりと目を開けると、


「起きた?」


 こちらを覗き込むようにして微笑む金髪の少女が視界に映った。


「あぁ、起きたよ。どうしたの?」


 連日の疲れからまだ寝足りない気はするが、ティナの要望であればある程度は許容するべきだろう。


「あそぼ!!」

「わかった」


 そう言ってベッドから起き上がると、部屋に一人居ないことに気が付く。


「……そういえばメリアは?」

「わかんない」

「そうか。たぶん、外に出てるだけだろうな」


 道中で馬車を拾い、西に二日進むことでやってきた隣町。

 メリアのへそくりで宿にも泊まることができたが、彼女の財布にも限界はある。

 しっかりとした彼女のことだ。何か手を打つために外へ出かけたのだろう。

 そう推測していると、ティナがせがんでくる。


「あれ見せて!! あれ!!」

「うん? あぁ、あれか~」


 道中の馬車で退屈しのぎに出した土人形。

 出来自体は褒められたものではないが、ティナは気に入ったようだった。


「いいぞ。ほら、こうしてやると」


 右手で魔法陣を展開すると、そこから出てきた土が徐々に人の形を成していく。


「すごい! すごい!!」

「そうか、そうか」


 純粋な賞賛の声に少し気分が良くなってくる。


「よし! 特別に面白いものを見せてあげよう!」

「なになに?」

「この人形をよく見てて」


 ティナの視線が人形に釘付けになったタイミングで新たな魔法陣を展開。

 対象は人形に固定。術式が作用し始めると、人形の手足が徐々に動き始めた。


「え!? 動いた!?」

「それだけじゃないぞ」


 少しずつ可動域が広がっていく人形はやがて歩き出し、ティナへお辞儀をしてみせると目の前で踊り始めた。


「すごい! すごい!! ごしゅじん、すごい!!」


 あまりの感動からかティナは飛んだり跳ねたりしながら、そう口にする。

 既にティナは満足しているが、人形一体だけというのも物寂しい。

 そう思い、対となる人形を新たに作成。

 展開していた魔法陣に手を加え、二体の人形が同時に動けるよう改良した。


「わぁ」


 そうして踊りに加わった二体目の人形を見て、ティナは感嘆の声を漏らす。

 余程気に入ったのか、それから暫くティナが嬉しそうに踊る人形を見続ける時間が続いた。


--- ---


 そんな平和な時間が続き、微睡んできた頃。

 部屋の扉が開き、よく知った少女が帰ってきた。


「ただいま戻りました」

「……お帰り」

「おかえり!」


 寝傍っていたティナはすぐに起き上がって、帰ってきたメリアへと飛びつく。


「いい子にしていましたか?」

「うん! ごしゅじんがすごいの!」

「なにが凄かったんですか?」

「きてきて! あれ!!」


 そう言ってティナはメリアの手を引いて、人形の元へと案内していく。


「これは……すごい……」

「でしょでしょ!!」


 なぜか誇らしげなティナと驚きの声を上げるメリア。

 なんとも微笑ましい光景だが。メリアが目の色を変えたことで安息の時間は終わりを告げることになる。


「ウォルトさん」

「はい」

「これ、以前の依頼の流用ですよね?」


 大きく改良を施して完全な別物になったはずなのに。一目で気づかれるとは。


「よく気付いた―――」

「ウォルトさん」

「はい!」


 有無を言わせぬ圧。これは非常に嫌な予感がする。


「これです。これで行きましょう」

「……なんの話?」

「今後の話です」


 未だ何の話か掴めないでいると、メリアは現状の確認から話し始めた。


「家もなく、お金もない。それが今の私達です」

「そうだな」


 情けない話。依頼の舞い込む店がない現状。何もできないため、メリアに頼るしかないのが実情だ。


「その上で追ってくる狩人から逃げなければなりません」

「そうだな……」


 生きるだけで精一杯。余裕が無ければ、逃げる選択肢を取ろうにも取る事はできそうにない。


「そこでです。一度、ここでお金を稼いでおこうと思います」

「いいと思うけど、難しくないか?」


 大きく稼ごうとすると傭兵や魔物退治になるだろうが、俺もティナも激しい戦闘にはついていけない。


「ウォルトさん。今は職を失っていますが、本来の職業は何ですか?」

「魔術専門の技術職」


 魔道具の修理も販売も行っていた。

 それがなんだと―――、


「あっ」


 ここでようやく先ほどのメリアの言動に繋がった。


「もしかして、そういうことか?」

「はい。あの人形をたくさん売ります」


 沢山売る。その一言で気が遠くなりそうになる。

 誰でも扱える踊る人形となれば魔法陣の書き写しに膨大な時間を要する。

 それを量産……。金銭の問題は解決するとしても、限られた時間で量産となると徹夜続きで寿命を縮めることになる上に、唯一持ってきた魔術書について考える時間もなくなる。それだけは避けたい。


「作ったとしても、販売できないんじゃ意味がないだろ?」

「販路は私が確保します」


 優秀過ぎる。

 唯一誰も傷つかない拒否理由は虚しく。一瞬にして退路を断たれてしまった。

 確保すると口にした限り、確実に彼女は販路を確保してくる。が、


「簡単に言うが、売れるとも限らないぞ?」


 生活必需品などではなく、あくまで鑑賞を目的とした娯楽品。

 商品価値が高くなければ沢山売ることは難しいはずだ。


「売れます。先ほど街を見てきましたが、ここの生活の質は低くなく、暮らしに余裕が見えました。

 確かに人形自体の造形は甘く改善すべきところも多いですが、物珍しさや娯楽としての価値は高いと思っています」


 彼女なりの分析からくる、売れるという確信。

 メリアがそこまで言う以上、断れる理由は一つもなく。


「わかった。なら、その案でいくか」


 そう同意の言葉を口にすると、


「では、明後日までに三十個用意しといてください」

「三十個!?」


 提示された数に気が遠くなる。

 人形の構築や魔法陣の書き写しなど、一つ作り上げるのに一時間以上は掛かる。

 それを明後日までに……。


「徹夜か……」


 想像以上の要求数に覚悟を決めていると、再びメリアから声が掛かる。


「それと人形の造形はどこまで改善できますか?」

「何処までって。時間を掛ければある程度の水準までもっていけるけど。

 それでも本職の人形師の足元に及ばない出来だろうな」


 こればかりはセンスと積み重ねが物を言う。

 昔、多少人形を作る努力を積み重ねたがセンスが足りなかった。


「そうですか……では、できる限り高い水準を維持してください」

「無茶を言う」


 どれだけの時間が掛かることになるのやら。


「出来上がった人形の細かい修正などは私がやります」

「まぁ、それなら。

 でも大丈夫なのか? 販路の確保とかで忙しくなるだろ?」


 最後にメリアの修正が入るなら造形に多少のミスがあっても問題はなさそうで安心できるが。

 その分、彼女も彼女で休むことができなくなる。


「大丈夫です。私から言い出したことですので。

 それに、ウォルトさんにだけ大きな負担を強いるのも良くないので」

「そうか。ならこれ以上、言うことはないな」


 至らぬ所を補ってくれるというなら、そこは存分に甘えよう。


「では材料を買ってきますので、ティナちゃんと暫く待っていてください」

「わかった。気を付けて」

「はい。行ってきます」

「いってらっしゃい!」


 ティナの元気な声を聴きながら、買い出しに行ったメリアを見送り、


「はぁ……これから忙しくなるな……」


 地獄と化しそうな三日間を予感しつつ、そう呟いたのだった。

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