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第三十二話 衝突

 ―――少し遡り森の中。


「本当に生きてるんですか?」


 やや疑うように淡い黄色の髪を伸ばした狐族の少女が投げかける。


「此度の捜索は、その生死を確かめる為でもある」

「それはそうかもですけど、以前征伐に赴いたビャクヤ様とコヨイ様ですら帰ってこなかった大森林にこんな少数で来るなんて自殺行為じゃないですか? まだ死にたくなかったのに……」


 都市屈指の治癒術師故に連れてこられた少女は、そんな嘆きを口にする。


「はぁ。カヤだっけ? 士気の下がるようなこと言うのやめてくれる?

 まだ生きてるわよ。そこらの凡人と同列に語らないで」

「ぼ…………誰のことを言って―――」

「やめぬか。その論争に意味はなかろう?」


 ダイナの言葉にカヤと呼ばれた少女が反応しようとするが、すぐにコハクが仲裁に入ったことで事なきを得る。


「はぁ……先が思いやられるのう……」

「思いやられる先は、それほどないみたいだけど?」


 頭を抱えるコハクに対し、前を歩いていたダイナが何かを見つけたように声を上げた。


「これは……」

「焚火跡ですね。ウォルトさんのだとすれば、もしかして入れ違いに……?」

「それはないわね。反応はまだ先に感じるもの」

「なら、別の誰かってことです?」

「じゃとすれば例の首謀者か第三者になるかのう。

 もっとも、二人が都市の方角を理解しておればの話じゃが」


 様々な意見と考察が飛び交い一同で思案している中、微かに物音が聞こえダイナを除く三人は各自臨戦態勢に入った。

 木々に遮られて姿は見えないが、確実に何かが居る。

 全員が物音の方へ意識を集中させていると、音の主が姿を現す。


「…………っ!」


 白髪に赤目、少し乱れた黒い礼服が特徴的な男。

 その表情は険しく、全てを威圧せんばかりのマナを纏っていた。


「…………痕跡を辿ってきてみれば。ハズレか」

「ハズレ? あたしとしては大当たりなんだけど?」

「なんだ貴様らは?」


 怪訝そうに問いかける男の視線がダイナから横のメリアへと移され、思い出したように口を開く。


「…………矮小なる人間風情が、まだ生きていたとはな?」

「ウォルトさんとティナちゃんは何処ですか!?」


 男の言葉を無視して、メリアが居場所を問う。

 それに対し男は、


「始末した」


 躊躇うことなく、そう口にする。が、


「はい。嘘。子供でも、もっとマシな嘘付くわよ?」

「何を以て嘘と断ずる?」

「ごめんなさい。この程度の偽装工作に引っ掛かるんじゃ説明するだけ無駄だと思うの。ふふっ」


 そう言ってダイナは焚火の跡を一瞥して、鼻で嗤った。


「貴様ッ……!」

「ほら図星。術式で探知してる人間相手に、知能の低い駆け引きしないで貰える? 滑稽だから」


 怒りを露わにする男に対し、終始怯むことなくダイナは主導権を握るように挑発を繰り返していく。


「そもそも貴方程度の実力で師匠に勝てるという認識が、烏滸がましいの。わかる?」

「―――よく理解した。そこまで死に急ぎたくば、ここで死んでゆくがよい!」


 男が術式を始動しようとした直前。

 動けないでいた三人にダイナは口を開き、指示を出す。


「邪魔になるのが分からない!? さっさと移動して!」

「心得た。済まぬが任せるぞ」


 即座に理解したコハクが先導するように移動を開始し、二人はそれに続く様にその場を後にする。

 その様子を見て、男が口を開く。


「逃がすと思っているのか!?」

「貴方如きに四人も要ると思う?」


 一人で充分だとダイナは高らかに宣言するように、男の術式を炎が遮った。


「己惚れるなよ。人間風情が!」


 男が振り払うように詠唱し、風を巻き起こす。

 それに負けじと少女が魔法陣で生み出した火焔をぶつけ相殺する。


「勝てるといいわね。人間風情(あたし)に」


 こうして狩人(ダイナ)追跡者(クレディウス)が大森林を舞台に衝突したのだった。

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