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第二十四話 男の名は

 光がなく、黒に覆われた視界の中。

 平衡感覚を失うほどの浮遊感に襲われていると、唐突に大きな衝撃を全身に受けた。


「ぐはっ……」


 身体に当たる硬い地面の感触。

 開けた視界に映るは、木々に覆われた青空。

 そして耳に入って来る鳥獣の鳴き声。

 鬱蒼とした木々に囲まれたその場所はまさしく、


「森……?」


 隠しきれない困惑と共に服を引っ張られる感触に視線を向けると、


「ごしゅじん、ここどこ?」


 一緒に来てしまっていたティナがそんな声を上げる。


「わからない。でもティナが無事で何よりだ」


 ティナだけ連れ去られるという最悪の事態は防げた。

 問題は山積みだが、そこだけは喜ぶべきだろう。

 そんなことを一人考えていると、一緒に元凶も来ていたことに思い至る。


「あいつは!?」


 そう口にしながら急いで身体を起こす。

 すると少し離れた所で、頭を抑えながら立ち上がる白髪の男の姿が見えた。


「クソっ。予定外だ。下等種族風情にここまで邪魔されるとは。

 ……だが、まぁ良い。これで殺し損ねることもなくなった」


 顔を歪めながらそう吐き捨てる男から、後退るようにして距離を取る。

 何処かも分からない場所で。狐紙もない状態で。

 ティナを守りながら切り抜けることは可能なのだろうか。

 絶体絶命の現状を打破する為の案を思考するが、答えが出ことはなく。

 そうこうしているうちに男がこちらを捉える。すると男は一歩踏み出し膝を曲げ、


「王よ。さぁ、こちらへ」


 そう言ってこちらへと手を差し出した。

 最優先はあくまでティナなのだろう。

 男はティナが自発的に離れるよう求めるが、


「いや……」


 戸惑いを見せながらも俺の陰に隠れるようにして拒絶の言葉を口にした。


「何故です! もしや私のことをお忘れですか? クレディウスでございます」

「だれ……?」

「なっ……」


 クレディウスと名乗る男は、覚えがなかったと告げるティナの言葉に大きなショックを受けたようだった。


「まさかお忘れに……。そのようなことが……?

 いや、不完全な肉体での顕現であれば精神もまた不完全となってもおかしくはない……」


 一人そんなことを呟きながら思考するクレディウス。

 言葉の全てにまでは理解が及ばないが、状況から男が歓迎すべき状況ではないことは確かだろう。

 そう予測していると、クレディウスは一つの結論に辿り着いたようだった。


「やはり貴様か。貴様が崇高なる我らの術式を穢したのだな」


 穢した。その言葉が意味することは、恐らく古代の魔術書に記されていた術式を独自に改良したことなのだろう。

 術式製作者本人に言われるならば、仕方ないと受け入れる。が、


「訂正してくれ。確かにあの術式は素晴らしいものだった。効率を極限まで追求し、荒唐無稽な非効率を成し遂げようとする最高峰の術式だろう。だが無機質で美しさに欠けていた。それを改良したことは間違いだと思ってはいない」


 あの改良は術式を更に昇華させるものであったと信じている。

 それに才能溢れるティナと出会った術式が間違いなはずがない。


「改良……? ハハハハハ! 下等生物風情が我らの叡智に施しただと!?

 身の程を痴れ! 貴様如き無知蒙昧が美醜を騙るな!!」


 怒りに顔を歪め、そう言葉を連ねるクレディウス。

 逆鱗に触れたのか、その怒りが収まることはなく。


「文明を侮辱したことと同義。その罪、万死に値するとしれ!

 王よ。叱責は覚悟の上、巻き込むことをお許し下さい」


 そう言うとクレディウスは術式を口で紡ぎ出す。


雄大なる(グランディス・)風よ(ウェントゥス)……』


 ティナの安全を無視した術式構築。

 その上、さっきよりも術式の格が上がった。

 逃げる? どうやって。

 相殺する? 間に合わない。

 刹那の間に問答が繰り返されるも、光明が見えることはなく。


『エク―――』


 クレディウスの詠唱が完了する直前、何処からかともなく轟音が鳴り響いた。


「なに?」


 陰に隠れるティナがそんな疑問を上げた瞬間。


「なっ!」


 クレディウスとの間に巨大な木々の根が荒波の如く押し寄せた。

 まるで両者の対立を阻むように。


「これは……」


 そう呟く間もなく、視界の端から一人の男が飛び込んできた。


「急げ。一時的なものに過ぎない」

「え、あぁ」


 困惑する自分を置き、男は陰に隠れていたティナを素早く担ぎ上げて駆けだしていった。

 敵か味方か。考える時間はなく。ティナを連れていかれた以上、付いて行く他になく男の姿を急いで追いかけるのだった。


--- ---


 しばらく走り続け、沢の近くまでくると男は速度を緩めティナを地面へと下ろした。


「いきなり抱えて、すまなかったな」

「ゆるす!」

「何様だよ」


 コハクと長く居たせいか、そんな物言いのティナに突っ込みを入れる。


「王様?」


 先程のクレディウスの言葉からティナがそんなことを呟くが、


「責務を全うできなかった者に、それを名乗る資格はないだろう」


 男は神妙な面持ちでそう答えた。


「……」


 クレディウスに続き、この男もまたティナのことを知っているのだろうか。

 そんな憶測から、男の一挙手一投足に目を向ける。

 何者で何が目的なのか。

 混乱していた思考を落ち着け、冷静に分析し始めると一つの事実に気づく。


「あれ? 狐族か?」

「如何にも。知っているものと思っていたが」


 そう答える男は黒い頭髪に紅色の瞳、そしてひと際大きく太い黒い尻尾に、どこか見覚えのある顔立ちをしていた。


「互いに名を知らぬのであれば、名乗りは必要であろうな」

「そうだな。俺はウォルトだ。よろしく」

「ティナだよ! よろしくね!」


 そう言って名乗りを終えると狐族の男は満足そうに頷き、続いて自身の名を口にする。


「余の名はウラミ・ビャクヤ。死に損ないのしがない狐族だ」

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