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第十九話 眷属

 四日目の朝。これだけ経てば、屋敷での寝食にも慣れてくるもので。

 連日、休みなく出ているというのに疲労感はあまりない。


「今日はどの区画の調査に行くんですか?」


 身支度していた手を止め、メリアがそう問いかけてくる。


「昨日が旧備地区だったから、隣接する通りになるんじゃないか?」


 未だに地形を把握しきれていない為、そんな曖昧な説明を口にする。


「でしたら、北の雨客通りか南東の砂客通りのどちらかですね」

「一昨日が砂客通りだったから、雨客通りだな。

 確か砂客通りと同じくらい栄えてる通りなんだっけ?」

「はい。雨客通りの方が生活用品の揃えが良いくらいで、基本的には砂客通りと同じような感じでした」


 妙に正確な情報。というより、


「でした。ってことは、もう行ってきたのか」

「はい。昨日、三人で」


 メリアたちを案内しているコハクは幻影だと分かってはいるが、妙な疎外感に寂しさを覚える。


「今日は紅辺(こうべ)地区で名物の紅葉を見る予定です」

「紅葉か」


 まだ紅葉の季節には早い気もするが、ここは幻影都市。

 季節関係なく絶景を堪能することができてもおかしくはない。


「楽しんできて」

「その……ウォルトさんも来ませんか?」


 少し躊躇うようにメリアがそんな提案をする。


「そうだな……」


 行くこともやぶさかではない。が、依頼がある以上、やはり先にそちらを終わらせるべきだろう。

 今後、何があるか分からない。いつでも幻影都市を発てるようにしておかなければ。

 

「嬉しいけど、今回は遠慮しておく」

「そうですか……」


 残念そうな反応を見せるメリア。


「依頼が終わったら、その時に改めて観に行こう」

「そうですね。その時は労いも兼ねて皆で食事に行きましょう。

 では、有椀(うわん)通りで美味しそうなお店も聞いておきますね」

「ありがとう。楽しみにしておく」


 そうしてメリアと予定を話しつつ、


「もぅ!」

「また妾の勝ちじゃな」

「今度こそ本物だと思ったのに!」


 玄関まで迎えに行っていたティナの声と愉し気なコハクの声を聴きながら、朝は過ぎ去っていた。


--- ---


「さて今日は雨客通りに足を運ぶわけじゃが」


 メリアたちと別れ、何か言いたげに口にするコハク。

 その真意をくみ取れず思考を巡らせるも、それを察したのかすぐにコハクは言葉を続ける。


「狐紙を買う資金は無事調達できたのかと思うての」

「あぁ、そのことか。満足とは言えないが、五枚は買えるはずだ」

「個人使用なら五枚も買えれば充分じゃろうて。そもそも十枚が多すぎたんじゃ」

「そうか? 何枚あっても足らないだろ?」


 金銭の問題さえ無ければ幾らでも欲しいものである。


「戦争でも始めるつもりかの?」

「生憎、争いに興味はないな」


 だが争いの中で磨かれ、新たな境地へと昇華する魔術が観られるのであれば争いを起こす価値はあるかもしれない。

 そんなことを思いつつ、研究に時間を費やす方が有意義だと結論づけて雨客通りへと足を進めるのだった。


--- ---


 そうしてやってきた雨客通り。

 幻影都市の北に位置し、砂客通りと双璧を成すという話に違わず品物を求める人々で溢れ、活気に満ち溢れていた。


「狐紙五枚で!」

「毎度あり!」


 到着して早々、魔術品を取り扱う店で狐紙を購入でき気分が高揚する。


「この材質。術式によく馴染みそうな、この作り。

 高度な術式も破綻することなく運用できそうで、夢が広がるなぁ」


 袋から取り出した一枚を眺めながら、そんなことをひとり呟く。


「満足そうで何よりじゃ。妾としても鼻が高い」


 そう言って胸を張るコハク。

 余程誇らしいのだろう。


「早く使ってみたいな」

「今日の仕事を終わらせる方が先じゃろう」

「それもそうだな」


 狐紙はお預け。

 今は見えてきた制御門の依頼を解決する方に注力すべきだ。


「既に二つ。昨日と一昨日で制御門について見てきたが、どんな感じじゃった?」

「どんな感じって昨日、話した通りだろ?」


 改めてコハクが口にした意図が分からず、そう問い返す。


「聞き方を変えるが、砂客通りと旧備地区で違いはあったかの?」

「いや、殆どなかったように思う」

「では他の制御門はどうじゃ?」

「どうって、それを確かめるために今……」


 そう口にしてコハクの意図が読めた。

 違いが見られないのであれば、他の門の調査に大きな意味はなく。

 今日の雨客通りを最後に調査は打ち切り、そろそろ解決策を模索しろと言いたいのだろう。


「分かった。帰ったら幾つか案を考える」

「頼んだぞ」


 コハクの期待を背に受けながら、恐らく最後になるであろう制御門の前へと到着した。

 一昨日と昨日、二つの制御門を通してやることは定まっている。

 いつも通り、何も変わらず制御門周りに陣を描き、


「それじゃ、始めるぞ」


 そう言って術式を起動させようと、マナを流し込んでいった直後。


「接続が切れた……!? お主、何をした!?」


 そう言って鬼気迫る表情で詰め寄って来たコハク。


「待て待て! 俺はまだ何もしてない」


 突如、冤罪により糾弾されかけるも、詰め寄って来るコハクに手を上げることで身の潔白を主張する。


「本当か? その言葉に偽りはないじゃろうな?」

「あぁ。術式は今から起動しようとしただけで、まだ何もしていない」

「であれば、原因はなんじゃ?」


 詰め寄ってきたコハクは落ち着きを取り戻し、少し離れるとぶつぶつと呟きながら思考を巡らせ始めた。

 何か問題が起こったらしいコハクに、何があったのか問いかける。


「なぁ。さっきの接続が切れたってのは、どういう意味か聞いてもいいか?」

「それは制御門との……」


 コハクの返答。その続きを聞き終えるよりも先に、凍りつくような悪寒が背筋に走った。


「――離れるぞ!」


 そう口にし、返事を待たず説明中のコハクを抱きかかえ制御門から大きく距離を取る。


「な、なんじゃ……、急に―――」


 戸惑うコハクが声を上げた直後、響き渡った衝撃音で全て掻き消された。


「爆発!? 何が起こっておる?」

「分からない。だが、狙われたのは俺たちで間違いなさそうだ」


 先程コハクと共に居た場所。そこには抉れた地面とその中に数本の牙のような跡がくっきりと残されていた。


「水……?」


 肌に飛び散ってきた水滴と地面に広がる水溜まりを見て、コハクがそう呟いた。


「魔術のようだが、特異過ぎて掴めないな」


 咄嗟の出来事でまだ理解が追い付かないが、恐らくこれだけで終わりのはずもないだろう。


「来るぞ……!」


 先程できた水溜まり。それが傾斜も無いのに流れていく。

 それはまるで、潮が引いていくように。

 そうして制御門へと集まった水は主の降臨を喝采するかのように沸き立ち、制御門の上空からその主であろう者が姿を現した。


「……」


 それは予想していた狩人でもなく、冒険者や魔術師、王国騎士ですらなく。


「人型の狐……?」


 人智を越えた存在との邂逅であった。

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