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第十六話 屋敷での面会

 砂客通りからしばらく歩き、遠くに聳えていた天守が大きく見えるようになった辺りで。


「到着じゃ」


 コハクのそんな声と共に大きな屋敷が視界に映った。


「大きい……」

「大きいね!」


 屋敷を囲う塀の長さと、奥に見える屋敷の大きさに感嘆の声を漏らす二人。


「さて、いつまでも突っ立ておっては目立つ故、入るとするかのう」


 そう言って、コハクは開かれた門を潜り屋敷の敷地へと入っていく。

 そんな彼女に置いて行かれないように敷地の中へと足を踏み入れる。


 石畳の通路に景観を彩る花や木々が立ち並び、賑やかだった砂客通りとは違い落ち着いた雰囲気で外界とは隔絶されたかのような感覚になる。


「良い庭園ですね」

「気に入って貰えたようなら何よりじゃ。あやつも喜ぶじゃろう。ほれ、着いたぞ」


 そう言って辿りついた大きな母家。

 引き戸を無造作に引き、コハクは中へと入っていく。


「ノモリ! 帰ったぞ!」


 靴を脱ぎ、木製の廊下を突き進みながらコハクはそう叫ぶ。

 そうして目的地であろう扉の前まで足を進めたコハクは勢いよく開け放った。


「帰ったと言っておるじゃろう」

「お嬢!? え!? また騙しましたね……?」


 そう言って部屋の中から現れたのは焦げ茶色の髪に一本の尻尾を揺らした男。そして後ろからコハクに飛びついたのは黒髪で尻尾が八本の少女。それはまるで、


「コハクさんが二人……!?」


 そんな驚きは一瞬で次の驚きへと塗り替えられる。

 二人のコハクが抱き合った直後。どちらのコハクも消えるように、それでいて存在を主張するように混ざり合い一人のコハクへと統合された。


「騙したとは言い掛かりじゃのう。どちらが本物でどちらが幻影じゃったという確証はないじゃろうに」

「また詭弁を……。そろそろ当主としての自覚を持ってくださいよ。

 一人で都市外へ行くのは危ないと言っているじゃないですか」

「じゃから妾本人じゃなく、幻影じゃと言っておろう?

 それに自覚しておるからこそ、制御陣の完全制御は急務なのじゃ」

「だから―――」

「これ以上、客人を待たすでない」


 あまりにも理不尽な話の打ち切り方に、ノモリと呼ばれていた男性に同情の念が湧く。


「こちらはお構いなく」

「いえ、そういう訳にもいかぬでしょう。はぁ……。

 お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません。ささ、こちらへ」


 そう言って部屋の中へと通される。

 中は広く、背の低い大きな机に向かい合うような形で座り始めたコハクに倣い腰を降ろす。


「お嬢が迷惑掛けてないならいいんですが」

「むしろ案内して頂いて助かってます」

「あはは。それなら良いのですが」


 メリアの言葉にノモリは、ほっとした様子を見せると一度席を外し、お茶を持って戻ってきた。


「大したもてなしはできませんが。どうぞ」

「ありがとうございます」


 ノモリから各自、お茶の入ったコップを受け取り身体を落ち着ける。

 そうして、もてなしを終えたノモリが腰を降ろし、話し合いの場が整った辺りでコハクが口を開く。


「して、ノモリ。何処から訊きたい?」

「全てですが!?」


 そうして唯一、何も知らないノモリへのすり合わせと、改めての現状確認を兼ねた話し合いが始まったのだった。


--- ---


「大方の理解はできました。ですがお嬢。これ以上、僕のこと試さないでください。この際、はっきり言いますが、僕にお嬢の幻影を見破る能力は無いんで。というか、幻影都市(ここ)でお嬢の幻影見破れる人なんていないでしょう?」

「知っておる」

「だったら頼みますって。いや、ほんと。お嬢に何かあれば、コヨイ様に合わせる顔なくなるんで」

「元はと言えば母様が帰って来ぬのが悪いんじゃ。

 寧ろ、母様の方が合わせる顔を無くしておるじゃろうて。はっはっは」

「そういう話じゃないですって……」


 コハクに永遠に振り回され続けるノモリ。

 ここまで来るといっそ憐れですらある。


「はぁ……」

「ほれ。いつまでも辛気臭い顔をするでない。

 客人の前であろう?」

「それをお嬢が言いますか。分かりました。そうですね。

 建設的に行くとしましょう。いつものことです」


 ノモリの普段の気苦労が垣間見えた気がするが、彼の言う通り今は建設的な話し合いをするべきだろう。


「それでウォルトさんと、メリアさん、ティナさんで良かったですよね?」

「あぁ、合ってる。ノモリさんで良かったよな?」

「はい。お嬢と同じく、気軽にノモリとお呼びください」

「わかった。ノモリ」

「それでウォルトさんは、魔術師とのことで?」

「ん? まぁそんなところだな。広義での魔術使いと思ってくれていい」


 実践経験を積み重ねた狩人のような人間を真の魔術師というはずで。

 山に籠り実験や魔術の調整をし続けていた自分はさながら魔術技師と言ったところだろう。


「高い能力を持つ魔術使いでウォルトという名前……。

 間違いない。お嬢。やっぱりこの人、指名手配犯では?」

「……そうじゃったか」

「え、俺指名手配されてんの?」

「ッ―――!?」


 衝撃の事実にメリアが絶句する。

 まさか指名手配されるほどにまで事態が大きくなっていたとは。


「追われていると聞いておったが、そこまでじゃったか。一体、何をやらかしたのじゃ?」

「いや、復元依頼された魔術書を守っているだけで……」

「それだけで指名手配されるかのう? ノモリ、罪状は覚えておるか?」

「えっと、確か……、国家転覆罪だったかと」

「お主、本当に何をやらかしたのじゃ……?」

「俺が訊きたい……」


 やったことと言えば、魔術書復元して、ティナと出会って、襲ってきた王国騎士を辛うじて撃退し、狩人から紙一重で逃げおおせたぐらいで……。


「そんなに悪い事したかなぁ」


 不可抗力に次ぐ不可抗力。

 王国騎士については抵抗しなければ口封じで殺されるところだった。狩人も同様に。


「よく分からんが、お尋ね者という訳じゃな」

「みたいだな。迷惑なら、出ていくが」

「なに。人となりは既に分かっておる。このまま居て構わぬよ。

 それに魔術王国の手配書であろう? 大した信憑性もあるまい」

「お嬢。本当にそれでよろしいので?

 もし匿っているのがバレた場合、魔術王国との関係性の悪化に直結しますが」

「構わんじゃろう。そも、母様の時から仲良くする気などなかったじゃろうて。それに何も情けを掛けるつもりもない。ただ利害関係が一致しただけ。そこに他国が口を挟む余地はない」


 頑として自分の意見を貫き通すコハク。

 それは嬉しいようで、利害関係が見込めなくなれば即座に切り捨てられる可能性もあるという重圧に変わる。


「期待に応えられるかは分からないが、出来る限りにことはしよう」

「うむ。期待しておるぞ。

 それと宿に関してじゃが、この屋敷を使うとよい」

「良いんですか?」


 予め他の宿を探すつもりだったのか、メリアが声を上げた。


「よい。無いとは思うが、手配した宿で追手と鉢合わせた時が一番悲惨じゃろう?」

「確かに……」


 極低確率とは言え、そんなことでお互いリスクは負いたくはない。

 ここは素直に宿泊させてもらうのが良いだろう。


「お世話になります」

「よろしく頼む」

「よろしくお願いします!」


 こうして慌ただしかった幻影都市一日目は、傾く夕陽と共に過ぎていった。

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