第十二話 次の目的地
「行ったみたいだな」
「みたいですね」
土人形を掘り出してできた地面の穴から、顔を出しながら周りを確認する。
既に狩人の姿はなく、爆発音を聞きつけた野次馬が少しずつ集まり始めていた。
「囮がバレる前に急ごうか」
認識阻害のローブで囮としての役割は十分に引き上げられているはずだが、油断は禁物。
少し急ぐようにして魔術で地面を押し上げ、三人で穴から脱出する。
「あはは! ぐわってした! おもしろーい!!」
地面に押し上げられる感覚が新鮮だったのか、ティナが目を輝かせながら声を上げる。
「もっと! もっと!」
「また今度な」
ティナの尽きぬ魔術への興味に嬉しさが込み上げるが、状況的に後回しにしなければならないのが悔しい所。
「それで行先はどうする?」
行こうとしていた方角が知られてしまった以上、当初の予定通り進むのはリスクが高いと言える。
「そうですね……、少し進路を南に修正して南西方向のヴァルスターにある幻影都市イドラに向かおうと思います」
「幻影都市か」
知識としてはあるが、現地に足を運ぶのは初めての経験となる。
どんな光景が、どんな魔術が観れるのか少し楽しみになってきていると、
「げんえいとし?」
ピンと来なかったティナが疑問符を浮かべながら、そう口にした。
「幻影都市っていうのは、その名の通り幻影。つまり幻に溢れている街からきた名前だ」
「本来そこに無いものが視えたり、逆に視えなくなる一種のお祭りのような街だと聞いています」
「楽しそう!」
想像できたのかティナが少し興奮した様子を見せている横で、メリアは難しい顔をしながら注意を促す。
「幻影都市はその特性上、追手を撒くにも、やり過ごすのにも適した街であることは確かです。ですが逆もまた然り。逃げ込みやすい街だからこそ、そこで待ち伏せている可能性も十分あり得ます」
「確かにな」
言われるまで気づかなかった。
「だから最初はイドラは経由せずにヴァルスターを抜けようとしていたのか」
「はい。逃げ込み易い街だからこそ、敢えて選択しない方向で進んでいました」
が、そこで予定外の狩人との遭遇。よって進む方向が露見したためリスクを取ってでも幻影都市に逃げ込まざるを得なくなったという訳か。
「認識阻害のローブのせいだな。すまない」
狩人を甘く見ていた。
アレが無ければ、もしかしたらバレていなかったかもしれない。
「いえ。それを言い出せば、私の日程管理が甘かったです。すみません」
あくまで自分に非があると謝罪するメリア。
そんな様子を見てか、
「もしかして、ティナのせい……?」
魔術を教わりたいと言っていなければ、数日早く出発できた。その可能性に思い至ったのかティナが悲しそうな表情で呟く。
「安心しろ。運が悪かっただけだ」
そう言って俯くティナの頭を撫でる。
魔術を教わりたいという思いが間違いだったはずがない。
「その通りですね。偶々、出会ってしまっただけの結果論です。それに魔術を教わらなくても、結局は数日の滞在はしていたと思います。どうせ認識阻害のローブの他にも作るって言ってたでしょうから」
「ここで責任を俺に押し付けてくるのかよ。否定はしないけどさ」
長年共に過ごしてるだけあって、行動の殆どが読まれている。
実際、余った材料で一個だけ魔道具を作り上げているため、反論は出せない。
「まぁ、なんにせよ。イドラで撒いてしまえばいい話だ」
待ち伏せの可能性と言ったところで、イドラを経由しない方向で進んでいた以上。
狩人はイドラだけではなく、元の西経路もマークしなければならない。
状況は悪いが希望が無い訳ではないだけ、上出来だろう。
それに興味のない街を経由するよりも、噂に聞く幻影都市に行ける方が個人的には嬉しいものである。
「それで、イドラまでは何日ぐらいなんだ?」
「二十日ほど歩けば着くと思います」
「歩けるか! ティナ、馬車を探すぞ!!」
「わかった! ごしゅじんより、早く見つける!!」
そうして突如始まった道中で馬車を探す勝負は、豆粒に見える距離から当てたメリアの勝利で終わった。