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タイミングぅうう!

いつも応援ありがとうございます。

新連載です。よろしくお願いします。


「ルシアナ・アルベルティーニ!貴様との婚約は破棄させていただく!」


『ほら!始まったわよ!』


豪華絢爛な大広間に響き渡る大声に驚いてそちらを見れば、私の隣にはきゃっきゃと嬉しそうに小声で騒ぐという器用な事をしながら私の腕を嬉しそうに突いている友人その1。


「な、何故なのです殿下。一体どうして婚約破棄だなんて……」


『やだ。本当に愚かよね』


突然の寸劇?に眉間に皺を寄せて鼻を鳴らすのは友人その2。口元を長い袖で隠し、絶対零度のジト目で壇上を見遣っている。

 

「貴様がここにいる可憐なマリアベルを妬み、陰で暴言や暴力を不当に奮っていたのは裏が取れている!」


「そんな、そんなっ……!わたくしは決してそのような愚かな罪など犯しておりません。常に王太子妃としての立場に恥じぬ行いを心掛けて……」


「そのような事、口先ではいくらでも言えるであろうが!」


「そもそもわたくしはそこにいらっしゃる御令嬢と顔は合わせた事はあれど言葉を交わしたことなど一度も……」


「諄い!ここまできてまだシラを切るなど恥を知れ!」


『ねぇねぇリィナ、貴女劇とか好きよね?どう?どう?面白い?』


遠くのホールをそれはそれはもういい笑顔で眺めつつ、楽しそうに私の腕を掴んでガクガク揺らしてくる友人その1。ちなみにリィナは私の名前である。

 

『それより(わたくし)疑問なんだけれど、あの壇上にいる女そんなに可憐かしら?遠目薄目で見たとしても腹黒い醜女にしか見えないわ』


ため息まじりで既にどうでも良さそうな友人その2。


『ま………………』


『『ま?』』


まっっっっっっって?え?まって、え?え?


『やっべぇ私転生してるわ………………』


そして何だか色々と信じられなくてそれどころではない私。


婚約破棄だ国外追放だなんだと騒いでいる壇場付近を尻目に突然固まる私を不思議そうに見る友人その1と2。いや、あのさ。最近…………最近?の流行りであるよ。わかるわかる。私もよく読んだりアニメ観てたからね。異世界転生も異世界転移も。でも違うじゃん?あれは何というか次元という分厚ーい壁を通して楽しむからいいんじゃん?体験したい訳じゃないんだわ。っていうかね?あれか?なんかテンプレの乙女ゲームの世界とか悪役令嬢物のお話の中ですかね?ここ。それにしても私の立場微妙じゃない?完全傍観者なんだけど。っていうか違う違う。別に関わりたい訳でも無いんだわ。そもそもメインキャラっぽい断罪劇やらかしてるメンバーの顔、誰1人としても見覚えがない。さっきチラッと聞こえてきた名前に聞き覚えもない。っていうか今まで生きてきた記憶辿るけどこんな世界知らんな。えぇ〜〜〜?詰んでない?これ詰んでない?っていうかね、あのね、何にせよ転生してるなって気が付く


『タイミングぅうう!』


心からの叫びよ。



✳︎✳︎✳︎



『落ち着いた?』


まだまだ楽しそうな友人その1改めパフィ。ふわふわと柔らかそうなウェーブがかった豊かな金髪を揺らし、まん丸した翠の目が印象的な可愛らしい子だ。ちなみにちょっと愉快犯の気がある。


『びっくりした。突然四つん這いになるんだもの』


流石にちょっと驚いたのか心配そうに私の前髪をそっと指で避けて顔色を確認してくれる優しい友人その2改めサリン。淡い水色のストレートな髪をショートカットに切りそろえたクールビューティーで瞳は濃いブルー。そしてこちらは毒舌。内側に入れた者以外には(一部例外あり)基本ジト目で蔑んだ目をして対応する。しかし一定の変態(困ったさん)にはそこが堪らんと評判。やめて差し上げろ。ちなみに私は物凄くママみを感じる。バブちゃんになっちゃう…………


『改めて見るとそうか……持ち越しちゃったか…………』


そして肝心の私。ガラスに映るのは黒目黒髪ストレートの私。うーん、ザ・日本人の色彩。流石に顔の造形は受け継いでいないが(こんな堀深族の中に日本ののっぺり顔は浮くから本当に良かった)今まで友人達と比べて髪も目も黒いな〜と思っていたのが妙な安心感に変わった。


『リィナだいじょーぶ?』


『あーうん、ありがとうだいじょばないけど大丈夫。うん』


こてんと可愛らしく首を傾げながら心配してくれるパフィに余裕のない返事をすると何が面白かったのか『ぶはははは!』と笑い出す始末。可愛い見た目なんだから本当その笑い方どうにかした方がいいと思う。私は好きだけど。


『ねぇ、本当に大丈夫?父様の所に行った方がいいんじゃない?』


『あーうん、そうだね。後で行こうかな』


私の返事にほっとした顔をしながら目にも止まらぬ速さで未だに笑い転げるパフィを蹴り飛ばすサリン。そんな過激な君も好き。て、いうかね?


『私あの子はちゃめちゃにタイプだわ…………』


落ち着いて見てみると暫定悪役令嬢っぽい子がね、何とも好み。恋愛感情的な感じではなくひたすらに推し。声も顔も物凄くタイプ。ちょっと全体的にきつめの顔立ち、スレンダーな体型に反した豊かな胸部、艶やかなブルネットに深い翠の瞳。そして何よりほぼ間違いなく美脚。たまらん。


『えーリィナってああいうのがタイプ?大丈夫?頭悪そうな顔してるけど』


パフィの視線の先には壇上の暫定ヒロイン。


『あっちの醜女じゃなくて地べたに這いつくばっている方でしょ?』


いや言い方よ。合ってるけど言い方よ。笑うわ。元々転生前も女性の好みは綺麗系だったが転生したら更に好き度が上がった気がするな。ちなみに男性は『それ前見えてんの?』みたいな糸目が好きです。そしてふとした瞬間に薄く開眼するの。たまらん。


『いてっ』


過去の推し達の面の良さを思い返していると額に小さな衝撃。どうやらニヤニヤしながら黙り込んだのでサリンにゆるーくデコピンされたらしい。パフィの事は容赦なく蹴り飛ばしてたのに、優しいデコピン。いやん、好き。


『で、どうするの?なんか微妙な雰囲気になったけど』


呆れたように腕を組むサリンに顎で促されて断罪劇の方を見てみればあらまあびっくり、私の可愛い可愛い推しちゃんが中々ガタイのいい男に腕と肩を取られ床に押し付けられている。


…………はぁーん?


『よーし、殺そ』


とびきりの笑顔で殺意フルスロットルになる私を指差して笑うパフィに、額に手をやりため息をつくサリン。その2人を背後に私はズンズンと断罪ズに近付いていく。


「えっ……!ちょ、ちょっとあれって!」


「どうしてこんな所に?」


物陰から殺意マックスでズンズンと進み出れば私の姿に気が付き唖然とした表情でただただ道を開ける人々。うんうん、私の邪魔をしない子は嫌いじゃないよ。


「おい、何事だ…………えっ?!」


そうして進んでいけば人々の騒めきに眉を顰めた服装的に王子っぽい断罪男がこちらを振り向き、唖然とする。やべーな。面がいいのは分かるけど可愛い推しに危害を加えた奴だと認識しているからか何の感慨も湧かん。


「あ、あ、貴女様は…………!」


「え?嘘なんでこのタイミングで?私が可愛すぎたから?」


どうも私に話しかけているっぽい暫定王子ととち狂った発言をしている暫定ヒロインを無視して成り立てホヤホヤの可愛い推しの前に進み出る。ひゃーびっくりしてる推しも隙がある感じで可愛い!に、しても。


『お前は邪魔だね』


ちらりと見遣る先には1人の大柄な男。こちらもまた唖然とした表情をしながらも推しを床に押さえ付けたままで、それはそれは大変気分が悪くなるのでゆるりと左手を振るうと男は軽く吹っ飛びそのまま広間の馬鹿でかい柱の1つに激突して止まった。可愛い推しの身体に傷がつくだろうが不快な奴め。


「あ、あの……?」


そのまま屈んで推しの肩が外れていないか確認してそっと手を取り立たせるとひたすら困惑する推し。えーかーわーいーいー。よーし決めたぞ。


『私と共においで』


持って帰ろ!





✳︎✳︎✳︎



『…………で?』


やっばいでござる事案でござる。


『ほんとに持って帰ってきちゃったじゃーーーん』


in我が家。では無くお気に入りの別荘。


『ひぃん……まじで持って帰って来ちゃったお持ち帰りしちゃった。これ普通に誘拐やんけ……え、私もしかして冷静じゃなかった?思ってた以上に異世界転生に衝撃受けてた?からの好みドンピシャな子見つけてお持ち帰り?やだ〜〜〜犯罪じゃ〜ん!』


小屋にあるシンプルな木製テーブルにひとり突っ伏すがなんの解決にもならない。


『しかも後半なんか記憶が曖昧……いや、テンション馬鹿みたいに上がってただけで思い出そうと思えば思い出せるな』


遠い目になりながらも思い出すのは昨晩の事。パフィに面白い劇があるから見に行こうと半ば強引に引きづられて見に行ったのはまさかの断罪劇。からの唐突に思い出す前世。そしてダメ押しにとばかりに現れる最強の推し。アドレナリンが大暴走。この身体にアドレナリンあるのか知らんけど。


『てかパフィとサリンも止めてよ〜〜〜いや止めないな。特にパフィなんて嬉々として手伝ってくれたもんな。誘拐を』


はいはい犯罪犯罪。


『あ。やばーい事実に気が付いてしまったぞ』


むくりと起き上がりゲ◯ドウポーズを取る


『私、こんな事やらかしたけど絶対罪に問われないわ……』


『人間にとって妖精の加護は有難いものだもんね』


『うぉっ!パフィ』


いつの間にか向かいの席で頬杖を付いているパフィ。あ、あざと〜〜〜可愛い〜〜〜好き〜〜〜


『まあ正確にはまだ加護掛けてないっぼいけど父様きっと喜ぶよ。()()、見せにいかないの?』


そう。何と私、今世は妖精なのである。ふぁ、ふぁんたじー。そしてこの世界では妖精信仰バリ強なので妖精が人の子を攫ったところで罪に問われない上に加護だなんだと有り難がられる。特に王侯貴族連中ね。嘘だろ正気か?なら問題無し〜ってか?ははは!なにわろとんねん。


『だめだまだ冷静になれてないぃぃぃ』


頭を抱える私を指差してパフィはきゃっきゃと楽しそう。うーん、無情。だが、攫ってしまった物は仕方ない、うん仕方ない。


『いや仕方ないんじゃねぇんだわ〜?!』


『わはは!』


その時、コトリと小さな物音に振り返ると背後の階段からそっとこちらをこちらを伺う我が推し。やだ…小動物じゃん一生推す。


『おはよう。よく眠れた?』


しかし話しかけても困った様に眉を下げる推し。あ、そうか妖精語(こっち)で喋ったから分からなかったのか。もう一度、今度は人間たちの言葉で眠れたかを聞けばそれはそれは丁寧な礼付きで返事があった。うーん固い。自分に可能な限り優しく見える笑顔で話しかけたと思ったんだけど推しは物凄く緊張していた。ちょっとショック。顔か?顔に威圧感があるからか?前世はどうだったか知らんけど今世の私ちょっとつり目だもんね……ま、気にしててもしょうがないからとりあえず降りてきて食事にしようと提案すればなぜか階段のほうにコソコソと戻り壁から顔だけ出した状態でモジモジする推し。えぇ〜なんで?


「あ、あの………」


「?」


「許しもなく話しかける無礼をお許しください。その、わたくしの服が今その……夜着で…………」


話をしながらもどんどん小さくなる声と真っ赤になる顔。あ、そうか。人間は夜着を他人に見せる事はないんだっけ?さらに言えば私は滅多に姿を現さない妖精だから何が失礼にあたるのか分からない上に普通に恥ずかしいんだろうな。しかし、うーーーん。私からしたら素っ裸でその辺歩かれようが気にしないんだけども。でも流石にそれは可哀想か。


「…………」


「あれま」


そして案の定パフィの顔を見れば表情が抜け落ちてまさに『無』。妖精の殆どが自分の興味ない人間なんてどうでもいいってスタンスだから仕方ないね。なんなら姿を消さないだけでも大分優しい。これは多分私がいるからだけど、何にせよ人間の普段着なんて私が持っている筈もないので夜着同様その辺の小さな妖精に声を掛けて適当に即席で作って貰った。デザイン?知らん知らん。可愛い物を見るのは好きだけど作り出すセンスは無いんだよ。君達にお任せで宜しく。


「で?」


小さな妖精達が即席で作り上げてくれた動きやすそうなワンピースを推しがおっかなびっくり持って再び階段を上がっていくのを見送っていると、パフィに呆れた様に尋ねられる。


「でって……何が?」


あ、あの子いいとこの御令嬢っぽかったけど1人で着れるのかな?夜は気絶してたから私が魔法でちゃちゃっとやってしまったけども。


「その人見知り。そのままいくの?まあ私は面白いからなんでもいいんだけど」


「うっ」


そう。そうなのだ。私は極度の人見知り。なので大好きな父様や仲の良い友人の様に慣れた人(妖精?)相手以外だとめちゃくちゃ人見知りを発動させる。でも何とかコミュニケーションを取ろうとした結果、なんだか尊大な喋り方になる。なんでやねん。


「泣きたい………」


「あはあは!ま、楽しかったし私は何でもいいや。それにあの人間も準備が終わったみたいだし。これ以上顔合わすのも面倒臭いから帰るね」


「えーーー帰っちゃうの?」


「あはっ!帰っちゃうの〜。ねぇ、寂しい?」


語尾にハートでも付きそうな可愛い顔で小首を傾げるパフィは本当に可愛い。いやまじで。


「寂しい〜〜置いて行かないでぇ〜!あと勢いに任せてお持ち帰りしちゃったけど正直まだ混乱してるから一緒にいてぇ〜〜〜」


恥も外聞もなくパフィに縋り付くと彼女は人差し指を顎に当てると少し思案顔で「んーー」と言った後に凶悪な顔で「い・や」と言い放つ。こ、こいつ……!私の反応で遊んでやがる…………!


「うぇーーん!でもそんな性格がひん曲がってる所もすきぃいい!!!」


「あーーーっはっは!馬鹿だねー!!!」


そして私の懇願も虚しく一切の躊躇なくパフィは無駄にキラキラしいエフェクトと高笑いを残して消えた。くそ……こんな演出しなくてもしれっとなんの影響も残さずに帰れる癖にパフィめぇ…………。はぁ、もう考えてても仕方ない。とりあえずどうしようかなー。現実逃避したいなぁ。


「ん?」


すると2階から降りてこようとする推しの気配とは別の気配を察知。そして私は知っている。その気配の持ち主が、私に大変都合よく動いてくれる人物であるという事を!!!なので私は!全力で!それに乗っかる!


「へーーーーーい!良い所に来たねアル!!」


バァン!と小屋の入り口を開くとそこには扉に手を掛けようとした格好のままポカンと口を開けた長身男性の姿。柔らかそうな少し癖のある金髪に所々黒のメッシュが入った何とも不思議な色合いの髪、クリクリとした羨ましい程のどんぐり眼は群青色。うむうむ、なんか思ったんよりはでかいけどやはり予想通りの人物だったらしい。しかし何故だか動かない。


「おーい、アル?アルバート?おぉーい」


手を目の前でひらひらさせるとやっと肩をビクッとさせるアル。大丈夫?今呼吸止まってなかった?


「リ……」


「お?」


「リィナさま…………?」


漸く動き出したかと思えば聞かせる気があるのかと言いたくなる程小さな声で私の名を呼ぶアル。私の妖精イヤーじゃなければ聞き逃すかもしれんぞ。もっと大きな声で喋りたまえ。ちなみに彼は私の数少ない『人見知りしない対象』である。


「うん。そうだけど何?あ、まって嘘でしょ私の事忘れた?そんな期間空いてないよね?あれ?え、どうしようもっかい自己紹介?」


なのに早速訪れる自己紹介(拷問到来)の危機。えぇ……それはやだなーでもアルの事は好きだしな……ここは一発、普段頑張らない自己紹介を頑張るしかないかと腕組みをしつつう〜んと上を向いて考えてみる。と、ズズッと鼻を啜る音。花粉症か?と思って見ればなんとそこには大号泣する長身男性。つまりアル。


「え゛!ちょ、どうしたどうした。妖精怖い?まって、あのね。アルバートはあんまり覚えてないかもしれないんだけどね、君が小さい時から私達何回も会ってるんだよ。それでね、えっと、君のお爺さんのお爺さんのそのまたいっぱい先のお爺さんにね。ここの小屋好きなだけ借りてて良いよーってね、約束をね、しててね。だから不法侵入者じゃなくて、えぇっと」


ズビズビと鼻を啜りながら肩を震わせるアルバート。やばい、反応が思ったんと違うぞ………


「あ――――――。んんん、とりあえずね、私…………悪い妖精じゃないよ。え、えへっ……」


ひぃん。もっとまともな事言えんのか自分。見ろ、私の言葉とひくついた口角に対してゆっくりと顔を上げたアルも「嘘だろコイツ」みたいな顔してるじゃん。


「ほ…………」


お、どうしたどうした青年よ。


「本物のリィナ様……?」


「ん?うん。本当のリィナ様だぞー」


「あ、本物……本物…………?今度こそ夢じゃない?」


えぇー!止まったと思ったのにまた「ううぅぅ」って感じで耐えるみたいに泣き出しちゃった。てゆーかこの子私と会う夢見てたの?可愛い奴め。しかしどうして号泣しているかの謎が今だに解けず、全然状況が理解出来んが余りにもズビズビと泣くので私の中にあったなけなしの良心が痛んで胸が締め付けられるぅ……こういう時ってどうすればいいんだっけ?妖精人生長過ぎて人間の子育てが全然分からん。え、頭?頭撫でればいいの?


「もう……」


「モウ?」


牛?牛さんなの?牛さんが欲しいの?え、連れて来れるけど牛いるかい?


などと、私が見当違いな事を考えていられたのはここまでだった。


「もおぉぉぉお!!!!!リィナ様!今まで!一体!どこに!行かれてたんですか!!!!心配したんですよ!そりゃあリィナ様は妖精ですからね、いつどこで誰と何をしようと自由です。でも『ちょっと散歩してくる〜』って言って5年も姿が見えないのは心配します!リィナ様の自由を奪いたくはありませんが散歩が5年かかるって何?!どこまでの範囲が散歩なんです?しかも貴女散歩の後に食べるからっておやつの指定までしてましたよね?!僕ずっと待ってたんですよ!何かあったんじゃないかって色々調べたり探し回ったけどそもそもリィナ様人前に全然出ないし!ご実家に帰られたのかと思ったけど今までは一声かけてくれてたから、それならやっぱり何か大変な事になってるんじゃないかって!心配!したんです!!」 


「ひぃえぇ……」


お気に入りの人の子の号泣にオロオロと出したり引っ込めたりする私の手をガッ!と掴んだと同時にギャンギャン泣きながら喚くアルバート。えぇ…ごめんじゃん。もし他の人間に同じ事言われても「は?だから?」しか思わないけどアルに言われたら何故か「それは………私が悪いな?」ってなるのはやっぱりアルのオカン味がそうさせるんだろうね。ごめんよママ……そして本当申し訳ない事にぜーーんぜん覚えてねぇわ。私おやつ指定した上で散歩〜って言って戻らなかったの?正直すまんかった。とりあえずよしよし……しようと思ったらまさかの背が届かなくなってたので下から顔を覗き込みながら握られた手をブンブン上下に振ってみた。めちゃくちゃ泣いてたけど最終的に「でも、ご無事で何よりです」って涙でぐちゃぐちゃになった顔で泣き笑いされたらきゅんきゅんしちゃう…愛犬(多分前世も合わせて犬飼った事無いけど)が長期間放ったらかされてたのにも関わらず尻尾ブンブン振りながら駆け寄ってきてくれた時ってこういう気持ちになるのかな……


初めて会った時は出産途中の血みどろ状態だったんだよね確か。結構難産で、母子共に危ない切迫した状態の所に私がふら〜っと所用で行って、あれ〜何してんの〜?って…………前世思い出した今改めて考えると殺意抱かれてもおかしくない発言してるな私。確かその後お気に入りの一族だし、小屋にジャーキー食べたいから置いておいてってお願いする為にちょろっと力を貸してあげたんだっけな。そしたらアルの一族内での私への崇拝みたいなのが更に高まっちゃってちょっと鬱陶しかったんだわ。つまり、アルはジャーキーによって助かった、と。まじで最低だな私。いや妖精みんなこんなもんだけども。あれ、なんでこんな事考えてたんだっけ?


「えっと、リィナ様はこの後も暫く小屋に留まられるご予定ですか?」


ぼさーっと思い出に耽っている所をアルの一言で覚醒する。そうそう、推しちゃんよ推しちゃん。彼女連れてきたはいいけど具体的にどうするかとかぜーんぜん考えてなかったもんだから困ってんのよね。自業自得だけども。で、そこで一家に一人欲しい優秀なアルバートさんですよ。この子に任せておけばとりあえずなんかいい感じにしてくれるというこの安心感。そして私がますますダメ妖精になる。あれ……?これ自分の首絞めてる……?


なんにせよ前世の知識が蘇ったとはいえこんな穴ぼこ知識では割と冗談ではなく推しちゃんをころっと壊してしまいそうなのでどうすればいいかなーって相談してみる。完全アルの家かその傘下のお家が引き取ってもいいけどとりあえず本人と話がしたいというのでご対面。


「初めまして。わたくしリッフェルナ王国のルシアナ・アルベルティーニと申します」


ほぉ〜綺麗なカーテシーだあ〜と推しちゃんの自己紹介を聞いている私の隣で推しちゃん改めルシアナの名前を聞いた瞬間笑顔のままでギシッと固まるアルバート。なんや、可愛すぎたんか?とアルを見上げて首を傾げるとギギギっと錆びたロボットみたいな動きをしたかと思えばルシアナに最低限の自己紹介と退出の旨を伝えて部屋を出てしまった。私の首根っこを捕まえて。




「リィナ様……」


「え、どうしたのアル。やっぱり人間拾ってくるのはまずかった?でもなんかあの子の婚約者も家族もあの子の事いらなーいって言ってたんだよ。なら可愛いし、私が貰ってもいいかなって思ってね?でも流石にまずかった?いやまずいよね?でも欲しいなーって本能が勝っちゃったの」


とりあえず首根っこは離して貰えたが両肩に手を置かれて思ったより圧が強い。やっべ言い訳しなきゃとよく分からん事を口走るとそこには笑顔なのに目が笑っていないアルの顔。やだこわい。


「ちなみに、その拾ってきた場所は覚えていますか?」


「え、なんだっけ。なんかパフィに無理やり引きづられて行ったから国の名前わかんない。でもなんかでっかい建物だったよ。お城かな?」


私の回答が納得のいくものだったのか私の肩に手を置いたまま更ににーっこりと笑みを深めたアルはもう一度静かに「リィナ様」と言い聞かせる様に私の名前を呼ぶ。


「それは!隣国の!王城!!!そして彼女は!そこの!国の!公爵令嬢!!!」


「お、おう…………」


だからどうしたんかなと思えばくどくどと始まるアルのお説教(説明)によればルシアナのいたリッフェルナ王国というのはこの小屋があるアルの国とは妖精達への考え方が違ってうんぬんかんぬん……簡単に纏めるとアルの国は妖精信仰が強くて『妖精様大好き!もう存在が尊い!』みたいな感じで、ルシアナの国では「我が家はこんな妖精に加護を貰ってるんですよすごいでしょ?」みたいな感じで妖精の加護=家門のステータスというかアクセサリーみたいな感じでアルからすればもう存在が不遜祭りらしい。笑う。


でも確かに妖精として生きてて何回かそういう『加護よこせ〜』的な面倒臭い感じの事を偉そうに言ってくる輩が居た……気がするな?相手にするのも面倒臭いから適当に黙らせて(物理)たけど成る程。あんまり国を気にして無かったけどもしかしたらそのリッフェルナ王国とやらだったのかもしれないね。で、だ。今回私が王城というとってもとっても人目のある場所でルシアナをお持ち帰りした事できっと都合の良い解釈をした国は「うちの国の公爵家のひとつか大妖精様に加護を授けられましたよ!」と下手すりゃ諸外国にアピールして勝手に私の存在を使う可能性がある、と。


「え、どうでもよくない?」


人間の世界の事なんて知らんし。と思って首を傾げたら


「どうでもよくない!」


って半泣きで返された。アル涙腺弱いね……。


「でも実際加護なんてあげてないのに?そういうのキョギシンコクっていうんじゃないの?」


「それはまた別では……?いやそうじゃないんですよ!リィナ様の名を勝手に利用するなど言語道断。そもそもあの国は妖精に対して礼儀がなってない!リィナ様に無礼な事をしても許されるのは僕だけでいいんです!不快。とても不快です!徹底抗議です。とりあえずうちの商会はあの国ともう取引しません」


「ひぇえ……めっちゃ怒る……まだやらかすと確定した訳でもないのに」


うちの子(アル)、過激派問題。とりあえずなんとか宥めて(ぷかぷか浮かんでよしよしした)様子見よ?そんでルシアナ丸投げしていい?って聞いてみた。物凄く不貞腐れてたけど最終的に折れてくれるって信じてた。


✳︎✳︎✳︎


「と、いう訳で貴女の身柄は我がマルシェイナ商会が保護致します。詳しい事は担当の物を付けますのでまた後程。」


そういって秘書だか補佐だかの人にルシアナを押し付ける様にして小屋からさっさと追い出したアルは残った私と小屋を見比べ満足そうにひとつ頷いた。


「ではリィナ様、お忙しいとは思いますがお茶がてらこれからの事をご相談したいのですが」


宜しいですかとにっこり笑うアルの手にはいつの間にかジャーキー。ジャーキー!!!なにそれなんかいつものより美味しそうじゃん!見た事ないやつじゃん!!!!そして何も言わずとも私の反応を見て小さく笑ったアルはすぐにお茶の支度をしてくれた。有能。


「成る程。では先程のルシアナ嬢はあくまで観賞用で加護を与える為に連れてきた訳でも無ければ愛し子にするつもりもない、と?」


「うん。特に何も考えずにっていうか衝動的に連れてきた。あとあれだな、パフィの悪ノリもだいぶ入ってた」


まあ軽い加護くらいならあげてもいいけど私妖精の中でかなり上位だからな……多分人間に加護あげると強すぎて毒になりそうなんだよね。あとアルが拗ねそう。それはいけない。

 

「ああ、リィナ様のご友人の毒華の君ですね。成る程、確かにあの方は我々の中でも刹那的な生き方をされるというお話を聞きますしね」


「うん、ただの愉快犯だよね。今回に限っては私人の事言えないけど」


もう本当、転生の事で頭パァン!ってなってたからね。大分冷静じゃなかったよね。いくら妖精ライフ長いからってその後の面倒とか何にも考えなかったからね。


ちなみにアルの言っている『加護』と『愛し子』の違いをきちんと知っている国はあまり多くない。何故ならどっちも妖精とある程度仲良くないと教えて貰えないから。加護は強弱はあれまあ意味はそのまま加護だ。付与する妖精の種類等にもよるがざっくり言うとその人間の守りが強くなる。病気になりにくかったり怪我が治りやすかったり。それに比べて愛し子は付与する妖精の能力の一部を使えたり、妖精の名を呼んだり、直答する権利や触れる権利を持つ。この2つの大きな違いは『妖精が対象を手元に置くか否か』だ。加護は小さくまだ未熟で無邪気な妖精ならば割と与える事があるが愛し子は違う。その性質故に絶対数が少ないし、そもそも人間相手にそこまでしてあげたいと思う事の方が少ない。


そしてここまでの話の流れで分かるように、私の目の前で嬉々として今回のジャーキーの説明をしてくれているアルは私の愛し子だ。名を呼ぶ事も触れる事も許しているので遠慮なく名前を呼んでくるし小さい時から手も握ってブンブンしてくる。可愛い。


最初は別にそんなつもりは無かったのだがなんせ出産を気紛れに手伝ってしまったのでその時に子供の方に加護がかかってしまい、まあそれはそれで別に困らないからいいかなと思ったものの初めて加護を授けた人間だったので様子を見ているうちに愛着が湧いて愛し子に……あれ?転生ショックで頭パァン!ってなる以前から私もしかして割と適当……?


「リィナ様、新しく作らせたジャーキーのお味はいかがですか?」


聞かれたので目を向けると隣の席にはにこにこと、とても幸せそうなアル。そして私の手には齧りさしのジャーキー。それを更に一口齧る。ふむ。


「おいしい」


「よかったです」


ジャーキー美味しいからまあいっか!


 


この後アルにめちゃくちゃコミュ症改善特訓される。

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