ドライブ日和
「おう、夏だぜ。」
私はかの、かまきりりゅうじ君になりきってハードボイルドに呟いた。これはキマった。
タイミングよく青に変わった信号機にウインクをしてアクセルを踏み込む。炎天下の道は空いている。ギラギラに輝く逃げ水を目掛けて、私の青い車は滑っていく。
全開のエアコンの風が私の前髪を靡かせる。私の愛車がオープンカーだったならさぞかし恰好良かったのだろうが、暑さ寒さに弱い私はきっちり閉じた走る密室で快適にハンドルを握っている。
おや、ガソリンが減っている。私は他に誰もいない直線道路で方向指示器を明滅させると、勿体ぶったような緩やかさでガソリンスタンドに滑り込み、すっかり高価になってしまったレギュラーガソリンを二千円分だけ給油した。
給油してある間、ガソリンスタンドの高い屋根に営巣した鳥の鋭すぎる鳴き声を聞いていた。いったい何の鳥なのだろうか、残念ながら私には判別することは出来なかった。
再び走り出す。心なしか元気になったカーラジオから、ユーミンが流れてくる。これは素敵だ。理想的なドライブだ。もっとも、この田舎道には、競馬場もビール工場も見えはしない。フリーウェイでもない。ただの県道だ。スーパー銭湯と透析病院の間をすり抜けて国道を目指す。
乾いた風が吹いている。マンションのベランダの白い洗濯物たち、薬局の赤い幟旗、県立高校の部活動応援の垂れ幕、さまざまな色彩の布達が夏風を目一杯に受けて、膨らみはためき踊っている。
夏が、町に満ちている。
眩い光が満ち溢れる町を、私は孤独な彗星のように真っ直ぐ静かにどこまでも走ったのでした。