第八話 『崩れた仮面』
第八話です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
、、、空が綺麗だなぁ。
熊谷からの爆弾発言を聞いていろいろと限界を迎えた俺は現在こうして空を見上げて現実逃避をしていた。
とは言え、いつまでもこうしてる訳にもいかない。そう考えた俺は幾分か冷えてきた頭を回転させ始めた。
さて、熊谷がいきなりとんでもない事を言い始めた訳だが、、これはもうとりあえず否定はせず一旦無理やり納得して受け入れよう。そもそもこの島に来た経緯も島そのものも謎だらけなのだ。そこに謎が一個増えただけの事、今更だ。
熊谷は未来を知っているではなく五回目だと言っていた。
つまりは未来予知とかではなくタイムリープして同じ経験を何度も繰り返していると言う事だろうか?、、、いや、この場合ループか?細けぇ条件とか知らねぇや。まぁ、いい。なんにせよSFやファンタジーみたいで素敵じゃない。嫌いじゃないよ、そう言うの。俺も魔法とか使えたりしないかな〜。
、、、いかん。真面目に考えないと。
再び無意識に現実逃避を始めた事に気が付き慌てて無理矢理意識を引き戻す。
とりあえず熊谷にそう言う能力がある、、と仮定して考えよう。
腑に落ちる点は、、、あるなぁ、、マジかよ。
まず昨日の味方になる発言。後は目が覚めた直後、熊谷は「俺が″最後″」と言っていた。普通に、″順番的に俺が最後に見つかった″と言う意味にも受け取れるし実際普通にそう解釈していたが思い返してみればその後、熊谷は他の生き残りを探す素振りすら見せなかった。じきに夜が来るのも事実だったしその時はさほど違和感も抱かずそのまま流していた。でも、「このメンバー以外に人がいない事を知っていた」のだとしたら?
それに、なんとなく頼り甲斐のある奴だなあとくらいにしか思っていなかったが、既に何度か経験した出来事なのだとしたら、、あの落ち着きようなのも頷ける。
流石にこじつけすぎか?まぁいい、どうせ考えたって答えは出ない。とりあえず、話を聞いてみよう。
「、、、それが本当だとして、なんで俺に話す?流石にそう簡単に信じられる話じゃないのは理解してるよな?グループを抜け出してまで俺についてきた理由は?」
俺が立て続けに問いかけると、熊谷の表情が崩れた。今までの無表情から一転、泣きそうな表情を浮かべた熊谷はぽつりぽつりと答え始めた。
「ついてきたのは、、渋谷君があの場で一番頼れると思ったから、、わたしと違って、渋谷君はとても冷静だったし、、、話したのは、、もう、私一人じゃどうしていいのかわからなくて、、助けて欲しかったから」
熊谷が下を向きながらそう答える。
、、、もしかして、落ち着いて見えてたのは既に経験済みの出来事だったからリアクションが薄かったってだけでこっちが本来の熊谷なのか?
そんな感想を抱いていると熊谷はこちらを見つめて絞り出すように口を開いた。
「お願い。助けて、渋谷君」
絞り出すようにそう口にして今にも泣き出しそうな様子の熊谷にハッとした俺は慌てて声をかけた。
「わかった!正直、混乱しまくってて訳がわからないけど、、まぁ。できる限り力になるよ。だから落ち着いて話してくれ」
肩に手を置き、なるべくゆっくり喋るように心がけて話しかけると幾分か落ち着いたのか熊谷は頷くと口を開き始める。
「多分、、、私は今日、これから殺されて死ぬ、、と思う。 これで五回目だけど、一回も三日目を迎えてないから」
、、、、″殺される″とはまた随分と物騒な話になってきたな。
「、、、多分ってのはどう言う意味だ?」
浮かんだ疑問をそのまま投げかける。
「一回目は、いきなり突き飛ばされて高いところから落ちて、殺された、、、と思う。落ちる直前、背中に衝撃を感じたから、、」
熊谷はその時の事を思い出したのか身震いして顔色を悪くしつつも言葉を続けた。
「もちろん悪い夢だと思った。そして二回目は、二日目の夜眠りについて気がついたら最初の海岸に戻ってた」
「、、、、、、、」
、、、無言で聞きながら俺は熊谷の話を本当の事だと感じ初めていた。
普通なら鼻で笑うような内容だが、理由は、、あの夢だ。熊谷の話を聞いていて一日目、海岸で目覚める前に見ていた夢を思い出したのだ。
色々と怒涛の展開すぎてそのまま忘れてしまっていたが、、凄くリアルな夢だった。生きたまま獣に喰い殺されるという最悪の悪夢。あれは、もしかして、、、
俺が難しい顔をして考え込んでいると熊谷は不安そうな顔をしながらも続ける。
「三回目、流石におかしいと思った私はみんなに話したけど当然信じてもらえなくて、結局二回目と同じように二日目の夜、眠って目が覚めたら戻ってた」
俺は黙って熊谷がこれまでに経験して来た事を聞く。
「四回目は、今回と同じように渋谷君に打ち明けた。でも、話は聞いてくれたけど信じてくれなくて、、、結局、2人で歩いていた時に後ろから突き飛ばされて意識を失った、、、と思う」
、、、なるほど。突き飛ばされた記憶はあるが確証がないから″多分″という訳か。
「つまり、一回目と四回目の経験からお前は、実は毎回自分が殺されて死んでいてそれがループのきっかけになってるって思ってるって事か?」
俺の問いに熊谷は俯いて答える。
「、、、うん。一回目の時も助かるような高さじゃなかったし、、その、、、地面にぶつかる瞬間の事もハッキリと覚えてる。最初はただループしていると思ってたんだけど、、四回目、何かに突き飛ばされた事もあって、もしかしたら毎回何かに殺されて死んでいて、それがキッカケでループしてるんじゃないかって思い始めて、、、」
そこまで口にして熊谷は何かに気付いたようにバッと顔を上げる。
「、、、信じて、、くれるの?」
熊谷は信じれないと言った表情でこちらを見つめてくる。
信じてくれと言ったのは自分だろうに、、、。まぁ、四回目?の俺は話を信じなかったらしいし当然の反応か、、、。
「完全に信じた訳じゃない。、、でも、お前の言ってる事に、少し心当たりがあるしな、、」
俺がそう答えると熊谷は不思議そうに首を傾げる。
「、、、心当たり?」
そう聞いてくる熊谷に夢の話を話す事にした。
「今の今まで夢だと思ってたけど、、、実は俺も一回死んだ記憶があるんだ」
「、、、ッ!?覚えてるの!?本当に!?」
俺の口にした内容に熊谷は目を見開くと興奮したように俺の肩に掴みかかって来た。顔が息がかかるほど近くにある。
「熊谷みたく目覚めてからの記憶が全部ある訳じゃないしその一回きりだけどな。それより、一旦落ち着いて」
俺がそう口にすると熊谷はやっと顔が目と鼻の先にある程接近している事に気がついたのか耳まで真っ赤にして慌てて離れた。
、、、やっぱり、こっちが素なんだろうなぁ。思っていたよりも表情豊かな奴だ。
「、、、ごめん」
熊谷は顔を赤くしながら謝ってきた。若干気まずくなった空気を変える為にも俺はパン!と手を叩いてからそれよりも、、と会話を切り出す。
「熊谷の言い方からすると毎回起きる出来事は違ったんだよな?それと、少なくとも突き飛ばされたって記憶のある一回目と四回目、近くに誰かいたか?」
俺の疑問に熊谷は記憶を辿るように視線を彷徨わせる。
「細かい部分は違ってたけど、、毎回必ず起こることもあった。、、、渋谷君が下着泥棒って疑われたりとか。あと一回目から三回目は近くに誰もいなかったはず、、、四回目は渋谷君がいた」
毎回下着泥棒扱いされてんのかよ、俺、、、まぁいい。
″夢″の内容から、最初から可能性は薄いと思っていたが俺達以外の誰かが突き飛ばした、、と言う可能性は低いだろう。というか、その場合突き飛ばされるのは熊谷じゃなく俺だろう。随分と嫌われてるみたいだし。
となるとやはり俺の記憶にもある野性の動物か、、、あまり考えたくはないがわざわざ崖から突き落とされた事を考えると、俺たちをここに連れてきた人間が潜んでいる可能性も否定はできない。でもその場合なんで今更だ?殺せるタイミングなどそれこそいくらでもあったろうになぜ一日おいた?
あと、一回分だけ俺に記憶があるのはなんでだ?今までの話を聞いた上で俺だけが何か特別な事をしていたか?、、ダメだ。なんせ、記憶がない。唯一残っているのも死ぬ直前、夢と勘違いするほどのわずかな記憶だけだ。熊谷に以前までの俺の様子を聞こうにも一緒に行動したのは″4回目″だけらし、、、、まてよ?もしかして、熊谷の近くにいた事が条件、、か?
しばらく考え込んだ俺はその可能性に思い至りあの″夢″の事を思い返す。
、、、いた!。視界がぼやけて誰かまではわからなかったが、命が尽きかけているあの瞬間、俺の傍に倒れている人物が確かにいた。熊谷の証言と照らし合わせるならあれは″四回目″の記憶という事なのだろう。
四回目、共に行動していた俺達はいきなり野生動物に襲われ、熊谷は突き飛ばされ地面に倒れた際に頭でも打ったのか意識を失って、、、そのまま喰い殺された。そしてその際、熊谷の近くにいた事で俺にも一部記憶が引き継がれた、、、と。
なにもかも推測の域を出ず、確証なんて一つもないが、そう考えると一応話の筋は、、、通る。
「確認だけど、″4回目″以外のループ直前、誰かと一緒にいた事はあったか?」
「それは、、なかった。″1回目″の時は1人だったし、、それ以外の時は空気が険悪だったから少し離れた位置で寝てた。、、、流石に危ないし何かあったらわかる位置にはいたけど、、近いとは言えなかったと思う」
「、、、、、、、、」
俺はしばらく無言で考えをまとめると口を開く。
「よし、戻ってアイツらと合流しよう!」
俺の言葉にポカンとした表情を浮かべた熊谷に問いかける。
「ソレが元々熊谷が持ってた力なのか、それとも訳の分からねえ現象に巻き込まれてそうなったのかはわからない。とにかく、本来熊谷だけが持ってるはずの記憶を一回分、それも死ぬ瞬間の極一部だけ俺も覚えてる。なんでだと思う?」
「それは、、、わからない」
困惑した表情のまま答える熊谷に俺は「あくまで推測だけど」と前置きしてから口を開く。
「熊谷の側にいた事が条件とは考えられないか?」
俺がそう答えると熊谷はハッとした表情を浮かべる。
「確かにそれなら、、、でも、、どうしてそんな事に」
疑問を口にする熊谷に苦笑いしつつ俺は答える。
「この件に関しては、熊谷本人にわからないなら多分他の誰にもわからないだろ。それより、問題はこれからどうするかだ」
呆然としている熊谷に言葉を続ける。
「俺が言った通りだと仮定すると、側にいる事でアイツらにも記憶を残せる、、、可能性がある。確証はないけど試してみる価値はある、違うか?」
話してどうにかなるのかと言われたら解答に悩むところだが、それでも万が一今日を乗り越えられなかった時、″次″アイツらに事態を把握させる為の土台が残せる。
俺が問いかけると熊谷は不安そうな表情になり俯いてしまう。そんな熊谷に俺はなるべく安心させるように声をかける。
「もちろん死ぬつもりはない。けど打てる手は打っておくべきだ。だから、戻ろう」
熊谷が困惑しつつ頷いたのを確認した俺は、来た道を引き返しながら盛島あたりが絶対うるさいだろうなぁ、、、と考えていたその時。
ーーーーータスケテ。
声が、聞こえた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
やはり2000文字に抑えるの難しい、、
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