第五十話 『竜神の力』
長らくお待たせ致しました。
頻度は高いとは言えないと思いますがこれからまた投稿を再開していこうと思いますのでお読み頂けたら幸いです。
「お前なぁ、、魔力消すなら一声かけてくれよ。死ぬ程焦っただろうが、、」
緋月の元に転移を行い、横に並び立った俺がそう不満を垂れると緋月はこちらに顔を向けてカラカラと笑いながら口を開いた。
「すまんかったのぅ。一瞬の事じゃし、下に″足場″もたくさんあったじゃろ?故に、お主ならどうとでもすると思ったのじゃ」
「、、ハァ、、まぁ、いい。それで?禁域だとかなんだとか言ってたけど結局今のはなんだったんだ?」
「ふむ、、周囲の変化で何か気づく事はないかの?」
「、、何かって、、んな漠然と、、」
問いに問いで返された俺はブツブツと文句をたれながら改めて周囲に意識を向けてみた。すると、動揺から抜け出し心が落ち着いた事で新たに気付ける事があった。いや、正確には思い出した。
「、、、、、、あの島の空気に、、似てる?」
「正解じゃ。あの島と同じようにこの一帯を妾の領域としたのじゃ。まぁ、数百年の時をかけてゆっくりと大地に妾の魔力を染み込ませたあの島と違い、先の一瞬で無理矢理押し付けたものじゃから、あくまで簡易的な物でそう長くは持たぬし出来ることも限られておるがのぅ」
なるほど、わからん。魔力を押し付けるってなんだ?ただ物理的に魔力で圧迫すればいい訳ではないのは先ほどのあの感覚からなんとなく理解できるが、、、というかそれで、、、
「、、それでつまり、どうなるん、、、お?」
浮かんだ疑問をそのままぶつけようとした直後、それまでヘビに睨まれたカエルのように微動だにしていなかった魔物たちに動きがあった。俺たちが呑気に会話を始めたことで緩んだ空気を察したか、単純に恐怖に耐えきれなくなったのか、もしくはその両方か、1匹が逃げ始めたのを皮切りに堰をきるように一斉に逃げ始めたのである。
まずい、、と内心思った。
殺意を持ってこちらに向かってきてくれる先程まではまだ良かった。だが、この数の魔物に四方八方に逃げられてはとても処理仕切れない。少なくとも″街に被害を出さずに″は到底不可能だ。
奴らの逃げた先にもまた別の街がある。
故に見逃すという選択肢はない。
考えろ、どうする?
やはりまとめて消し飛ばすか?
いや、、それだと地上の魔物が対応できない。
なら『誘引』を掛け直す?恐慌状態の相手に?
ああ、、クソッ!!何か手は、、、
「、、大丈夫じゃよ」
内心盛大に焦りまくる俺の心情を察したのか緋月は優しく微笑みながら俺に声をかけ、その場から一歩前へ出た。
「この一帯は既に妾の領域じゃ。これ以上何もさせぬし、1匹たりとも逃しはせぬ」
そう口にしながら、まるで天から何かを受け取るように両手をそっと頭上に掲げた緋月。
そしてその直後、俺は言葉を失った。
「、、、な、、」
ただ呆然と声を漏らす俺の視線の先、手を掲げる緋月の上空にまるで血を垂らしたかの様に赤い月が浮かんでいたのだ。
なんの前触れもなく、唐突に、まるで最初からそこにあったかのように現れた月。
それを目にした瞬間、背筋が凍りついた。
ーーわかってる。
状況的にアレは明らかに緋月が出現させた物で、その緋月は俺や下にいる人間たちに害を及ぼすような事をするような奴じゃない。出会って数ヶ月の仲だが、それは断言できる。そもそも、俺たちが不在の中ここまで一人で街を守っていたのは他でもない緋月なのだ。ここにきていきなり掌を返す理由がない。
ーーわかってる、、はずなのに悪寒が止まらない。
押し潰されそうなほど大きく、ただただ純粋な力の塊。その圧倒的な存在感に理屈じゃなく生物としての本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。
そしてそれは、どうやら俺だけではないらしい。先程まで我先にと逃げ出そうとしていた魔物共も圧倒的な力の顕現に再びその足を止めている。
誰もが動けない中、″月″はしゅるしゅると風船から空気が抜けるように萎んでいき、やがてテニスボールくらいのサイズまで小さくなって緋月の手に収まった。
しかし、魔力を感じ取れる俺にはわかる。アレは小さくなっただけだ。その内に内包されたバカげた魔力は欠片も衰えちゃいない。むしろ、圧縮された分よりヤバい。あんな物がもし暴発でもしたら、、、
俺が内心戦慄していると、小さくなった″月″を受け取った緋月は大切そうに一度胸の辺りで抱いた後、手を前方に掲げ、少し傾けてそっと″月″をその手から落とした。そしてゆっくり、ゆっくりと落下していく″月″を見つめながら、ポツリと呟いた。
「『終ノ月・緋月』」
直後、世界から音が消えた、色が消えた。否、正確には、燃え盛る焔の様な緋色だけが残った。
視界一面を一色に塗りつぶす緋色を見て爆発したあの″月″に飲み込まれたのだと理解した俺は慌てて自分の身体を確認する。視界が塗りつぶされていて目視では確認できないが、、どうやら五体満足だ。この焔も熱くはない。むしろちょうど心地よい程度の暖かさだ。
しかし周囲の状況がわからない。魔物は?人々は?街はどうなった?
そして、とても長く感じたが時間にしておそらく数秒後、徐々に色素が薄まる感じで周囲の景色が視界にうつりはじめ、再び俺は絶句した。
街は無事だ。無事とは言っても、魔物の被害にあって損壊した建物はそのままだし、未だに至る所から火が上がり黒煙が立ち昇ってはいるがそれは魔物による被害であり元からだ。少なくとも街ごと消し飛んだりはしていない。人も、建物の窓や屋外で立ち尽くしてこちらを見上げてきているのが確認できる。
そう、確認できるのだ。
先程まで地を這いまわり、空を埋め尽くさんとする程の夥しい数がいた魔物達がまるで最初からいなかったかの様に忽然と姿を消していた。
そのあまりの結果にただただ呆然としていると、眼科で爆発が起きた。正確には、そう錯覚するほどの歓声が湧き上がった。魔物の脅威が去ったことで恐怖から解放された住民達による歓声だ。地上までそこそこ距離があるのでうるさいと言うことはないが、オーケストラのコンサートのように肌で音の圧を感じる。
、、え?、、お、、終わった、、のか?
あまりにあっさりしていて現実味がまるでない。
、、というかちょっと待て。
俺は今もなお鳴り止まない歓声を耳にしつつ盛大に頬を引き攣らせ、チラリと横に視線を送って「ふいー、、なんとかなったのぅ」等と呑気にほざいている″規格外″へと声をかけた。
「お、、おまえ攻撃は苦手とか言ってなかったか?」
「うん?攻撃などしておらぬよ?アレはまず妾の領域を展開して、その中におる不純物を弾いただけじゃ。故に″攻撃″ではなく″拒絶″した、が正しい表現じゃの」
「、、弾いた?てことは魔物共はどっかに飛ばされただけで生きてるって事か?」
「いや、1匹残らず死んでおるよ?魔物共が這い出ておった″孔″も消し飛ばした故、しばらくは大丈夫じゃろう」
「、、、、、、、、、」
そ、、それを世間一般的には攻撃と言うのでは?
少なくとも喰らった側は間違いなく攻撃されたと思うだろ。もっとも、あの一瞬で魔物共にそれが認識できたかどうかはかなり怪しいところだが、、
まぁ、、なんにせよあれだけうじゃうじゃいた魔物が綺麗さっぱり消えて次も湧いてこないってんならありがたい事だ。
本当にあっさり過ぎて現実味は未だに湧いてこないが、、
「、、、、とりあえず牧瀬さんと合流して、、後は仁千佳達も迎えに行かなきゃな、、」
とは言えどうしようか?スマホは未だ通じないだろうし、連絡手段がないと街中から人1人探し出すのってかなりめんどうだぞ?、、向こうはこっちに気付いてるだろうしサイン代わりの魔法でも打ち上げてみるか?、、、、ん?
俺がどうやって牧瀬さんと合流しようかと考えているとふとこちらに向かって高速で接近してくる存在に気がついた。
もしかしなくても、目当ての人物だ。
地面を走っているというわけではなく、どういう訳か一直線にこちらに向かって飛んできている。未だ上空にいる俺たちに向かって、だ。
それにしてもこの飛び方、、、まさか普通にジャンプして来ましたなんて言い出さねぇだろうな、、
そんな事を考えつつ盛大に顔を引き攣らせていた俺に鬼のような形相を浮かべた牧瀬さんが声を張り上げた。
「足場ァ!!」
「っ!!、、あ」
いきなり飛んできた指示に咄嗟に対応した俺だったが、直後小さく声が漏れた。
まずい!いきなりすぎて垂直においちゃった。これじゃ足場というより壁だし、あと色もつけ忘れたし弾力も付与してねえ。このままだとぶつかっ、、、
ガァン!!!
「状況を説明しろ」
「普通にドン引きしてます」
「ア゛ァ゛!?」
簡潔に出された問いにこれまた簡潔に答えたらえらいドスの効いた声で凄まれた。おぉ、、怖。
いや、だって、、考えてみても欲しい。
ぶつかると思った瞬間、くるりと身体を捻った牧瀬さんは足から″壁″に着地。直後重力に従い身体が落下し始めるが即座に″壁″の上の部分をガシリと掴んで現在、″壁″に張り付きながら何事もなかったかのように喋りかけて来ている状況だ。
ね?ドン引きでしょう?
「、、、、、、、、、、」
チラリ、と壁を設置した辺りに目線を凝らして見るがやはりなにも見えない。そりゃそうだ、透明なんだから。そして、魔力でどこにあるのかはわかるがこうなってしまっては″正確な″サイズまでは俺にも分からない。せいぜい大雑誌な形がわかるのと、「大体このくらいのサイズで作ったなぁ」という記憶から″予測″できる程度だ。
「、、、、、、、、、、」
なぁ、アンタ本当に魔力を感じれないし、見えてもないんだよな?少なくとも出現させた本人には見えてねえぞクソッタレが。
それに100歩譲って着地まではまぁ、いい。どうせお得意の感とか言うワケのわからねぇ超特殊技能でそこに何かあると気付いたんだろうさ。
でもその後の伸ばした手はなんだテメェこの野郎。それは″そこ″に掴めるところがあるとわかってないと出ない行動だよなァ?
なんで壁の形まで細かく正確に把握できてんだよふざけんのも大概にせえよこのボケカスが!!
、、と叫びたい気持ちをグッと堪えた俺は色々諦めて口を開いた。
「はぁ、、、どうもこうも見てたでしょう?緋月のおかげで魔物は全滅。増援もしばらくはないそうです」
「そうか、、、なら、、お前は今村たちの元へ向かえ」
珍しく言い淀むような様子を見せた牧瀬さんの言葉に俺は目を丸くする。牧瀬さんが言い淀む、というのも珍しい、、というか初めて見たし発言の内容自体も意外な物だったからだ。
「、、、そりゃああいつらの事も心配ですが、、俺と緋月は街にいた方がいいのでは?緋月の言い方だと魔物が出てくる″孔″とやらはまたいつ開いてもおかしくないっぽいですよ?な?緋月?」
「うむ。″孔″は確かに潰したがそれを開いておる術者の方は妾の領域内におらなんだ。妾がおる以上、先程の二の舞になるだけじゃからおいそれと開けてはこぬじゃろうが、、術者が現在である以上、また繋がる可能性は否定できぬのぅ」
俺が牧瀬さんの指示を否定する形で意見を述べ、緋月によって正当性の補強が為された。
実際、間違ってないはずだ。特に問題が起きてなければ、今頃もうニチカ達はこちらに向かってとっくに移動を開始している頃合いだろう。そりゃあ確かに、自分を卑下する気はないがこの場に俺が必要かと言われたら必要はないだろう。ぶっちゃけ、既に領域を築いてる緋月1人で充分だとは思う。だが、ニチカ達とすれ違いになるリスクを考えたらやはりこの場に止まるほうがベターだと思うのだが、、、、どうやら牧瀬さんはそうは思ってないらしく難しい顔をしたまま口を開いた。
「いや、行くのはお前1人だ。竜神様と私は街の守護に当たる」
「、、、そこまで言うなら従いますけど、、理由を聞いても?」
「嫌な予感がする」
短くそう答えた牧瀬さんの言葉に俺は苦い表情を浮かべた。
嫌な予感、、、か。普通なら気にしすぎだと笑うとこだが、、この人のソレはまったく馬鹿にできない。むしろ、今ので俺の中にも焦燥感が生まれた。
向こうの街も似たような状況になってるのか?いや、、それなら牧瀬さんに報告が入ってるはずだ。
だとしたら仁千佳達を狙ってる?なぜ?
いや、、考えても仕方ねえ。それに仁千佳達だって牧瀬さんからの魔改造を施された今、そう簡単にやられるタマじゃねえ。
大丈夫。落ち着いて合流を目指そう。
そうして頭の中で整理をつけた俺が動き出そうとした直後だった。
「「、、、ッ!!!」」
俺と緋月の2人が弾かれたように空を見上げた。
「、、、なんだ?どうした?」
そんな俺たちの様子に気付いた牧瀬さんが声をかけてくるが反応を返すことができない。
その理由は2つ。
まず、単純に不意に訪れた異常事態に思考が硬直した事。そして、その異常事態を言語化する事が出来なかった事だ。
明らかに異常事態だと認識しているのにそれを言葉にできない。
それでも無理矢理言語化するのならば、、、″嫌な感じ″だ。
周囲の環境に変化があった訳でない。身体に異常もない。でも、確実に何かが起きた。
ただの絵を見てなぜか不安になった時。
自分が今何かを忘れている気がする時。
夜、家に1人でいる時に自分以外の誰かが潜んでいる気がする時。
自身の将来を考えた時。
そのどれとも違うが、けれど似たような漠然とした不安や恐怖、焦燥感がねっとりと脳裏にこびりついて離れない。
要するに、とにかく物凄く″嫌な感じ″がする、、だ。
「おい、、黙ってねぇで、、」
「、、来たのじゃ」
答えを返す事が出来ずにいる俺に痺れを切らした牧瀬さんの言葉。それに被せるように呟いた緋月。
「、、なにが起きた?、、、なんだ?これは」
「″統合″が始まったのじゃ。、、やられたのぅ、この襲撃は陽動じゃった訳じゃな」
「、、は!?これがそうなのか!?なら止めないとまずいだろ?どうすんだ!?」
特に焦った様子もなく悠長にそんな事を言う緋月に焦って詰め寄る俺だったが、そんな俺を嗜めるように緋月は口を開いた。
「無論、止めにゆく。故に妾はこの場を離れねばならぬ。街のことはお主らに任せてもよいかの?」
「お前一人で?、、実力は疑っちゃいねえけど念の為俺らも行ったほうが良くないか?」
そんな俺の提案いつになく真剣な表情で首を振った緋月は再び口を開いた。
「それはダメじゃ。妾がこの場を去ってもしばらくは領域も、人の子らに施した結界も残るが、先も言うた通りいつ再び魔物が送り込まれてもおかしくない予断を許さぬ状況じゃ。故に、お主らはここに止まって不不測の事態に備えて欲しいのじゃ」
「そういことなら、承知した」
そして、緋月の言葉に了承の意を示した俺にそれまで黙って話を聞いていた牧瀬さんが割り込んできた。
「まて、龍神様がこの場を離れることについては了解した。だが、お前はさっきも言ったとおり今村達の元へ向かえ。街の防衛は私と部下が受け持つ」
、、、おいおい、この状況でも尚、俺を送り出す程なのか、、いよいよニチカ達が心配になってきたぞ。
「、、大丈夫なんですか?」
「ハッ!誰の心配してやがる。それに龍神様の力も残るってんなら心配いらねえよ」
俺の言葉に不敵に笑った牧瀬さんは「ただし」と指を全て開いてパーの形を作りながら言葉を続けた。
「ただし、5分以内に戻ってこい。最悪、10分程度ならいくらでも持ち堪えてやる。だが、そこまでだ。あの数がまた攻めてくるってんならそれ以上は死人を出さない保証はできねえ」
「、、、了解、、しました」
不安は消えないが、ニチカ達が気になるのもまた事実なので煮え切らない返事を返すと緋月がパンッと手を鳴らして「話は決まったようじゃな!」と切り出した。
「さて、妾は行くのじゃ。、、いきなり世界が統合されるような事はないとは言え急ぐに越した事はないからのぅ。あとコレは返しておくのじゃ」
そう言って緋月は足元にある未だ″空に刺さった″様に留まる刀を引き抜いて俺に渡すと「では、各々検討を祈るのじゃ」と言い残すとさっさとと転移でどこかへと移動して行ってしまった。
「じゃあ、俺もニチカ達の元へ向かいます」
「まて、これを持ってけ。さっき部下と合流した時に調達した。何かありゃそれで連絡する」
そう言って投げ渡された小さな物を受け取るとそれは耳に装着するワイヤレスイヤホンの様な物だった。
「あざす、、、ところでこれ使い方聞いてもアバババババババ!?」
受け取ったはいいものの使い方がいまいち分からず聞こうとしたその時、突如身体に電流が走った。比喩ではなく文字通りの意味で、だ。
幸い、低周波マッサージ程度の威力しかなくせいぜい全身がブルブルした程度で怪我らしい怪我は負っていない、、、が攻撃は攻撃だ。
樹海から続く怒涛の展開続きでとうとうプッツンきた俺は怒声を張り上げた。
「、、ッ痛ぇなァ!!今度はなんだァ!!!次から次へといい加減にせェ、、、よ?」
大声を出しながら視線を巡らせた俺は犯人を見つけ、その声を徐々に尻すぼみにさせながら困惑の表情へと変化させていく。
理由は単純。その犯人の顔が物凄く見慣れた人物のものだったからだ。
「永島、、、さん?」
そう、看護師でありながら何故か俺たちと訓練を共にしていて、現在はニチカたちと樹海付近にいるはずの永島美香さんが眼科に立っていたのである。
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