第四十六話 『魔物溜まり・4』
大変長らくお待たせいたしました。
第四十六話です。
『7日目』
「ハァ、、ハァ、、」
木にもたれかかり、崩れるように座り込んだ私は肩で荒い息をついた。
昨日から一睡もしていない上にほとんど常に動きっぱなしで疲労が限界に近い。
私が、、甘かった。
訓練の目的がわからない?、、馬鹿かわたしは。
そんなもの私達を徹底的に追い込む事以外にあるものか。
今までの訓練だって常にそうだったではないか。
なのにどうしてあんなに油断してしまったんだ。
「、、ッ!!」
「グオオオオオオオオオ!!!」
呼吸を整えながらここ数日の自らの行動の甘さを悔いる私達の側にズドォォォンと轟音を立てて大岩が着弾、次いで半ば半狂乱に陥った様子の魔物が数匹突っ込んできた。
昨日の牧瀬さんの襲撃以降、ずっとこんな感じだ。その姿は確認できていないが岩は間違いなく、そしておそらく襲ってきた、、と言うより何かから逃げてきたといった様子の魔物達も十中八九牧瀬さんの仕業だろう。たまに岩の代わりに魔物が悲鳴を上げながら飛んでくるしまず間違いない。
そんなわけで襲い来る魔物をさばきつつなんとか安全地帯を作ろうと壁を築いたりしても甘えるなと言わんばかりに木や岩が飛んできて即座に破壊される。今みたいに休憩していても休むなと言わんばかりに魔物をけしかけられる。
結果、このザマである。
襲撃を受けてから一向に休む事ができていない現状、このままではいずれ魔力の回復が追いつかなくなると焦りを感じた私達は霧島さん以外で3人1組で即席のパーティーを組み、片方は後衛で魔法による援護、もう片方は前衛で戦いつつ魔力の回復に努め、1番実力の高い霧島さんには常に後衛で危ない場面で即座に助けに入れるように控えてもらっている。
正直、即席にしては悪くない戦略だと思うし事実ここまで戦えて来た。それも軍が出張ってくるような魔物がゴロゴロと蔓延る森で女7人で、、だ。
少し前まで戦闘経験なんて学校の授業くらいしかなかったような集団だと考えればもはや偉業と呼んでも全く差し支えがない。
でも、それももう限界が近い。少し前から前衛と後衛の交代の間隔がどんどん短くなってきている。魔力の回復が追いついていない証拠だ。そして飲まず食わず、不眠不休で体力的にも限界が近い今近接戦闘のみで戦う事になれば間違いなく一気に瓦解する。
「、、ッ!!『太刀風』ッ!!!」
じわりじわりと追い詰められている現状に対する不安や焦りを噛み殺した私はただでさえ回復が追いつかなくなってきている魔力を振り絞って魔法を発動。『刃風』の上位版である『太刀風』によって生み出された風の刃で周囲の木々ごと魔物を一掃した。
「、、ッぐ、、ハァッ、、ハァ、、」
かなり広範囲に向けて撃ったので魔力を一気に消費してしまい、その影響で身体から力が抜け視界が明滅する。膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか耐え、ヨロヨロと緩慢な動きで周囲を見渡すとやはり全員その表情に疲労が色濃く浮かんでいる。唯一霧島さんだけはまだ動けそうではあったが、、私達ほどではないにせよやはり疲労は隠しきれていない。
もう、、無理だ。なんで、、なんで私がこんな目に。
「ッ!!」
その考えが頭をよぎった瞬間、一気に後ろ向きな思考が浮かび、心が折れそうになるのを歯を食いしばってなんとか耐えた。
こんな目にあっているのは自分が望んだ事だ。
春樹を元の世界に帰してあげたい。そして私も一緒に行きたい。
口で言うのはとても簡単。でも、そこに待ち受ける障碍はきっと数え切れないくらい多い。それでも、私は春樹の隣に立っていたい。
だから、こんな訓練ごときでへこたれてる訳にはいかない。
「グオオオオオオオオオ」
「ッ!!あぁもうっしつこい!!」
折れそうな心をなんとか立て直したところへ次の魔物がけしかけられ思わず悪態をついたその時、異変が起こった。
何かから逃げらように突っ込んできていた魔物達が一斉にその足を止め、まるで時が止まったかのように硬直してしまったのだ。
「、、、、、、??」
今までになかった魔物の動きに怪訝に思いつつも警戒は緩めずその様子を観察してみると明らかにこちらを警戒して怯えている様子だった。種類によって様々ではあるが、視線はこちらから外さず姿勢を低くしたり毛を逆立てたり、、中には死んだふりをしているものまでいる。
、、怯えている?私達に?
いや、私達は満身創痍だし、、見たところ魔物の種類は今までにけしかけられたのと変わらない。
それが今回だけあんな反応を見せるのはおかしい。
でも、、私達じゃないなら何に、、、
そこまで考えたところで猛烈に嫌な予感がした私が緩慢とした動きで振り返るとそこには、、、
「、、、嘘、、でしょ」
呆然と立ちすくむ私の視線の先。
そこには、鬼が立っていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ニチカ達が鬼と遭遇してから少し時を遡ること数日前。
『誘引』が正常に作用したのかは定かではないが、氷柱の元に無事集合したメンバーをバレないように見守っていた俺はある事に困っていた。
と言うのも、ぶっちゃけ暇なのだ。
ニチカ達はなんの問題もなく魔物に対処できているし、2日目には防壁付きの拠点まで設置してしまった。あれではそうそう危険な事は起こらないだろう。
もっとも、訓練を施しているのがあの理不尽の権化である以上これで終わるともカケラも思わないが、、、
まぁなんにせよ、ニチカ達で問題なく対処できている現状俺のする事は遭遇する魔物と戦う事くらいだ。
なので、せっかくなら護衛をしつつ自分の訓練と実験をしてみようと思った俺は現在2つの縛りを課して行動している。
一つは攻撃だけでなく移動など補助の方にも魔法は使わず剣術のみで戦う事。
目的は単純に剣術の強化の為だ。
現状、純粋な「剣術」に限って言えば俺は誰よりも弱い。
自分でもわかるほど剣を振る動きはぎこちないし、斬るというより力任せに叩き付けていると言った方が正しい。
なので、せっかく何も気にせず好き放題斬れる魔物という恰好の獲物がいるので技を磨こうという訳である。
もう一つは、睡眠も食事も取らずに常に動き続ける事。
こちらの目的もまた単純で、自分の限界を知っておく為だ。
というのも、こちらの世界に来てからというもの肉体的な疲労を経験した事がないし、よく考えたら空腹も感じた事がない、、かもしれない。
かもしれない、というのはなんだかんだ島では食べるものがあったし、その後の入院生活や学校生活でもきちんと食事をとる事が出来ていたので極端に空腹状態になる機会がなかった為だ。
故に勘違いかもしれない、、、という訳なのだが、、思い返してみると土日の訓練で一日中運動していても特に空腹を感じていなかったように思うのだ。
とまぁ、そんな理由で自らに縛りを課して行動してはや6日目。結論から言うと、剣術縛りの方はそこそこ学びがあった。
まずやはり動きがぎこちない。
攻撃と攻撃の繋ぎの動作が下手すぎるし綺麗に繋ごうとするとどうしても大抵袈裟斬り→逆左袈裟斬りと言った感じでループして攻撃がワンパターンになってしまう。せいぜい時たま一文字斬りを挟み込む程度だ。
斬り方に関しても現状力任せに叩きつけるようにしているだけなのでバイト時代の包丁を思い出し「斬る」事を意識してやってみているのだがやはり得物が違いすぎて動きが硬くなってしまう。
あと、返り血も危険だ。
最初は不快ではあるが仕方がないと割り切って返り血を気にせずにいたのだが明らかに肌に違和感を感じる事が何度かあった。
幸いピリピリする程度だったが、、おそらく血液に毒が含まれている魔物がいたのだと思う。
それに手に血がかかりすぎると血糊で手が滑り危うく得物を取り落としかける事が多々あった。
以上の点も踏まえ返り血は極力かからない戦い方をすべきだろう。
そして自分の限界の検証の方だが、、ニチカ達の築いた拠点周辺をバレないように歩きでぐるぐる回るように動き続けて今日で6日目。
体力面は全く問題ない。
精神面は、、やはり6日も脳が働き続け疲弊してきているのか集中力が低下しているように思う。
そしてお腹は、、少し空いてる。ガッツリご飯を食べたいと言うほどでもないが、何か軽くつまめるお菓子でもあれば欲しいな、、程度の空腹だ。
、、、わかっちゃいたけど、人間やめてんな、、おれ。
ニチカ達の護衛に影響が出るし疲れを感じてきたら限界を迎える前に終わろうと思っていたのに、、まさか6日も飲まず食わず不眠不休でケロリとしているとは思わなかった。
もしかしてアレか?単純に回復が早すぎて消費が追いついていないのか?
、、、まぁ、せっかくの機会だし訓練中はこのまま、、
バガァァァン!!!
「うお!?なんだ!?」
突如響き渡った轟音に思考が中断され、木に隠れながら音のした方、、ニチカ達の拠点の方に目を向けると拠点の外壁に大穴が開いているのが確認できた。
慌てて木に登り高い位置から状況を探ろうと試みる。
、、、よかった、、とりあえずニチカ達は怪我とかはしてないっぽい。
拠点の様子は、、壁が完全に破壊されその逆側も同様に破壊されている。壁の壊れ方を見るに片方から何かを撃ち込まれもう片方まで貫通したのだろう。
魔物の襲撃か?、、としばらく様子を見守るがどうやら魔物ではないっぽい。となるとおそらくは牧瀬さんの仕業だ。
、、まぁ、ここ数日定期的にニチカ達の様子を確認していたがアイツらは完全にだらけきっていた。
なのでそのうち彼女がブチギレるだろうなとは思っていたが、、予想していたよりは遅かったな。と言うか、、やはりニチカ達には甘い。俺が同じことしてたら初日から殴り込んで来ただろ絶対に。
そんな事を考えつつもとりあえず様子を見守っているとしばらく呆然としていたニチカ達は慌てて壁の修復を始めた、、、のだが、「させねえよ」と言わんばかりに即座に弾丸のような勢いで木が飛んできて壁を破壊する。
「守れって、、、魔物じゃなくてアンタからかよ、、」
まぁ、、なんにせよどうやらここからが本当の訓練の始まりらしい。
苦笑いを浮かべてそんな事を呟きつつ気合を入れ直した俺は、さっそくニチカ達を守るべく行動を開始したのだが、そこからはとにかく大変だった。
拠点に次々と木や岩が投げ込まれ壁が破壊され、壊れた壁から魔物が雪崩れ込み早々に拠点を手放し常に移動するようになったニチカ達を追いつつ、投擲物は魔力の壁で微妙に軌道をずらし、魔物は危ない場面があれば足元に魔力の塊を設置して躓かせたりしてサポートしている。
自分に課していた縛りは早々に解いた。
当初は物が飛んできた方角に急行して原因を直接叩こうとも試みたのだが毎回到着する頃にはその場におらず、結局この訓練中一度もその姿を見ていない。
となれば、飛来物や魔物をどうにかするしかないわけだが、、、流石に俺が介入していると言う事を悟られてはならないと言う制限がある中で剣術のみでそれらの対処は到底不可能だった。
自分で勝手に課した縛りとはいえなんだか負けた気がしてモヤモヤする、、が、それはさておきそろそろニチカ達の限界が近い。
俺のサポート込みでも危ない場面が結構増え始め、もう何度か「流石にバレたか?」というレベルで不自然に攻撃を逸らしたりもしているのだが気付く様子もない。おそらく疲労で思考力も低下しているのだろう。
まぁ、昨日から不眠不休で戦い続けているのでむしろここまでよく持ったと言うべきだが、、、
ーーードクン。
「、、あ?」
なんの前触れもなく突如感じた奇妙な感覚に思考が中断され間の抜けた声を上げながら自らの腰辺りに視線を送る。
ーーードクン。
視線の先にあるのは腰に差した2本の刀。
一本は現在進行形で使っている訓練用の刀である「白華」、もう一本は「緋凪」、、緋月から譲り受けた刀だ。
ーーードクン。
その2本のうちの「緋凪」の方が脈動しているように感じる。
実際に動いた訳でもなければ刀が何か力を発しているという訳でもない。
それでも、間違いなく刀から言語化ができない何かを感じる。
なんだ、、これは。
刀の、、能力?、、、いや、緋月はそれらしい事はなにも、、
「、、、ッ!?」
急に起きた謎の事態に混乱していると背筋を虫が這い回るようなゾワゾワとした悪寒を感じ再び思考が中断される。
今度はなんだ!?なにが起こってる!?
そう思いつつ背筋を粟立てる感覚に身を任せ視線を動かすとニチカが切り倒した木々を踏みつけながら悠然と歩みを進める1匹の魔物が目に入った。
白い肌に白い髪、そして瞳は燃え盛る炎のように赤く、唇は血を吸ったかのように紅い。衣服、、というより動物から剥ぎ取ってそのまま身につけたと言った様子の毛皮を身に纏っておりそこからスラリと長い手足が伸びている。
胸が膨らんでおり、体付きから見ても一見するとほとんど裸な人間の女性だが魔物だとわかったのはその額から一本の角が生えているからだ。
その特徴と一致する存在には心当たりがある。
それは「鬼」だ。
この世界の事を調べる一環でその存在を知った。
その等級は1番上の「十」。
個体数こそ極端に少ないものの、その力は非常に強力。意思の疎通が図れず、またその気性も非常に荒く残忍で人であろうが魔物であろうが手当たり次第に殺して回る為に人に非常に近しい外見をしていながら亜人ではなく魔物として扱われている種族だ。
しかしその数の少なさゆえ遭遇することなど滅多になく、大きな被害が出たと記録に残っているものは平安時代に京の都で暴れていた物が最後だった、、、と記憶している。
そんな存在がなんだってこんな場所にこんなタイミングで、、いや、、そんな事よりもアレは、、マズイ。
俺ならおそらく問題は、、ない。アレから牧瀬さん程の圧力は感じないし、最悪魔法も使えばどうとでもなる。
しかし、ニチカ達がアレと当たるのはまずい。
普段なら森での闘いぶりを見るかぎりちゃんと勝負になっただろうが限界まで疲弊し切ってる今は間違いなく殺される。
どうする?どうすればいい?
十中八九、今までの魔物共のように足元に魔力を置いてこけさせたところでどうにかなる相手では無い。
かと言って攻撃魔法を用いずにサポートしてアレをニチカ達に倒させる方法なんて、、、
「、、、ッ!!『魔弾』ッ!!!」
「ッ!?グギャッ!?」
鬼がニチカ達の方に向かって踏み込む姿勢をとった事で反射的に魔法を発動。
魔弾の直撃を受けた鬼は驚いた様な悲鳴を上げて後ろに吹き飛ぶが数メートル飛んだあたりで危なげなく着地してこちらを睨みつけている。
人命優先。仕方がなかったとは言え禁止されていた攻撃魔法を使ってしまった、、、が、そんな事よりも今コイツ、、当たる前に魔弾を察知してやがった。しかも、咄嗟に後ろに飛んで威力を殺すオマケ付きだ。
見えない魔力による攻撃を察知して対処。
ノーダメージと言うわけでもないので不完全ではあるが、、つまりは牧瀬さんと同じ事をやってのけた。
この場合、牧瀬さんと同じ事をやった鬼がヤバいのか、それともサラッと十等級の魔物の上を行く牧瀬さんがヤバいのか判断に迷うところだが、、、どちらにせよ油断していい相手ではない。全力をもって臨むべき相手だ。
「、、、、、、、、、」
そう考えた俺は無言で「白華」を納刀。
「緋凪」に手をかけるが鬼の出現ですっかり思考の隅に追いやられていた今なお続く謎の現象を思い出しその手がピタッと止まった。
、、これ、タイミング的にアイツが原因か?
悪い感じは、、、しないが、、、、抜いてみるか?
、、いや、1人ならまだしもニチカ達がいるこの状況で不確定な要素を持ち出すべきではないし、俺はまだまだ刀を持つより素手のが強い。
ここは素手で行くべきだな。
「、、『弾力付与』」
一瞬の逡巡の後、抜かない決断を下した俺は魔法を起動。
弾力を付与した魔力塊を踏み込み一気に木々の間から飛び出した。
そして、鬼を挟んでちょうど反対側からこちらに向かって突っ込んで来ている牧瀬さんと目が合う。
鬼が死角になっていて気が付かなかったが、その位置的に俺より早く飛び出していたであろう牧瀬さん。しかし、魔力による加速分俺が追いつき到着は同時。
「「オラァ!!」」
図らずも挟み込む形となった俺達は2人同時に攻撃を繰り出し、俺の拳が鬼の顔面を、牧瀬さんの身体ごと地面に沈み込むような勢いで放った回し蹴りが鬼の胴をそれぞれ捉えた直後、ガードに回した腕ごと鬼の頭部がひしゃげ、蹴りの当たった胴体からはバキィ!!っと骨の砕ける痛々しい音が鳴り響き鬼の身体が吹き飛んだ。
「『炎槍』」
「ギ、、ギャァァァアア!!!」
全力で殴ったにも関わらず爆散しなかった、、、どころか頭部が大きく凹み、胴体は逆くの字に折れ曲がっているにも関わらず起きあがろうとする素振りを見せる鬼に若干動揺しつつもわざわざ回復を待ってやる必要もないのでトドメに魔法を撃ち込むと鬼は悲鳴をあげてのたうちまわりやがてピクリとも動かなくなった。
ーードクン。
とりあえず、なんなく倒せたが、、、ヤバいな、改めて。
意味を為さなかったもののしっかりと俺の速度に対応して攻撃にガードを合わせてきた。
その上にあのタフさ、、、普通にやれば負けないが剣術縛りなら結構危なかったかもしれない。
ーードクン。
あとコレ、未だ治らないが、、鬼が原因じゃなかったのか?
、、、まさかいきなり爆発とかしねえだろうな?
緋月を呼び出して聞いてみるか?
現在進行形で続く謎の現象に俺が1人首を傾げていると牧瀬さんがこちらに近づいて来て口を開いた。
「オイ、今すぐ街に戻るぞ」
そうして、一瞬禁を破ったことのお叱りか?と警戒した俺に、全く予期せぬ情報が告げられるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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