第四十二話 『文化祭・後編』
第四十二話です。
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文化祭当日。
予想通り、過去類を見ない程大勢の人が来場し、各クラスがその対応にてんやわんやになりつつもそれぞれの文化祭を楽しむ中、2年生のとある教室では怒号が響き渡っていた。
「7番卓オーダー終わってんのか?客待たせてんじゃねえぞナメてんのかボケェ!!、、テメェもチンタラしてねえでさっさと料理運べや寝ぼけてんのかア゛ァ゛?」
「「はっ、、はいいぃぃいい!!」」
「渋谷さん!お肉の仕込み終わりました!!」
「オウわかった!、、、オイそこッ!!力入れすぎだ!!サラダ野菜は繊維に沿って千切れって何度言わせんだコラァ!!!」
厨房ではそんな俺の怒号や指示が響き渡り、ホールは一向に途切れる気配を見せない客の対応で戦場と化していた。
厨房、と言ってもカーテンで区切っただけの場所なので俺の怒号はバッチリ客席にも届いているわけだが、、、元々学園祭という賑やかな場であることに加え、「学生にしてはかなり本気でやっているし味もうまい」という事でかなり好意的に受け取られているし今の所クレームも出ていない。
ちなみにだが、先程から常に飛ばし続けている怒号も半分は本気だが、半分はわざとだ。
と言うのも、厨房の設備は不完全、教室に蛇口などないので外部から持ち込む必要があり、火はカセットコンロを使用しているので圧倒的に火力が足りない。その上、準備期間にできる限りの指導をしたとは言えまともに動けるのは俺だけであとは厨房もホールも素人の集まり。そんな状態でまともに回せるはずもなく既に提供の遅れなどから待ちが発生し始めているからだ。
そんな状況でもクレームが発生せずに来れているのは、接客陣の頑張りと、サービスで出している小鉢、そしてこのあえて聞こえるように言っている怒号のおかげだろう。
要するに「こっちも遅い事は理解しているし、お客さんの事もしっかり考えているよ」というアピールである。
バイト時代も、時々人手が足りないないのにクソ忙しい時などに使っていた手だ。
コレが意外と馬鹿にできないもので、自分達のことで自分以上にキレ散らかしている人がいる場合、人は意外と冷静になるものでありクレームの抑制に非常に効果的なのである。
要はクレームを言わせず、味に満足させることができればこちらの勝ちなのだ。このような過酷な状況で手段など選んでいられない。
静かに食事がしたい?うるせえそれなら高級レストランにでも行きたまえ。
「渋谷さん!お知り合いの方が10番席に来店されてます!!」
「わかった。ちょっと抜ける、任せたぞ?」
「はい!ごゆっくり!!」
クラスメイトにそう言いつつ、誰だろう?と思いながら表に出ると、俺の姿を見た客から歓声が上がるが適当に手を振りつつ指定された席に目を向けるとニット帽にサングラス、マスクにコートと言う不審者像の数え役満みたいな人物がこちらに向かって手を振っていた。
「、、、、、、、」
誰だ?この怪しい奴は。
体付きから女性なのはわかるが、、ダメじゃないか、不審者は通報しないと。
「、、、、警備員を呼んでこい」
俺が近くにいたクラスメイトにそう言うとマスクとサングラスをしていてもわかるくらいガビーンとした様子が伝わり、酷く焦り出した様子の不審者は何を思ったかニット帽を少しだけずらしてみせた。
すると、隠れていた特徴的な横に広がる耳が露出し、不審者は自分の耳を指差しながら「ねぇわかるでしょ?」と言いたげなジェスチャーを行なってきた。
俺に会いに来るエルフ、、と言うかそもそも知り合いにエルフは1人しかいない。
「、、、、ソフィアさん?」
思わず、頭に浮かんだ名前をそのまま呟いてしまい、口にしてから「しまった!」と思った。後から知った事だが、ソフィアさんは思っていたよりかなり名の知れた女優らしく、そんな女優が明らかにその身分を隠してお忍びで来ている状況、、少し考えれば名前を呼んではマズイ事くらいわかるのに本当に思わず口に出てしまった。
「えええええええええええええええええ!?」
今更になって焦りだした俺だが、時既に遅く周囲の空気が爆発したかと思うような驚きの声が上がった。そして、バレてしまったのなら意味がないと判断したのか苦笑い気味にソフィアさんが身に付けていたマスクなどを外した事で驚きの声は歓声に変わりさらに大きくなっていく。
来場客はもちろん、クラスメイト達も興奮したように騒いでおり、、、、
「テメエらなに手ェ止めてんだコラァ!!!客待たせんなって何度言わせりゃ気が済むんだこの木偶の坊共がァ!!!」
「「は、、はっ、、はい!!!すみません!!」」
クラスメイトが手を止めてはしゃいでる姿を目にした途端、一瞬で頭に血が上り怒号を飛ばした俺にクラスメイト達は焦って働き始め、直接俺が怒号を飛ばすところを見た来場客達はシン、、と静まり返り、ソフィアさんはいきなり鬼の様な形相を浮かべた俺に完全にドン引きしていた。
、、、ふむ。
「それでソフィアさん?来るなら一言言ってくれればよかったじゃないですか、、そしたらもっとバレないように色々とできたのに、、」
俺が自分のせいでバレた事を棚に上げ、直前の怒号を無かったことにしてそう言うと、数秒ポカンとした表情を浮かべていたソフィアさんはジト目になって口を開いた。
「驚かせたかったんですよ、、それにそもそも春樹さんが名前を言わなかったらこの方法でもバレてませんでしたよ、、」
「、、せっかくお越しいただいたんですし案内したい所ですが見ての通りの状況でいつ抜けれるかわかりませんし、やっぱり事前に知っておきたかったですよ、、」
唇を尖らせて不貞腐れるようにそう口にするソフィアさんを華麗にスルーしてそう言うと、一瞬何か言いたげな様子を見せたソフィアさんだったがすぐに慌てたように口を開いた。
「お気になさらないでください。故郷には学園祭と言うものが無かったですし回ってみたい気持ちもありますが、、私が出歩くと学校の方々に色々とご迷惑をおかけしてしまうでしょうし、春樹さんの御立場も理解しているつもりですので元から挨拶だけして帰る予定でしたので」
「そうでしたか、、そしたら少しでも思い出に残せるように気合い入れて作りますね」
「ふふ、、楽しみにしています」
そう言って微笑むソフィアさんから注文を聞き取り厨房に戻った俺は、物凄く何か聞きたそうにしているクラスメイト達を全て無視して料理を作る作業に戻るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「、、、どこ行っても騒ぎになっちゃうね」
そう口にしたニチカに俺は苦笑いを返しつつ「そうだな、、」と返した。
現在、俺とニチカは2人で文化祭を回っていた。
本来なら、俺が抜けるわけにはいかないのでクラスメイトにはタイミングを見て休みを与えつつ自身は一日通しで働く予定だったのだが、想定を遥かに超える来客数に用意していた素材があっという間に尽きてしまったのだ。
それも、客が多い事を予想して使える予算から無駄をギリギリまで削り、その全てを食材にあて通常よりもかなり多めに用意していたにも関わらず、だ。おそらくタイムリミットを迎える前に食材の方が先に尽きるであろう事は予想していたが、、まさかお昼時が過ぎる前に完売するとは流石に思わなかった。クラスの連中の頑張りももちろんあるが、我ながらよく回し切れたものだと思う。
とまぁそんな訳でクラス全員フリーになった事で各々自由時間を過ごすことになり、ニチカに誘われた事でこうして回っているわけだが、、行く先々で声をかけられるわ握手を求められるわでまぁ大変だった。
流石にこの状態だと他のクラスに迷惑もかかるのでどうしようか、、と2人で話していた所、いきなり横から声をかけられた。
「あれ?ニチカ?クラスの出し物はどうしたの?もしかしてサボり〜?」
ニヤニヤとしながらそんな事を言ってきた見覚えのない女子生徒の言葉に反応したニチカはその生徒の元へ駆け寄り会話を始めた。
「あ、、千波ちゃんお疲れ様〜!完売したからうちのクラスの出し物は終わったんだ」
「え!?もう完売したのヤバくない!?てかいいなぁ〜、、実質一日中フリーじゃない、それ」
どうやら千波と言うらしい女子生徒のそんな言葉に訝しげな表情を浮かべたニチカが口を開いた。
「、、うん?わたし午前中普通にクラスで働いてたよ?、、と言うかうちのクラスは当番制とか無かったからみんな何かしてたよ?」
「あー、、まぁこの忙しさだもんね、、ウチはお化け屋敷だからそうでもないけど。でも、それならアレは見間違いだったのかなぁ、、」
「見間違いって?」
「いや、午前中ニチカに凄く似てる人を見かけたんだよ〜。その時はニチカだと思ってたからてっきり午前中がフリーで午後から働くんだと思ってたけど、、見間違いだったみたいだから気にしないで」
笑いながら手を振ってそう言う女子生徒の言葉に複雑そうな表情を浮かべたニチカが「そ、、そんなに似てたんだ?」と口にすると、ちょうどそのタイミングで女子生徒のクラスメイトらしき人物が「おーい、サボってんなよー」と声をかけてきた事で2人は会話を切り上げ、ニチカがこちらに戻ってきた。
「お待たせ〜!」
「おう、、それで、、どうする?参加すると迷惑かけちまいそうだし適当に回って雰囲気だけ見て回るか?」
俺がそう問いかけるとしばらく悩むそぶりを見せたニチカはなにやらモジモジとしながら口を開いた。
「その、、春樹は裏庭にある木の事知ってる?」
「あー、、?そういや裏庭なんて行った事ねえな??その木がどうかしたのか?」
裏庭の存在は知っていたが、特に行く用などないし木の存在も知らないので聞いてみると何やら挙動不審な様子のニチカが慌てた様子で口を開いた。
「や、、木がって言うかそこなら多分人少ないしゆっくりできるんじゃないかなって、、あっ!ベンチもあるし、、どう?」
「、、、別に構わねえけど、、」
明らかに様子のおかしいニチカの様子を訝しみながらも了承し、俺達は裏庭へと移動を開始したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「、、、、、、、、、、」
裏庭についた俺は無言で周囲を見渡した。
裏庭、と言うくらいだからなんとなく薄暗く、倉庫などが置いてある場所を想像していたのだが、実際は全然そんな事はなく開けた場所に一本のハナミズキの木が立っており、その下にはベンチが一つ置いてある。
「おぉー、、思ってたよりいい場所だな、、、、ニチカ?座んねえの?」
「アッ、、ハイ、、し、、失礼します、、」
そう口にしつつさっそくベンチに座った俺は、なぜか顔を真っ赤にして直立不動のまま動かないニチカに声をかけるとロボットのようなぎこちない動きで横に座った。
、、、こいつ、、本当にどうしたんだ?
「なぁ、、お前さっきから、、」
おかしいぞ?、、と問い掛けようとした時、不意に頭上から黄色い歓声が聞こえた事で言葉を中断し、上を見上げると校舎の窓から複数の生徒がこちらを見てなにやらはしゃいでいるのが目に入った。何事だ!?と動揺する俺だったがはしゃぎつつ話している内容がこちらにも届いてきた事ですぐにその答えはわかった。
「なにアレ、告白中?てかあの人勇者様じゃない?」
「いいなぁ、、わたしもあんな風に告白されてみたい」
「確か文化祭の日にあの木の下で一緒に過ごした男女は一生結ばれるって話もあったよね〜」
などとキャッキャした会話が耳に届いた事で油を差し忘れた機械のようにギギギッとニチカの方に視線を向けると、先程から膝の上で拳を握りしめて微動だにしなかったニチカがバッと立ち上がり口を開いた。
「、、わ、、私は知らなかったから」
「、、、え?」
「とにかく知らなかったからぁぁぁぁぁ!!!」
思わず聞き返した俺に、その場の空気に耐え切れなくなったのかそんな事を叫びながら走り去ってしまったニチカ。俺はそんなニチカの背を呆然と見送るしかないのであった。
ちなみに余談だが、、後日学校中に「俺が告白して派手に散った」という噂が流れ、その噂を耳にしたニチカに土下座で謝罪され、その現場を別のクラスの生徒が目撃していた事でさらに様々な噂が囁かれるハメになるのだった。
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