第三十七話 『テレビ出演』
第三十七話です。
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「はぁ、、、帰りたい」
憂鬱な気分で俺はそう呟いた。
現在、俺と緋月はテレビ局の楽屋にいた。これから俺は「勇者」としてテレビに出演する事になっている。
そもそも、何故こんな事になっているのかだが、、実はこうなる事は病院に入院中の段階で既に決まっていた。目的は端的に言えばアピールだ。
現状、政府が公表した事で俺の顔や名前は世に出回っているがただそれだけ。一度もメディアに出ていなければ公の場で政府の下につくと発言もしていない。要は国民や諸外国からしてみれば「勇者なんて本当に存在しているの?」状態なわけだ。
、、まぁ他の国やマスコミに関しては何かしらの情報は掴んではいるのだろうが、、、
とにかく、そんな状況に加え魔族が怪しい動きを見せており、ただでさえ国民が不安を抱えている現状、国内では「国民を安心させる為の嘘」や「外交で有利に立ち回るためのブラフ」ではないかなどといろいろな憶測や陰謀論がまことしやかに囁かれており、政府への不信感が高まっているらしい。
さらに諸外国の方は諸外国の方で、やはり勇者と竜神と言う戦力を一つの国が保有していることが面白くないらしく、何かにつけて難癖をつけて来ており、中には中々強引な手段を用いて俺達を我が物にしようとしている国もあるらしい。
そこで、俺達がメディアに出て自らの口で意思表明する事で、少なくとも国内で燻っている問題に関しては改善が見込めるし、諸外国に関しても多少ではあるが牽制も期待できるので一度だけでもいいから公の場で宣言して欲しい、、と政府のお偉方に頼まれたのだ。
だったらわざわざテレビ出なくても会見とかでいいんじゃね?と思ったが「政府が開いた会見に出る」より「テレビに俺達自身の意思で出演したように見える」事の方が政府に不信感を持たれている現状は効果的とのことだった。
まぁ、なんとなく言わんとしていることはわかる、、、わかるのだが、やはりどうして俺が、、という思いが拭えない。こちとら生粋の一般市民マインドなのだ。勇者だと持て囃されたり、ましてテレビ出演など本当にご勘弁願いたい。仮に出るとしても、街頭インタビューで画面端の方に偶然映り込んだ事をキャッキャしているくらいがちょうどいい。
「ハァ、、必要なのはわかるけどなんで了承しちゃったんだ過去の俺」
過去の自分を呪う言葉を呟きながら机に突っ伏し、首だけ動かして横を見ると楽屋に用意されたお菓子を幸せそうにボリボリと貪る緋月が視界に入った。
、、、コイツはいつも幸せそうでいいなぁ、、
そんな事を考えていると楽屋のドアがコンコン、とノックされ「どうぞ」と言うと1人の女性が入室してきた。
「失礼します。本日共演させて頂く女優のソフィア=ジルキアと申します。勇者様、竜神様、どうか以後お見知り置きを」
部屋に入るなりそう名乗りをあげ恭しく一礼した女性を見た俺は、、固まった。
まず、エグい美人だ。系統は違えど美人度で言えば緋月とタメを張るかもしれない。モデルのようにスラリと伸びた長い手足にスレンダーな身体を緑色のワンピースで包み、髪の毛は白味がかった金髪。肩にかからない程度の長さのいわゆるゆるふわボブで、瞳は晴れ渡った空のように綺麗な碧眼だ。
そして何より耳がとんがっている。
個性的な耳、、と言うには無理があるほど明らかに横に大きく広がっている。間違いなくエルフ族だ。この世界では珍しくもないし、なんならうちの学校にも数人いるらしいのだが遭遇した事はまだなかったので実物は初めて見た。
「、、、勇者様?」
その神秘的とも言える容姿に思わず見惚れていると、返事がない事に不安そうな表情を浮かべたソフィアさんが顔を上げて呼び掛けてきた事で我に帰り慌てて挨拶を返す。
「、、、あっ!すみません、、エルフの方を初めて目にしたもので、、なんかやたらと世間で騒がれてるのでご存知かとは思いますが、、渋谷春樹と言います。ソフィアさん、本日はよろしくお願いします」
俺がそう口にすると、ソフィアさんは驚いたような表情を浮かべ口を開いた。
「魔法がない世界からきた、と言うのは知っていましたが、、勇者様の世界にはエルフも存在していなかったのですか?」
「ええ、人間しかいませんでした。獣人や魔族、精霊や魔物なんかも全て御伽噺の中の存在でしたよ」
そうなんですか、、と驚いた様子を見せていたソフィアさんが俺の視線が自分の耳に向いていることに気がつくと苦笑いを浮かべて口を開いた。
「、、、やはり人間の方から見ると気持ち悪いですか?この耳」
「、、気持ち悪い?」
意味がわからずそう尋ね返すとソフィアさんは悲しそうな表情を浮かべて口を開いた。
「この世界で私達のような存在は大昔に迫害を受けていました。今でこそこちらで女優ができるほど良好な関係を築けてはいますし直接言われるような事はないですが、、ネットとかでは結構色々と言われたりしてるんですよ」
そう言われた俺は自らの浅慮を恥じた。確かに、この世界で大昔多種族を迫害していた歴史があったのは知っていた。だがいくらネット上とは言えそういった扱いが現代でも一部で続いているとは知らなかったのだ。
、、その前提で言うと、、さっきの視線は不味かったな。
「、、気持ち悪いだなんてとんでもない!初めて目にして物珍しかったのも否定しませんがどちらかと言えば、綺麗、、とは違うか、、、こう、、神秘的な感じがして見惚れちゃってました。、、不快な思いをさせたのなら謝罪します。不躾な視線を向けてしまいすみませんでした」
「そっ、、そんな!頭を上げてください。ちょっと不安になって聞いてしまいましたが、、勇者様に悪意がないのはなんとなくわかってましたから!!」
俺がそう口にして頭を下げるとソフィアさんは慌ててそう口にした。
「、、、それでも、耳とは言え女性の体をまじまじと見つめるのは無遠慮が過ぎました。すみません」
「もう!ほんとに気にしてませんから!!、、、それに嬉しかったですし、、、とにかく!!本当に大丈夫ですから謝らないでください!!」
更に謝る俺に、顔を赤くしたソフィアさんがそう口にした。
「「、、、、、、、」」
そんなソフィアさんの言葉に俺が顔を上げるとお互い無言の時間が流れた。
き、、気まずい感じになってしまった、、どうしよう、、
俺が困り果てていると急に横から服の袖を引っ張られ、何事かと視線を向けると食べカスを口の周りにいっぱいつけた緋月が口を開いた。
「おかしがなくなってしもうた!おかわりが欲しいのじゃ!!」
、、どこまでも自由だね、君。でも今回はグッジョブ。
「、、、あっ!!わ、、私が貰ってきますね!!!」
ゴーイングマイウェイな緋月の言葉にしばらくポカン、、とした表情を浮かべていたソフィアさんはハッとするとそんな事を口にして足早に楽屋から出て行った。、、おそらくこの状況に耐えられず逃げたのだろう。
、、、なんにせよ今回は緋月の空気読めない部分に救われたな、、正直助かった。
そんな事を考えながら何気なく緋月の頭を撫でてやるとニヘラっと気持ちよさそうに相好を崩し、足をパタパタと振り始めた。
かわいいな、、コイツ。なんか最近どんどんと幼児化してきてないか?
そんな事を思いつつそのまましばらく緋月の頭を撫でていると再びドアがノックされ、入室の許可を出すと若干息を切らしたソフィアさんがダンボール箱を抱えて入ってきた。
「勇者様、竜神様!お待たせ、、、しました?」
途中で変な間が開き、驚いたような表情を浮かべたソフィアさんを不思議に思ったが、その視線が緋月に釘付けになっている事でなんとなく察した。
あぁ、、全然竜神様って感じじゃないもんねコイツ。わかる。
「り、、竜神様の頭を撫でてる、、?」
おや?驚かれていたのは俺の方らしい。
「ソフィアさんも撫でてみます?こんなんでも犬っころみたいで可愛いですよ?」
「い、、犬っころって、、い、いやそんな恐れ多いですよ!?」
俺が緋月の頭を指差しつつそう言うと、取れるのではないかと言う勢いで首をブンブンと横に振ったソフィアさんはそう口にした。ちなみに、緋月はよほど頭を撫でられるのが気に入ったのか先程からヘヴン状態だ。普段のコイツなら犬扱いにキレそうなところだが今はツッコミすら入らないし、恐らくソフィアさんが持って来た箱の中身は追加のお菓子だがその事にも気が付いていない。
「、、て言うか、俺に関しては勇者様だなんて呼ばなくていいですよ?そんな柄じゃないんでなんかむず痒くて、、」
「そ、、そうですか、、では、、春樹さんと呼ばせて頂きますね?」
俺がそう言うと、躊躇いがちに名前を呼んでくれたので「それでお願いします」と言ってからしばらく談笑していると、ノックの音と共にスタッフと思わしき人物が入室してきた。
「勇者様。竜神様。大変お待たせいたしました。まもなく撮影開始の時刻になりますのでスタジオの方に移動をお願いいたします」
、、、せっかくソフィアさんが名前で呼んでくれたと思ったらコレだよ、、マジで勇者様って呼ばれんの異様に肩が凝る感じがして苦手だ、、
げんなりとしつつソフィアさんと顔を見合わせて、互いについさっきしたばかりのやり取りを思い出し、思わず苦笑いを浮かべた俺達はスタジオに向けて移動を開始するのだった。
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「テメェ!!あんま調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
そう言って胸ぐらを掴まれた俺はそのまま突き飛ばされた。
「ちょっと!?何してるんですかやめてください!!!」
先程まで隣にいて談笑していたソフィアさんが非難の声を上げる。
、、、さて、なぜいきなりこんなことになっているのかって?そんなの俺にもわからん。
結論から言うと、撮影は滞りなく終わった。
スタジオに入る際、「今世間を賑わせているイケメン勇者様と美しい竜神様のご登場です!!」と言う紹介文句のせいで初手から心がへし折られそうになった事を除けば概ね良かった。俺の小粋なトークと緋月の天然ボケのコンビ技が炸裂して笑いも取れたし言うべきことも言えたので初めてのテレビ出演と考えればむしろ上出来すぎると言っていいだろう。それに、トークに関してはソフィアさんを始め周りのプロの方々が素人の俺でもわかるほど会話の端々でフォローをしてくれていたしな。
とまぁそんなこんなで確かな手応えを感じた俺とソフィアさんは撮影後のスタジオの端っこで仲良く談笑していたのだが、、、そこでいきなり目の前の男が絡んできたのだ。
名前は、、なんだったか?、、まぁなんでもいいか。とにかく目の前の男はソフィアさんの耳打ちしてくれた情報によると若手の俳優らしく、ついでに俺と緋月が楽屋で長い時間待機させられていたのはコイツの遅刻が原因らしい。番組の撮影中も変に攻撃的で、「なんかやたらとトゲのある言葉や質問を投げかけてくるな?嫌われてんのか?」とか感じていたがどうやら勘違いでもなかったようだ。
「ハッ!女に庇われて情けねえな?なんとか言い返したらどうなんだよ、えぇ!?」
そんなこと言われても、、そもそも君は何をそんなに怒ってるのかね?あまりに急すぎてさすがにイライラより困惑が勝つぞ。
そんな事を考えていると、何も言い返さない俺がビビっていると思ったのかニタリと笑った男は唾を飛ばしながら更に捲し立ててきた。
「大体、楽屋に挨拶にも来やがらねえし一体何様のつもりだ!?」
「、、、勇者様らしいっすよ?あと、楽屋に挨拶に行かなかったのは確かに配慮が足りませんでしたね。なにぶんいち学生の身分ですのでそう言ったしきたりに疎いところがありました。、、ですがあなたに関しては遅刻してらしたので行ってもいなかったのでは?」
「、、プフッ、、、」
俺が言った言葉に、ソフィアさんをはじめとした数人が吹き出す声やクスクスと声を抑えて笑う声が聞こえてきた。
「なっ、、!!、、、ナメやがってクソ野郎が」
男は声を出したが、二の句が継がなかったのか顔を真っ赤にして口をパクパクさせると再び掴みかかってきた。
、、いや、、コイツほんとになんなんだ?ここまで突っかかってこられるような事やらかした覚えないぞ?もしかして、こっちの俺と何か因縁があるパターンか、、?いやでも顔見知りって感じではなかったよな、、
そんな事を考えつつ改めて男をマジマジと観察してみて、、気がついた。
あら、、、あらあら、、やだこの子ったらチラチラと何度もソフィアさんに視線送ってる。むしろ、今まで気が付かなかったのが情けなるくらい露骨だ。ハッハ〜ン、なるほどなるほど、つまりはそう言う事だな?OK OK全て理解した。そりゃあポッと出の俺がソフィアさんと楽しげに話してたら面白くないわな?、、、よし、変に誤解させてしまったみたいだしお詫びの意味も込めておじさんがいっちょ一肌脱いだろやないの。
「ところでソフィアさん、今気になる人とかいます?」
「、、、、、、、、、、はい?」
それまでの会話の流れや現在進行形で流れている険悪な雰囲気を一切合切全て無視した俺の唐突な質問にソフィアさんはたっぷりと間を開け、それでも尚理解が追いつかないと言った様子で聞き返して来た。他の面々も皆口をポカンとあけて立ち尽くしているが唐突に振って湧いた面白そうな話にテンションがブチ上がった俺はそんな事気にしないし止まらない。
「だから気になる人ですよ。もちろん異性としてって意味で」
そこで俺の襟首を掴んだまま呆然と立ち尽くしている男にバチィィン⭐︎とウィンクをして見せると男はドン引きした様子で手を離して一歩後ずさった。
「、、、、、別に、今はそう言った方はいません、、、って何言わせるんです!?本当にいきなりなんなんですか!?」
男からソフィアさんに視線を戻した俺と目が合うと、顔を赤らめてポツリとそう答えたソフィアさんは急に我に返ったようにツッコミを入れてきた。
男はソフィアさんに好きな人がいないと知り、露骨に表情が明るくなった。
テメェ馬鹿野郎!!喜んだだけで終わってんじゃねぇよ!!こんな優良物件オチオチしてたらすぐどこぞの男に掻っ攫われちまうぞ!?、、、チッ仕方ねえな、、
「じゃあ、俺とかどう思います?」
「エッ!?そ、、そっそれは、、その、、、」
顔を耳まで真っ赤にして口籠るソフィアさんに俺はうんうんと大袈裟に頷くと核心に迫る質問を投げかけた。
「ですよねぇ〜今日会ったばかりですし流石にないですよね。、、、じゃあ元々知ってる人、、、例えば彼とかどうですか?」
「妾はいいと思うのじゃ。その、、そこはかとなく良い感じなのじゃ!これは女子が放っておかない事間違いなしなのじゃ!!」
それまで黙っていた緋月が急に割り込んできたので驚いて視線を向けるとその瞳は何かを期待するように爛爛と輝いていた。
その様子、、まさかお前も彼の気持ちに気がついたか!!、、、中々やるじゃねえか、、エロ本漬けから更生させる為に少しずつニチカにオススメしてもらった少女漫画を買い与え始めたのが早速功を奏したか!?まぁなんでも良いがとにかく値千金の大手柄だ!!後でたくさんお菓子あげるからな!!楽屋に置いてあるやつだけど!!!
「、、いやぁ、、ハハッ」
俺が緋月の成長に感動して思わず泣きそうになっていると、乾いた笑い声が聞こえ、その方向に視線を向けるとソフィアさんが冷め切った表情で立っていた。
否定はしていない。していないがその表情が雄弁に物語っていた。「ねぇよ」、、、と。
「う、、、うわぁあああぁああ!!!」
そんなソフィアさんの表情を見た男は急に叫び声を上げてどこかに走り去ってしまった。
「「「、、、、、、、、、」」」
その場を沈黙が支配し、顔を見合わせた俺と緋月は同時にフッ、、と笑うとやれやれと言った感じで肩をすくめたのだった。
恋愛って難しいね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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