第三話 『他者から見た自分』
第三話です。
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俺達が岩場に到着してから拠点に使えそうな地形を探していると、わりとすぐに良さそうな場所が見つかった。
洞窟、、、とまではいかないが良い感じに窪んでいて軽い雨風程度なら防いでくれそうだ。もともと、飲み水を確保できる川とその付近の安全そうな場所が見つかるまでの仮拠点として利用する予定の場所だしこれで充分だろう。とりあえず、ここで今日の夜を過ごして明日日が昇ったら森に探索に出よう。食料も水も手持ちがあるとは言えたったの2日分だ。飲み水になる川と食べれる木の実なんかを早急に探す必要がある。
やっぱり、食料問題が結構深刻だな。食べれる木の実や植物なんて見分けつかないぞ、俺。バナナでも実ってくれてりゃ流石にわかるけどさ。
かと言って動物を狩るにしても方法なんて木で槍や弓を作って追いかけ回す酷く原始的な手法かもしくは罠くらいしか思い浮かばないがどちらも現実的とは言えない。槍を持って走り回った所で足で野生動物に敵う気がしないし弓はそもそもちゃんと矢を飛ばせるものを作れるのかかなり怪しいところだ。
罠は俺でも作れて効果的な物となると落とし穴くらいしか思い浮かばない。だがそうなると抜け出されては困るのでそれなりの深さに掘る必要がある。それを素手か木の棒で時間をかけてせっせと掘って行くことになるわけだ。さすがに、絶対にかかる確証のないものに2日という貴重な時間の大部分を持っていかれるわけにはいかない。
後は魚介だけどコレも似たような物だろう。魚を獲れる罠なんて見当もつかないし釣竿は糸も針もない。後は直接潜ってモリで突いたり貝を取ったりがあるけどそもそもゴーグル持ってねえ。修学旅行で海自体はいったのだが、海外の海と言うこともありうちの学校では泳ぐ事は禁止されていたからな。
まぁ要するに動物も魚も取るには道具がいる。その道具を作るのにも時間がいる。となればしばらくは木の実等で食い繋ぎ生活に余裕ができたら狩りにチャレンジするのがベターだろう。
とは言え、流石にそんなサバイバル生活を送りたくはないのでなるべく早く救助が来てくれる事を願うばかりだが、、、正直、俺は救助が来るのはかなり先になるか最悪の場合、来ない可能性も考えている。
、、、やばい、いろいろ考えてたら不安になってきた。俺以外の5人の中に食べられる木の実とか詳しい奴がいてくれるといいなぁ、、、
「ねえ、いい場所も見つかったんだしそろそろ戻ろ?」
気分が重くなりため息をついていると熊谷がそう声をかけてきた。
「ん?ああ、、そろそろ合流の時間か」
先生も心配そうに声をかけてくる。
「渋谷くん、、大丈夫?」
何が?とは聞かない。もしかしなくても仁千佳達との事だろう。
「俺は平気ですが向こうは、、、さっきの様子だとどうでしょうね、、、」
俺が苦笑いしつつそう答えると先生が遠慮がちに質問をしてくる。
「その、、彼女となにかあったの?無理に話せとは言わないけど、、、今村さんがあんな風に怒鳴ってるところを初めて見たものだから、、」
、、まぁ、普段のアイツを知ってれば何かあったのでは?と思うのが当然だよな。実際、俺だって違和感を感じてる。
「それが俺にも心当たりなくて困惑してるんですよ、、、アイツ、明らかに俺の事嫌ってますよね?」
そう答えつつ俺は仁千佳との関係を簡単に先生に説明するのだった。
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「〜って感じです。修学旅行前にも普通に会話してたし本当に何が何だかって感じで、、」
「、、、もしかしたら、彼女も困惑しているのかもしれないわね」
俺の説明を真剣に聞いていた先生はしばらく考える素振りを見せるとそう言ってきた。
「アイツが困惑、、、ですか?」
何にだろう?
「ええ、この島に来てからの渋谷くん、まるで別人になったように変わったもの」
うん?なんか急に話が思わぬ方向に進んでるぞ?俺が、、、変わった?
「俺が変わった?、、、ですか?」
浮かんだ疑問をそのまま投げかけてみる。
「ええとっても」
先生は微笑みながらそう答えると慌てたようにもちろんいい意味でね?と付け加えてきた。
、、問題はそこじゃないのだが。
「それで、仮に俺が変わったとしてなんでアイツが困惑したり怒ったりする事に繋がるんです?」
とりあえず話を聞いてみようと質問を投げかける。
「自分の当たり前に思っていたものが急に無くなったり変わったりするのは凄く不安なものよ。私ですら渋谷くんの変化に気がついたのだから幼馴染の彼女はもっと明確に変化を感じてるんじゃないかしら?」
そこで先生は一瞬、言い淀む様子を見せてから言葉を続ける。
「実際、私達と合流した時には普通の様子だったのにあなたと合流してから、、、正確にはあなたが声を発してから明らかに様子が変わったように見えたわ」
「、、つまり?」
俺がそう返すと、先生はどこか気遣う様な雰囲気で言葉を選ぶように答える。
「つまり、こんな事態になって、ただでさえ不安な状態でよく知ってる渋谷くんまで変わってしまうってとっても怖い事なんじゃないかと思うの」
だからってその気持ちをあんな風にぶつけるのは良くない事だけどね、、と苦笑いしながら先生は言った。
ふむ。先生の言わんとしている事はなんとなく察した。要は、状況が状況だし出来れば仁千佳を許してやってほしいということが言いたいのだろう。
言ってる事はわかる。俺が悪いと言われると全力で抗議したいが、仁千佳や他のメンツの反応を見る限り俺が変わった事で悪影響を与えてしまっている事も事実なのだろう。問題は当の本人である俺にその実感がまっったくないせいでイマイチピンと来ていない事なのだが、、、
とりあえず一旦、俺にまっったく自覚がない、という事は忘れて考えてみよう。
理屈は、、まぁ、理解できる。正直、理不尽に怒りをぶつけられる身としてはたまったものではない。でも、現状を踏まえるとそうなっても仕方のない事かな、、、とは思う。本当に心当たりがないのだが「俺が変わった」と言う前提で今までの出来事を思い返すと腑に落ちる部分がいくつかあるのもまた事実だ。
まず、仁千佳は俺が普段オドオドウジウジしているとも、女しかいないから調子に乗ってるんじゃないかとも言っていた。
仮にアイツらからすると普段の俺がオドオドウジウジしてるように見えてたとする。なるほどたしかに、それならば調子に乗っていると感じるのも頷けない事はない。仁千佳たちからすると、急に俺が対等に接して来たもんだから「なんだァ?テメェ」となった訳だ。そう考えると俺が話したりすると所々おかしな反応を示していた事にも一応は説明がつく。
そこまで考えて、ふとある事に気がついた俺は愕然とした。そういえば、目が覚めた直後俺が話すと熊谷以外全員すごく驚いていた。つまり、、つまりだ。俺は、俺の事ををある程度知る人、、少なくとも同じクラス程度の距離感の奴からは″喋るだけで驚く″様な印象を普段から持たれていたと言う事だ。
、、、、え?ち、、ちょっとまって、、え?俺、みんなからそんな風に思われてたの?普通に泣きそうなんだが!?
いやいや、、、いやいやいやいやまてまてまて。絶ッッッ対にそんな事はないだろ!?そりゃあ確かにクラスの中心にいるような事はなかったがそれでもそんな評価を下されるのは流石に心外だぞ!?交友関係だって普通にあったし。
、、、、あった、、よな?
え?もしかして俺の勘違いだったりする?
友達だと思ってたのは俺だけでしたー的な?
「、、、、、、、、、、」
や、、やばい!猛烈に不安になってきた。
「あ、、あの〜」
俺は恐る恐る手を上げる。
「どうしたの?」
「あー、、先生の言ってる事はとりあえずは理解できたんですが、、そもそも、俺って何が変わったんですかね?その、、自覚が全然なくて、、、」
「えっ?」
「、、、え?」
先生が鳩が豆鉄砲を食らった様な顔になる。
あなたのその顔見るの2回目です先生、、、って言うかなに?そんな「自覚ないの!?嘘でしょ!?」的な反応される程なの?いよいよ怖さが勝ってきたんだけど、、、
「そ、、そんなに変わったのに自覚がないのね、、、」
ただひたすらに困惑する俺の様子から本気で自覚がないと悟ったのか先生が信じられない様な表情をしてそう言ってくる。
これっぽっちもないんです。なんかすんません、ハイ。
「そうね、、、なんというか、強くなったわね」
「強くなった、、、ですか?」
顎に手を当てて考える様な素振りを見せつつそう答えた先生に俺は困惑しつつ聞き返した。
先生の前でバイトと空手で鍛えた腕っぷしを振るった覚えはない。なので身体ではなく心の事を指してるってのはなんとなくわかるが、、、
「ええ、少なくとも私はこの島に来るまで渋谷君とお話しした事は無かったし、物静かで自信がなさそうな印象だったから、、こんなにちゃんと自分の意見を話せて行動力もある頼れる男の子だって知らなかったわ」
先生はクスクスと笑いながら俺の印象を語った。褒めてくれるのは素直に嬉しいが″以前の俺″に対する評価が中々に低くて泣けてくる。先生視点では俺はそういう風に見えてたのか。
「確かに、先生とお話しした事は無かったですね」
俺は記憶を探る様に視線を宙に漂わせてそう答えた。先生の人柄もあり、やたらと友達みたいな距離感の生徒も多かったが「教師と生徒」の距離感を保ってそれ以上は踏み込まない奴もいる。俺は後者だった。
先生は休み時間によく教室に来て生徒と話したりしていたが俺はさっさと教室を出て友達と遊ぶなり昼寝するなりしていたからほとんど関わって来なかったのだ。なので、物静かな奴と思われていたのはまぁ仕方がない。でも、自信がなさそうに見えていたのは地味にショックだ。
地獄のブートキャンプ(バイト)を乗り越え、正社員は俺を見ると背筋を正すようになり、逆にバイト仲間からは唯一暴力と恐怖の象徴たる店長と真っ向からやり合える存在という事で慕われていた。
そんな日々を過ごす内に自分が変わっていってるという実感があり自信もついてきていた。、、、少なくとも店長の暴力に怯えている頃よりは遥かに自分に自信が持てる様になってきたと思っていた、、、んだけどなぁ。この様子ではどうやら勘違いだったらしい。
ヤバい、、本当にちょっとショックだわ、これ。
がっくりと肩を落としていた俺だったが、ふと思い出し熊谷に話を振ってみる。
「そういえば熊谷は?俺が喋った時驚いてなかったけど先生達と同じような印象だった?」
俺が聞くと熊谷は無表情のまま一言で答えた。
「別クラスだったしよくわかんない」
「、、さいでっか」
俺は再びがっくりと肩を落とすと仁千佳達との合流地点に向けて歩き出すのだった。
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不慣れなものでしばらくは不定期更新が続くと思われますが投稿時間だけは固定しようかと思います。