第三十四話 『緋月先生の魔法講座』
第三十四話です。
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「ただいまー」
学校が終わり、帰宅した俺がそう言いつつ玄関に入ると後ろから声が聞こえてきた。
「お、、お邪魔します」
緊張しているのかガッチガチになってそう口にしたのはニチカだ。あの後、俺の感じている違和感について緋月に聞いてみると話をしたら気になるから一緒に聞きたい、、と言い出して現在に至るのだが、、、
無言でチラリとニチカを見ると、目が合った。
「、、、、、、、、」
目が合った瞬間、ニチカは耳まで顔を赤くしてバッと視線を逸らした。目は泳ぎまくって明らかに動揺している。
「、、、、、、、、」
こうなった原因には、、、一応心当たりはある。
というのも、ニチカがうちに来るという話の流れになった時「でも急にお邪魔したら迷惑じゃないかな?」と等と言い出したニチカに俺が「親は夜まで帰って来ねえから気にしなくて平気だよ」、、、と言った結果、こうなったのだ。
、、、確かに、少し言い方が不味かったかもしれない。これから異性の家に行くという時に「家に誰もいないから」等と言われたらそりゃ緊張もするだろう。でも、、そもそもの目的が「緋月に話を聞きに行く」だし、緋月が家にいる事はニチカも知ってるはずだよな?、、2人きりでもないのにどうしてこんなに緊張しているんだコイツは。まさか気付いてないなんて事はないよな?てかそんなに緊張されると謎にこっちまで緊張してくるからやめてほしい。
そんな事を考えていると、2階からドタドタと階段を駆け降りて来る足音が聞こえてきた。両親はいないのだから緋月の足音で間違い無いだろう。
「春樹ー!!待っておったぞおかえりなのじゃ!!!さっそく、、、む?ニチカもおるではないか!!!」
階段を結構な勢いで駆け降りてきた緋月は俺たちの姿を視界に入れた途端パァッと表情を輝かせた。
、、朝は漫画に夢中と言った様子だったけど、こんなに慌てて出迎えてくれるあたり案外コイツも寂しがってたんだな、、、意外とかわいいところも、、、
「ちょうどよいのじゃ!!!ちょっと2人で○○○して○○○○○○○や○○○○○○してる所を見せて欲しいのじァブヘェァ!?」
前言撤回。どうやら未だエロ本に夢中らしく、エロ本を俺たちに見せつけとても口にできない様な単語を真っ昼間から大声で叫び始めた緋月の鳩尾に拳を捻じ込み黙らせる。お腹を抱えて膝から崩れ落ちた緋月を冷めた目で見下ろしていると、その視線をみて何かに気が付いた様な様子を見せた緋月が口を開いた。
「、、、ハッ!?こ、、コレは『えすえむぷれい』というヤツじゃな!?まんがで読んだのじゃ!よもや妾が身を持って体験する事になるとは思わなんだが、、、はて?まんがでは喜んでおったが別に妾は嬉しくはないのう?」
「黙れ」
「ぴっ!?」
心底不思議そうにコテンと首を傾げる緋月に、自分でも驚くほど低い声でそう告げると、どうやら俺が本気でキレている事に気が付いたらしい緋月はビクリの肩を震わせて大量に汗をかき始めた。
「は、、春樹?」
「、、、1人で待つのも暇だろうと目を瞑ってたがいい加減目に余る。部屋にある漫画は全て処分する、いいな?」
俺がそう告げると、ガビーン!と擬音が聞こえてきそうな表情を浮かべた緋月は涙目になって口を開いた。
「そ、、そんな殺生な!?妾はただ本当に〇〇○に〇〇〇〇○すると人の子は喜ぶのか知りたかっただけなのじゃ!後生じゃからそれだけは、、フグゥ!?」
再び放送禁止用語を口にし始めた緋月の顔面を鷲掴みにした俺はそのままギリギリと締め上げつつ緋月に問いかけた。
「お前、なんでニチカがこうなってるかわかるか?」
俺の問いかけに、目線だけ動かしてニチカを見た緋月は首をフルフルと横に振った。
ちなみに、緋月の視線の先にいる先程からずっと一言も発していないニチカだが、元々極度の緊張状態にあった中さらにとんでもない爆弾を投下されたせいか、早々に白目を剥いて意識を手放し、現在は玄関先で力無く崩れ落ちている。
「、、お前の発言は耐性のない奴が聞くとこうなるんだよ。お前が何を好むかは自由だが、それを他者にまで押し付けるのはやめろ。それができるなら処分はしないでおいてやる」
俺がそう言うと、緋月はコクコクと頷いたのでため息をついて解放してやると、緋月はバツの悪そうな表情を浮かべて口を開いた。
「そ、、その、、すまんかったのじゃ。人の子らは皆当たり前にしている事だと思った故、まさか気絶するほど苦手なものがおるとは思わなかったのじゃ、、」
「、、、ちなみに、お前が今口にしたのはかなり特殊な性癖だと思うぞ。、、、俺もいくつか理解できない単語あったし」
俺がそう伝えると、再びガビーンとした緋月は「そ、、そうなのか!?」などと言って驚いていた。
、、、種族の違いもあるし、一才の悪意がないのもわかるが、、純粋な興味だけで言ってるあたりむしろタチが悪いな。一度しっかりとその辺りを教育した方がいいのかもしれない、、
なんだか猛烈に疲れてきた俺は、そう考えをまとめるとニチカを抱えてリビングまで運び、緋月と適当に会話を交わしつつニチカが目覚めるのを待つのだった。
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「んぁ、、、あれ、、?」
しばらく待っていると、目を覚ましたニチカが目をこすりながら不思議そうに辺りを見回し始めた。まだ寝ぼけているのか状況がうまく飲み込めていないらしい。そんなニチカの前に緋月が立った事で、ニチカは困惑しながら口を開いた。
「り、、竜神様?」
「うむ。ニチカよ、先程はすまんかったのじゃ!妾はただ春樹とニチカが交尾をしておる所を見てみたかっただけでまさかお主が気絶するほど苦手な事だとは思わなかったのじゃ!どうか許しておくれ」
緋月はそう口にすると深々と頭を下げた。
先程とは違い放送禁止用語は飛び出していない辺り、、多分、、と言うか間違いなく本人は本気で反省して本気で謝ってるんだろうが、、ニチカに対して交尾という単語が平気で出て来る辺り、本当の意味で理解できていないなコレは。仕方ない部分はあるとは思うがやはり認識が根本からズレている。
俺が頭を抱えていると、謝罪を受けたニチカはビシリ!と固まり、ギギギ‥‥と音がするようなぎこちない動きでこちらに視線を向けると先程のことも思い出したのか顔を耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
、、、はぁ、、なんか面倒になってきた。これ以上爆弾が投下されて気絶されても面倒だし、さっさと当初の目的を果たす事にしよう。
「ところで緋月、聞きたいことがあるんだけど」
「む?なんじゃ?」
そう言いながらこちらを振り向いた緋月に俺は、上手く言語化ができず苦戦しつつもなんとか今日感じた謎の違和感について説明すると、少し驚いた様な様子を見せた緋月は顎に手を当て感心した様な表情で口を開いた。
「、、ほう。まさか一度で気がつくとは思っておらんかったのじゃ」
「、、、どういう事だ?」
明らかに訳知り顔でそう口にした緋月に怪訝な表情を浮かべた俺が問いかけると、緋月は特に気にした様子もなく真相を語り始めた。
「お主が感じた違和感の正体は、人の子らが『魔力』と呼ぶものじゃよ」
「、、、それが魔力だとして、、その口ぶりだとお前が何かしたのか?」
「うむ!『こみけ』に行っておったのじゃ!、、、どうやらいつでも開催されておるものではないらしく、行っても無駄足じゃったがの、、」
シュン、、としながらそんな事を言ってきた緋月に一瞬、思考が停止する。
、、、うん?こみけってコミケか?詳しくは知らないが、アレってコスプレする人らが集まる祭りみたいなもんじゃないのか?なんかニュースで駅の改札を物凄い勢いで走り抜けていく大勢の人が報道されているのをみた記憶がある、、、がそれは今はいい。それよりもなんで急にそんな話が出てきた?
「お前はそのコミケに何した行ったんだ?、、、てかそれがなんの関係が、、?」
「まんがを買いに行きたかったのと、ついでに何度か折を見てお主から離れねばと思っておった故、都合が良かったからじゃな。お主が違和感を覚えたのは昼過ぎの事であろう?妾はちょうどその頃出かけていたのじゃ」
漫画が主目的で俺に関する要件はついでかよ、、まぁいい。
「、、それで?お前が離れた事と俺が急に魔力とやらを感じたのがどう繋がるんだ?本で調べたけど魔力なんてこの世界にはそこら中に満ちてんだろ?」
俺がそう問いかけると大きく頷いた緋月は口を開いた。
「うむ、その認識で間違いない。魔力はどこにでも存在しておるが、妾の周囲に限っては話が変わって来るのじゃ。春樹も、妾が四大精霊と呼ばれておる事を知っておるじゃろう?妾達精霊と呼ばれる存在は魔力で構成されており、その身体から常に魔力が発せられておる」
緋月はそこで一旦言葉を区切ると、俺をチラリと見てから続きを口にした。
「つまりは、春樹はこちらの世界に来てから常に妾の魔力に包まれて過ごしており、その環境に慣れておった訳じゃ。そして妾が離れた事で本来世界に満ちておる魔力の方に触れ、知覚した。寒い部屋から暑い部屋に移動した様なものじゃ」
まさか一度で気付くとは思わんかったがの、、と笑いながら言う緋月の言葉に俺はなるほど、、と腑に落ちた。『慣れ』という部分に関してはほんの数時間前に実感済みだ。実際、今もあるのは確かにわかるのに違和感はもうほとんど感じなくなっている。
それは理解した、、が、まだいくつかわからない事がある。
「、、、その理屈だと、俺だけ気がつくのはおかしくないか?結構、露骨な変化だったぞ?あと、、そもそも空気中にある魔力感じ取れる様になって何かいい事があるのか?」
そう問いかけると、「ふむ、、」と顎に手を当てしばらく思案顔を浮かべていた緋月はそこにある見えない何かをそっと手のひらの上に乗せる様に掲げると口を開いた。
「今、妾達が触れている大気の中には様々な物が含まれておるが、お主はそのうち何がどれだけの割合を占めていてどれくらいの量が触れておるのか理解しておるのか?、、、お主とこの世界の者達とでは前提が違う。この世界の者達は生まれ落ちてから常に魔力に触れ暮らしておるのじゃ」
「それは、、、」
なるほど、と思った。
確かに、動いた時に肌にあたる風等で空気の存在は感じ取る事ができるが、その大気中には窒素や酸素、水蒸気といろんな成分が含まれており、場所や天候等周囲の環境で割合の変わるそれら一つ一つを知覚できるのかと言われたらそんなもん分かる訳がない。
要するに、この世界の人達にとって魔力も込みで『空気』なのだ。そして魔力がない世界に住んでいた俺は、島に来て気絶している間にも常に緋月の魔力に触れ続けた事で気づかないままその環境に慣れてしまい、緋月が離れた事で別の、、本来世界に漂っている通常の魔力に触れようやく明確な違和感とした感じ取る事ができた、、という事だろう。
俺が納得した事が伝わったのか、緋月は満足そうに頷いてから続きを口にした。
「そして意味があるのか、、と言う問いじゃが大いにある。『正しい魔法』を行使する上で、魔力の存在を感じ取れる事は必須条件なのじゃ」
「『正しい魔法』、、?たしか、、ネットで調べた知識だけど魔法は自分の体内にある魔力を利用して引き起こしている現象、、、だよな?それが間違ってるって事か?」
そう口にしながら俺は記憶をたぐった。
『魔力』とはこの世界の大気中に漂っており、人は呼吸によって酸素などと一緒に魔力を体内に取り込み、循環させ、その過程で自らの体質に合わせ変質した魔力を『魔法』として行使する、、、だったはずだ。ネットで調べた情報だし、そもそもがまだまだ謎の多い分野らしく、様々な説が提唱されていたが「体内に取り込んだ魔力を使用して魔法を行使する」と言う根本の部分ではどの説でも共通していたはずだ。
「うむ、正確には間違っておらぬが正解という訳でもないのじゃ。自らの体内に取り込んだ魔力を使用して魔法を行使しておる事に間違いはない。じゃが、人の子らはそもそも『魔力』というものに対しての認識が少しだけ間違っておる。」
「魔力に対する、、、認識?」
俺の問いかけにうむ、と頷いた緋月は口を開いた。
「魔力とは『想いに呼応して現象を引き起こす力』じゃ。故に本来は体内に取り込んでおろうがなかろうが使える。じゃからこの世界の者達には使用する事ができないのじゃ」
「、、、その理屈だと、、お前が人間にその事実を教えれば使える様になるんじゃないのか?」
「うむ、道理じゃな。じゃが、過去に何度か試したことはあるが無駄じゃったのじゃ。そうじゃのう、、例えばじゃが春樹よ、お主には目に見えないが翼がついておると言われたとして、それを信じて崖から飛び降りる事はできるかの?」
「それは、、、無理だな」
俺がそう答えると、緋月は頷いてから続きを口にした。
「それと同じ事じゃよ。背中に翼がある、、と言われたとて、見えもしなければ感覚もないものを信じて飛ぶ事などまともな神経ではできるものではない。どうしても心のどこかで疑いを持ってしまうじゃろう?先程も言うた通り『想い』が原動力となる魔力はその程度の曖昧な認識では動かす事は叶わぬのじゃ。故に、そもそも魔力を知覚できぬこの世界の者達では使用することは不可能という訳じゃ」
「、、、なるほど」
いまいちピンと来ていなかったが、翼の説明でなんとなくは理解できた。、、、できたのはいいが、、あれ?そもそもそれがどうしたって話なんだったっけか?
そう混乱する俺に、人差し指を立てた緋月が宣言した。
「つまり、これでお主も魔法が使えるようになったという訳じゃな」
「、、なにそれ詳しく」
『魔法が使える』という言葉に、混乱していた頭が一気に冴えた俺はガタッと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、緋月に詰め寄った。ちなみに先程から静かなニチカはと言うと、随分と前から白目を剥いてポカンと開いた口からヨダレを垂らしている。まぁ、、今緋月がした話は魔法が当たり前の世界の住人にとって天動説が覆された時並みの衝撃的な事実だったはずだ。無理もない、、、が今はそんな事どうでもいい!魔法だ魔法!魔法が使ってみたい。今すぐにだ!
魔法が使えるようになる、、という事実に完全にテンションがブチ上がった俺は、口からエクトプラズムを吐き始めているニチカを放置して興奮気味に緋月に教えを乞い始めたのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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〜少しだけ補足〜
体内に魔力を取り込みすぎたり、逆に使いすぎたりすると体調に影響が出ます。
この世界の人達は基本的に、幼少期に魔力の取り込みすぎによる『魔力熱』と呼ばれる発熱の際に自らの体内を循環する魔力の存在を知覚し、魔術の使用ができるようになっています。
他の要素で気がつく例もありますが1番事例が多いのは『魔力熱』に罹った事によるものになります。




