第三十一話 『学校』
第三十一話になります。
よ う や く 登 校
感想、ご指摘などお待ちしております。
「あ、、春樹!おはよう」
「おう、おはよう」
朝、玄関を出るとちょうど隣の玄関から出てきたニチカが元気よく挨拶をしてきた。その姿はブレザータイプの制服を身に纏っており、髪はお団子ヘアーにしてカバンを背負い、腰には細身の剣を携えている。
そう、今日は退院から1週間が経ち学校に復帰する日、俺にとってはこちらの学校では初登校となる日だ。そしてニチカは見ての通りかなり元気になった。というのもこの1週間、ぶっちゃけする事がなかった俺は、よくニチカを誘って適当に街をぶらぶらしたりしていたのだがその甲斐もあってかこうして自分から声をかけてくれるくらいには打ち解けてくれたようだ。
ちなみに、緋月はあの後ずっと家に引き篭もってひたすらエロ本を読み漁っていた。純粋に「絵で物語を表現」しているのが気に入っているだけで別にエロいものが好きと言うわけではなさそうなのだが、、いかんせん置いてある本の大半がエロいせいでどんどんと妙な知識を身に付けていっている。先日など、とうとう「ちょっとズボンを脱いでこのまんがのようになっているところを見せてほしいのじゃ!」などとエロ本のページを俺に見せつけながら曇りなき眼で言い出したので思わず本気でビンタしてしまった。
、、アイツは、もうダメかもしれない。少なくとも、アイツを崇拝する連中に今の緋月を見せたら間違いなくこの世から宗教が一つ消えることになるだろう。
俺は、日を増す事に残念さが増していく緋月を忘れるように改めてニチカに目を向けて観察してみる。制服自体はブレザーの上着に、青いチェックのリボンとスカートという、日本にいればそこかしこで見かけるようなありふれたデザインなのだが、、やはり腰に差した剣が異質だ。この世界では当たり前なんだろうし、実際この1週間もう何度も帯剣している人々を目にしているのだが、、俺としてはやはりまだ違和感が拭えない。ちなみに、制服自体に剣帯が付いており、一応俺も緋月から譲り受けた刀を腰に差している。、、刀など、普通に素手で戦った方が強いレベルでまっったく扱えないが。
「、、春樹、、ど、、どうしたの?なにかヘン?」
俺がジーっと見つめていたせいで少し顔を赤くしたニチカがそう問いかけてきた。
「あぁ、、いや、、そういや何気にお前がお団子にしてんの初めて見るなって、、新鮮でいいね、似合ってる」
「そ、そう、、かな?」
俺が適当に誤魔化すと、ニチカは耳まで赤くして俯いてしまった。その姿を見て若干罪悪感を感じるがまぁ実際に初めて見たし似合ってると思ったのも事実だから許してほしい。
ちなみに、言うまでもないと思うが緋月は今も家でエロ本に夢中である。一応、形式上は俺の使い魔扱いになっているので学校に連れて行くことも可能なのだが、学校と言う未知と現在読んでいる女教師と生徒の禁断の恋の展開とを天秤にかけた結果、どうやら後者に秤が傾いたらしい。寝っ転がりこちらに尻を向けながら「面白い事が起こったら盟約の力で呼び出しておくれ〜」などと抜かしていたのでとりあえず尻を蹴り上げておいた。
それにしても楽しみだ。こんなに学校に行くのが楽しみなのは小学生の遠足の時以来かもしれない。個人的に魔法の授業とやらがとても気になっている。俺も魔法とか使えるようになるんだろうか?そういえば緋月にその辺りのこと聞いてなかったし今度聞いてみよう、、、ぜひ火の玉とか撃ってみたい。
「春樹、、その、、本当に大丈夫?」
俺が期待に胸を膨らませながら歩いていると、どこか遠慮がちにニチカが問いかけてきた。
「大丈夫って、、なにが?」
なんとなく今から何を言われるのか察しつつ、そう問いかけるとニチカは目を泳がせながら口を開いた。
「その、、前にも話したけど、、春樹に絡んでくるやついると思うし、その、、お手柔らかにね?女の子とか、、目があっただけで泣いちゃう子とかいると思うから」
、、たしかに、こちらの俺をいじめていた連中が絡んでくるだろうと事前に言われていた。、、が、それはいいとして目があっただけで泣くって、、俺の事なんだと思ってるんだ、、
「あはは、、流石にそれは大袈裟すぎだろ」
「、、、、、、、、」
俺が笑いながらそう言うと何故かニチカは無言で目を逸らした。
「、、、、ニチカ?」
オイ、何故目を合わせない?
と、そんなやり取りをしているうちに学校に到着した俺達は、下駄箱で靴を履き替え、階段を上がり教室の前に立つと中からは生徒達が各々話す賑やかな声が聞こえて来る。
なんか、、緊張するな。経験したことはないが、転校してきた生徒とかこんな気持ちなんだろうか。
そんな事を考えつつ、教室のドアを開けて中に入るとそれまでの喧騒が嘘のようにシン、、と静まり返った。まぁ、こんな感じになるだろうと予想はしていたのでさっくり無視して教室に入るとやがてヒソヒソとこちらを見ながら話す声が聞こえ始めた。それらも無視して自分の席に座ろうとして、はて?自分の席ってどこだ?と困った俺だったが誰かに聞くまでもなく自分の机はすぐ見つかった。
、、まぁ、事前情報と照らし合わせれば、、間違いなくアレが俺の机だよなぁ、、
「お、、おぉ、、」
そう思いながらその机に近づくと思わず声が漏れた。その机には花瓶が立てられており、天板には彫刻刀やおそらく油性ペンで「偽勇者」や「嘘吐きの卑怯者」から「臭い」や「死ね」などと言ったシンプルな暴言までバリエーションに富んだ罵詈雑言が所狭しと書かれていた。
べ、、ベダだ!!
す、、凄え、、ちょっと感動しちゃったぞ。ドラマとか以外で実際にこんなないじめってあるんだなぁ、、、まぁ、とりあえず偽勇者とか書いてあるし俺の机で確定だな。
そんな事を考えつつまぁ使う分に特に不便はないな、、と思いこれも無視することにしてさっさと座ろうと椅子をひいたら画鋲が仕込まれていた。
「、、、、、、」
あえてそのまま座って飛び上がってみせるユニークな感性は持ち合わせていないので適当に払って座り、少しドキドキしながら引き出しの中に手を伸ばしてみると、、、湿った雑巾が入れられていた。
、、、クッ!!オイ嘘だろ!?コイツら一体どこまでベダな事すりゃあ気が済むんだ!?ここまで来るとちょっと普通に楽しくなってきちゃったぞ?
なんだか本当にテンションが上がってきた俺は辺りを見回してみると、皆こちらを見てヒソヒソ話したり、聞こえる様に悪口を言っていたり、露骨に睨んできてる奴もいる。
素晴らしい。最早天晴れといえる見事な嫌われっぷりだ。
逆に何をすれば人はここまで嫌われる事ができるのか後学のために是非とも聞いてみたいところだ、、、が、まぁ理由なんてないんだろうなこんなのは。きっかけになるような事はあったのかもしれないが、、大半はまぁ自分が攻撃されなければ誰でもいいって感じだろう。
そんな事を考えつつ視線を巡らせていると、教室に入ったところで別れたニチカの姿が目に入った。盛島、広瀬の仲良し3人組で生徒に囲まれて、おそらくは無人島での経験について質問攻めにあっているのだろうが、、3人ともその表情はひどく青ざめ、脂汗をかきながらこちらにチラッチラッと何度も不安げな視線を向けてきている。
、、フッ、、そんな顔をせずとも安心して欲しい。この程度のことでショックを受ける俺ではない。強がりではなく、割と本気で楽しむ余裕すらある。バイト先の店長や牧瀬さんと言ったこの世の理不尽を煮詰めた様な存在と接してきた俺にとってこの程度は児戯に等しい。むしろ、微笑ましくすらあるくらいだ。
「オイ、根暗野郎」
俺がそんな事を考えつつ余裕の笑みを浮かべていると突然近くでそんな声が聞こえてきた。声の方向に視線を向けると1人の男子が取り巻きを引き連れてこちらを睨んでいた。
おお、、さっそく絡んできたな、、ってか若林じゃねえか!!
「若林かよ!」
驚いて思わず声に出てしまったが、、そう、コイツは若林翔太。元の世界ではとても仲が良かった、、、のだが、どう考えても俺をいじめてる奴らのリーダー格の雰囲気をしてらっしゃる。
、、、なんかショックだな、、気のいい奴だと思ってたんだけど状況が違えばこんなくだらねえ事するような奴だったのか。
「、、、テメェ、、今なんつった?オイ」
俺が少しショックを受けつつそんな事を考えていると、呼び捨てされた事が気に食わなかったのか片方の眉を吊り上げた若林が襟を掴んできた。
「、、気を悪くさせたんなら謝る、悪かったよ。だから手、離してくれないか?」
この程度、店長に比べれば子犬がじゃれついてきているような物なのであくまで穏やかに、紳士的に対応しているとその態度が気に食わなかったのか今度は頭を殴られた。
、、うーん、この手合いは厄介だなぁ。コイツらは正直殴れれば誰でもいいと思ってるんだろうが、、かと言って別の誰かにターゲットを押し付けるわけにもいかないし暴力で解決しても結局はいじめの対象が別の誰かに移るだけだろう。つまり、死ぬ程厄介で面倒だ。
、、まぁ、ヘラヘラして適当に流してりゃそのうち飽きんだろ。
「うるせえよ!テメェ勇者に選ばれたからって調子に乗ってんじゃねえのか?どうせ卑怯な手でも、、、な、、なんだよ?」
再び笑みを浮かべた俺に大声で喚いていた若林は、何やら途中から様子がおかしくなった。
、、、?何をいきなり動揺してんだ?コイツ。
「ち、、ちょっと!!やめときなさいよ!!」
俺が若林の急な変化に不思議がっていると、横からそんな声がかけられた。視線を向けると、声を発したのはニチカだった。そんなニチカに盛島と広瀬も「そうだよ、そろそろ先生も来るしやめときなよ」などと続いて声を上げるのだが、、3人とも相変わらず青ざめた顔で目線はバッチリ俺を捉えている。
、、、あれ?おかしいな?俺、今絡まれてる側で暴力まで振るわれたのにめちゃくちゃ大人な対応してたよな?それなのにどうしてそんな目を向けられなきゃいけねえんだ?
あ、、やばい。なんかだんだんムカついてきた。そもそも、なんで俺我慢なんてしてたんだ?、、なんかもうどうでも良くなってきたな。
「はぁ?、、なに?お前らコイツのこと庇ってんの?もしかして3人ともコイツの事好きなん、、、」
バキャッ!!
「、、、、、え?」
何か違和感を覚え猛烈に嫌な予感を感じていたが、大勢の前で喧嘩をふっかけた手前、襟首を掴んでいた手を離せずにいた若林はこれ幸いと3人に矛先を向け始め、幼稚な煽りをしようとしたところで謎の音が鳴り響き、セリフを中断されられた。
音の正体は、色々とめんどくさくなった俺が机をぶん殴って破壊した音だ。
ギギギ、、と油を差し忘れた機械のようにぎこちない首の動きで音の方向へ視線を向けた若林はバラバラに破壊された机を見て、呆然と呟いた後手を離して数歩後ずさった。他の連中も、俺の態度がよほど意外なものだったのかポカンと口を開けている。
俺はそんな若林や周囲の反応には目もくれず、黒板の前まで移動して教壇の上に座り込んで、クラス全体を見渡すと口を開いたのだった。
「とりあえずお前ら全員、教室の後ろに並べ」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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