第二十九話 『後悔』
第二十九話 ニチカ視点です。
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「ハァ、、ハァ、、」
やってしまった。
「ッ!!ぐすっ、、ひぐっ、、ゔぅ、、うあぁああぁ」
公園で春樹と別れてそのまま走って帰宅した私は、玄関扉に背を預けてしばらく荒い息をついていた。しばらくして落ち着いて来た事で、今まで必死に我慢していた涙が溢れ出し、そのままズルズルと崩れ落ちて嗚咽を溢した。
やってしまった、、やってしまった。
春樹に、告白してしまった。
本当は、あんな事言うつもりじゃなかった。
ただ、話を聞いて帰るだけのつもりだった。
それなのに、、それなのに春樹がこんな私とまだ仲良くしたいと思ってくれている事がわかって嬉しくなって、、つい聞いてしまった。
そんな私の質問に、春樹は完璧と言っていいほど私の抱いている理想像そのままの回答を示した。それだけでなく、私との噂が立つ事を悪い気がしないとまで言ってくれた。
そこに、特別な意味なんてない事はわかってる。
きっと、、熊谷さん辺りが同じ質問を投げかけても春樹は同じ回答を返した筈だ。もしかしたら、恵美や郁美でも同じ答えを返すかもしれない。少なくとも、「私だから」じゃない。ただ「女の子との噂が立つのは光栄だ」くらいの社交辞令のようなものだろう。
そんなこと、わかってる、、、わかってる筈なのにそこからはもうダメだった。少なくとも拒絶はされなかった事実に、抑え込んでいた感情が溢れ出し、制御できなかった。
その結果が、このザマだ。
勢いで全部喋って告白までしてしまった。
春樹、、すごく困った顔してた。
それも当然だと思う。春樹からすれば、いきなり私が突拍子もない質問をしたと思ったら一人で語り始めて、告白までして来たのだ。急展開すぎて、私が逆の立場だったとしても困惑する。
もちろん言った言葉に嘘はない。
自分にこれ以上嘘はつきたくないと思ってるのも事実だし、私は春樹のことが、、いや「異世界から来た春樹」の事が好きだ。この1ヶ月、軟禁生活で春樹に会えなかった事で逆に1人で落ち着いて考える事ができたからこそ断言できる。過去の春樹や私の理想像としての春樹ではなく、突然現れた彼に私は恋に落ちた。
でも、だからって告白はないだろう。
自分の気持ちに嘘をつかない事と告白する事はイコールじゃない。私は、ただ自分の気持ちを受け入れて胸にしまっておけばよかったんだ。それが異世界から来た春樹が好き?絶対に諦めない??覚悟しておけ???
本当に、、どの口で言えたのだろう。
そうして、自己嫌悪やらなんやらでひたすらうずくまって泣き続けた私は、異変を察知して玄関にやって来た両親とロクに再会の挨拶も出来ぬまま、自室へと運ばれたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「、、、これから、、どうしよう、、」
両親に部屋まで運ばれて、ベットの上でひとしきり泣いて少し落ち着いた私は、やはり後悔の念に苛まれていた。
正直に言って、春樹に合わせる顔がない。
せっかく仲良くしたいって言ってくれてたのに、、、
「、、、っ!!」
再び涙が溢れそうになるのを必死に堪えているとインターホンの音が鳴り響いた。2階にある私の部屋はちょうど窓から玄関先が見えるので普段はこっそりと窓から覗いて誰が来たのか確認したりするのだが、、今はそんな気分ではない。
そうして、ベットの上で座り込んだまま動かないでいると階段を上がる足音が聞こえ、部屋のドアがノックされた。
「仁千佳?春樹君が来てるわよ」
そんな母親の言葉に一瞬、頭が真っ白になる。
な、、んで春樹がウチに?
いや、、春樹の事だ、、きっとあんな別れ方したから心配して来てくれたんだ。でも今は、、今だけはちょっと無理だ。絶対にこんな姿を見せたくない。
「お母さんごめん、、今は出れないって伝えておいて」
「あー、、それは無理ね。春樹君、もう隣にいるから」
「、、、エッ?!?」
私が驚愕の声を上げると、母親は呑気な様子で更に続ける。
「今のアンタには必要そうだと思ったからあがってもらったのよ。、、じゃあ春樹君、ウチの我儘娘の事お願いね?」
そうして、母親が遠ざかっていく気配がしてしばらく無言の時間が流れた。
「、、、ニチカ、入れてくれないか?」
「っ!!、、、ご、、ごめん、今は帰って」
罪悪感に押しつぶされそうになりつつも、こんな情けない姿を見られたくないと言う気持ちが勝った。本当に私はダメな、、
「わかった。ブチ破る」
、、、はぇ?ぶ、、ぶち破る、、?なにを?
聞こえて来た不穏な単語に動揺するどころか理解すらする間もなくバキャッという音が鳴り響き、蝶番が吹き飛び、ドアノブを手にした春樹がそのまま押し出すような形でドアごと部屋に侵入して来た。
「よいしょっ、、と」
「あ、、、ぅあ、、、」
ドアを壁に立てかけ、何事もなかったかのようにこちらにスタスタと歩いてくる春樹。私の方は、あまりの事態に理解が追いつかず、口をぱくぱくさせて言葉にならない声を発することしかできなかった。
、、、あぁ、、春樹が私の部屋にいる。いったい、、いつぶりだろう。それこそ春樹が私の部屋に来たのなんて、、私の、、部屋、、、?
「っ!!!!み、、見ないで!!!!」
突然の出来事に完全に放心状態になっていた私は、ようやく事態を把握し、悲鳴なような声でそう叫んで慌てて布団に潜り込んだ。
「そう言われても既に見ちゃったし、、なんだったら昨日病院でもっとエグい顔みたし今更だろ?、、そもそもガキの頃からお前の泣きっ面なんて何回見たと思ってんだ?」
「〜〜〜〜っ!!」
布団に避難した私に、容赦のない言葉のナイフが浴びせられ、羞恥心やらなんやらで声にならない悲鳴をあげて悶絶した。
エグい顔って、、そんな言い方しなくても、、
言われた内容に死んでしまいたい気分になるが、、それと同時に違和感も感じた。嫌な違和感ではない、、むしろ心地のいい違和感なのだがそれがなぜなのかはわからない。わからないが先程までの春樹とは何かが違う気がする。
「とりあえず、自分から布団を取るか、俺にはぎ取られるか選べ」
私が違和感の正体について考えていると、春樹がそんな事を口にして来た。
、、、このまま引き篭もっている選択肢がない!?ていうか春樹が布団を剥ぎるとるって言った?ベットの上で?
「、、、、、ゴクッ、、」
その場面をおもい浮かべ、思わず生唾を飲んだ私を見て、出てくる意思なしと判断したのか春樹は布団をつかんで一気に引き抜いた。布団を掴んでいた私の手はあっさり解かれ、ズバン!という音を立てて布団だけがものすごい勢いで引き抜かれ、丸まった状態のなんともマヌケな姿の私だけがベットの上に取り残された。
、、、、なんか、、思ってたのと違う。これじゃあまるで、テーブルクロス引きだ、、
ちょっぴりガッカリしつつその状態からゆるゆると体勢を起こすと、真面目な顔でこちらをジッと見つめている春樹と目があった。
「、、ぁ、、、」
その瞬間、胸が殴られたような衝撃を覚えて思わず小さな声が漏れ、息が止まった。心臓がうるさいくらいに激しく鼓動を刻んでいるのがわかる。先程まで必死に隠してた見られたくないものが全部見られてる。それなのに、吸い込まれたように目を逸らすことが出来ない。
「、、、ごめんな、、」
そんな私に、春樹は謝ってきた。
どうして、、春樹が謝るの?
むしろ謝らなきゃいけないのは私なのに、、
私と付き合えないから?
だとしたら聞きたくない。
そんな事で謝ってほしくない。
「どうして春樹が謝るの?」
そう思ったままに問いかけると春樹は神妙な表情でスッと横を指差して口を開いた。
「ドア、、壊しちまったから、、一応来る前におばさんに許可はもらってたんだけど、、」
「アッハイ、、ソレハ、、ソウデスネ」
一瞬でスンッと素に戻った私はカタコト口調でそう答えた。
なんだ、、そんな事か、、いや、、入ってこないでと言う女の子の部屋にドアを破壊して押し入り、布団を剥ぎ取っているのだからそんな事で済ませていい事ではない気がするけど、まぁ春樹ならいいや、、
なんだか色々と驚きすぎて疲れてしまった私は雑に結論を出して、気が付いた。さっきまであんなに自己嫌悪に陥って気分が落ち込んでいたのに、気が付けばいつの間にかそんな感情が綺麗さっぱり消え去ってる。
やっぱり、、春樹は凄いな。昔から落ち込む隙なんてこれっぽっちも与えてくれない。今だって、春樹がこの部屋に来てからいったい何回感情を揺さぶられただろう。
それとも、私がチョロすぎるだけなのかな?
「さて、じゃあ行くか。悪いけどちょい付き合ってくれ」
そう口にした春樹はベットに座っている私の手をとって立ち上がらせると、私の返事も聞かずに手を引いてさっさと歩き出してしまった。
再び、感情が揺さぶられる。
春樹が、私の手を引いて歩いてる。こうしているとあの頃に、、もう二度と戻れないと思ってたあの頃の関係に戻ったみたいだ。
行き先も、目的もわからない。
さっきまであれだけ大泣きしていたのだから顔だってきっと酷いことになっているだろうし正直外に出たくはない。それでも、私にこの手を振り解く選択肢など取れるはずがなかった。
そうして私は、抑えきれない感情を胸に抱えながら春樹に手を引かれて部屋を飛び出したのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
学園生活編と銘打っておきながら一向に学校生活が始まらずに既に二章も九話目になりますが、後1〜2話くらいで学校に通い始めると思われますのでしばしお待ちを、、、
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