第二十八話 『告白』
第二十八話です。
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「「、、、、、、、、」」
現在、カモフラージュ用の家からそれぞれに用意されたタクシーに乗り込み帰宅中なのだが、こちらの世界でも幼馴染で家も隣同士らしいニチカと俺は同じタクシーに乗せられる事になったのだが、、、非常に気まずい。チラリ、、と視線を彷徨わせると横に座っているニチカは俯いて膝の上で手を握り、ピクリともしない。助手席に座る緋月は外の景色に夢中だ。
ダメだ、、あの駄竜に助けは期待できない、、くっ!、、こんな事なら前がいいと駄々をこねる緋月をぶん殴ってでも俺が助手席に座るべきだった。、、でも、、思えば結局島から出て離れ離れにされて今までろくに会話できてないしちゃんと話さないとな、、、
「なぁ、、ニチカ」
「ッ!!、、、、、なに?」
話をしようと声をかけると、ビクッと身体を震わせたニチカは少し間を開けてから応じてくれた。
「、、パンダ公園って、、、わかるか?」
「!!」
俺がそう問いかけると、ニチカは大きく目を見開いてからコクリと頷いた。ちなみにパンダ公園とは俺と仁千佳が子供の頃よく遊んでいた公園の事だ。パンダの頭を模したドーム状の遊具やら、パンダ型のスプリング遊具等があるから近所ではパンダ公園と呼ばれていたが正式名称は知らん。まぁそれはともかく、、この反応を見る感じこちらの世界の俺たちも同じようにあの公園で遊んでいたっぽいな。
「、、その様子だと、、、子供の頃よく2人で遊んでた、、で間違いないか?」
「、、、、うん」
確かめるように投げかけた俺の質問にニチカは悲しそうな表情を浮かべ頷いた。
まぁ、、気持ちはわかる。
2人とも「幼少期に2人で過ごした公園」という共通認識があるのに、実際に過ごしたのは別の人だ。おそらくは記憶も詳しく掘り返せば同じところもあれば違うところもあるのだろう。似たような道を辿ってきていてもあくまで似てるだけ、同じじゃない。当事者同士なのに思い出を共有できないというのはなんというか、、悲しい。
俺はなんとなく落ち込んだ気分を誤魔化すように頭を振ってから口を開いた。
「なら、、家からもそんなに離れてないはずだしそこに行き先変更していいか?少し話もしたいし」
俺がそう提案しつつタクシーの運転手の方にチラッと視線を向けると、この場では話しずらいという意図を察してくれたのかニチカは無言でコクリと頷いた。それを確認した俺は、タクシーの運転手に行き先の変更を伝え、、ようとしたのだがそういえばあの公園の正式名称を知らない。ニチカも同じく知らないらしく、困った俺はなんとか公園の特徴を伝えようと試みた。その結果、タクシーの運転手は俺の拙い説明だけという少ない情報から正解を導き出しなんとか目的の公園まで辿り着いてくれた。病院から距離も結構あるしここらの地理には明るくないだろうに、、流石はプロだ。
そんなこんなで公園にたどり着いた俺とニチカは話をしやすいように遊具とは少し離れた位置にあるベンチに腰掛けた。ちなみに、2人きりで話したかったので到着早々緋月には遊具で遊ぶ許可を出しておいた。
ソワソワしていたのでまさか、、と思いつつ許可してみるとパァッと笑顔を浮かべ遊具に突撃、、、現在は子供達に混ざって滑り台でキャッキャしている。
現代のものが物珍しいのはわかるが、、人々から竜神様と呼ばれ崇められる存在がそんなんでいいのか、、?まぁ、、本人もすごく楽しそうだしこっちも今は助かるからいいけども、、
なんか知らんけど綺麗で面白いお姉さんが来た!、、と子供達に取り囲まれ大人気の緋月を横目に、意識を切り替えた俺は話を切り出した。
「それで? 回りくどいのはガラじゃねえし単刀直入に聞くけど、こっちの俺と何があった?」
「ッ!!」
そう問いかけたニチカの反応は劇的だった。一瞬で表情が強張り、何かを堪えるように歯を食いしばって拳を握りしめて俯いてしまった。
、、無人島の時からわかっちゃいたけど、、こりゃ相当だな。アレはもう、ただ嫌いとかじゃなく恨んでるレベルまで行ってた気がするが、、こっちの俺はマジで何をやらかしたんだ?、、まぁ、、気になりはするが今からする話にはあまり関係ないしさっさと話を進めよう。
そう決めた俺はガリガリと頭を掻いて、ため息をついてから口を開いた。
「はぁー、、わかった。とりあえずなにかがこっちの俺とお前の間であったって事はわかった。だから無理して言わなくていいし気分を害したのなら謝る」
俺はそこで一旦区切り、空気を入れ替えるように手を叩いてから「ただ、、」と前置きしてから続きを話始めた。
「ただ、、それは俺じゃない。少なくとも俺に、お前の気分を害するような事をした記憶はないしその事で責められる謂れもない」
そこで再び言葉を区切りニチカの様子を見ると真面目な顔をしてこちらの話を聞いていた。特に否定も飛んでこないのでそのまま続きを口にする事にする。
「そんで、、少なくとも俺はこのままの微妙な空気のままはモヤモヤして嫌だしお前とは仲良くしたいと思ってる、、、のでこの先も普通に接する事にする。だからもし、俺のツラ見るだけでムカついたりしんどくなるようならそん時は言ってくれ。家が隣同士だし完全に、、とはいかないけど極力お前の視界に入らないように意識はする」
「、、、、、、、、」
相変わらず、ニチカは何も喋らない、、が、言いたい事は言えたからよしとしよう。
「とりあえず、仲良くするにせよ距離を取るにせよ、今のままはってのは嫌だ。、、俺の言いたい事はそんだけだ。わざわざ付き合わせて悪かったな」
「、、、、、、、待って」
「、、、、どした?」
これ以上は進展しなさそうだと話を切り上げ席を立った俺に待ったがかかり、改めて座り直してから問いかけるとニチカは少し躊躇うような素振りを見せてからポツリポツリと喋り始めた。
「その、、、春樹は、、友達、、学校の友達に私と付き合ってるって言われたら、、なんて言う?」
「、、、、、は?」
俺がニチカの口から唐突に発せられた完全に予想外の質問に思考が止まり、思わず呆けたような声を上げるとニチカは流石に言葉足らずだと自覚したのか慌てたように喋り始めた。
「その、、えっと、、春樹の世界でも私達は仲よかったんでしょ?それで、、その事を学校の友達に付き合ってるとか揶揄われたら春樹ならなんて言うのかなって、、思って、、、」
ニチカは話が進むにつれどんどんと不安そうな表情になり、後半は消え入りそうな声で言い終えた。
、、なんだ?この質問、、なんで急にそんな、、、いやまて、、、ソレが原因なのか?
今の質問の内容をそのまま受け取るのなら、、こっちの俺がニチカとの関係を友達に揶揄われてその時に何かひどいことを言ってそれをニチカが人から聞いた、もしくは直接聞いた?もしそうだったとしたらあそこまで憎まれるって、、マジでこっちの俺は一体何を言ったんだ?
てかそれは今はいい、、これ、、なんて答えるのが正解だ?めちゃくちゃ嬉しいけど付き合ってはないんだから否定する、、とかか?この言い方ならニチカを下げずに本当の事も言ってるから間違、、、いや、、ダメだ。
ニチカを傷付けない方向で返答を考えていた俺は、ふと見たニチカの後悔や不安、期待が織り混ざった複雑な表情を見て考えを改めた。
、、正直に自分の考えで、言葉で答えよう。なんとなくその方がいい気がするし、なにより俺がそうしたい。
そうと決まれば答えは簡単だ。
「、、、俺なら、放置だな」
「、、!!、、、否定、、しないの?」
俺が、質問されてすぐに浮かんでいた答えを口にするとニチカはパッと顔を上げてそう問いかけてきた。
「そういう場面を想像してみたけど、、まぁリアルに否定も肯定もしないと思うぞ?お前には申し訳ないけど俺としては別にそういう噂立っても正直悪い気はしねえし、、てかどう答えても絶対めんどくせえだろ、その手の奴。仲良くする気も起きねえし無視一択だな」
「そっか、、わかってたけど、、やっぱり本当にアイツと違うんだね、、」
俺の答えが琴線に触れたのか、先程までの雰囲気とは打って変わり、どこかホッとしたような、、憑き物が落ちたような表情を浮かべたニチカはそう口にした。
「、、、こっちの世界の俺か?」
俺の問いかけにこくりと頷いたニチカはこちらの俺との関係を語り出した。
「昔はね、、アイツと仲良しだったんだ。いつも一緒で、いろんなところに連れて行ってくれて、、気づいた時にはアイツの事が大好きになってた」
「、、、好き、、の部分はどうだったかわかんねえけど、、そこら辺は俺の記憶とそう変わらないな。俺もよく仁千佳の事連れ回してたよ、、」
幼少期の記憶を掘り起こしてそう答えた俺にニチカは微笑みながら口を開いた。
「ふふ、、断言するけど、そっちの私も春樹の事好きだよ。わかるの、、例え世界が違ったって、似たような経験をしてきてるのなら私は必ず貴方を好きになる」
「うん、、、うん?」
ん?あ、、あれ?今の、、どっちの世界の俺の話だ?
話の流れ的にはこっちの世界の俺の話だろうけど、、、それにしてはなんか俺を見るニチカの表情がやたら色っぺえ、、、
「話がそれちゃったから戻すけど、、そんな生活がしばらく続いて中学に上がって少しした頃、「他に好きな人がいる。いつも付き纏われて迷惑している」って、アイツが友達に言ってるのを偶然聞いたんだ」
「、、それを?、、俺が??」
いくら別世界の自分とは言え、あまりに自が口にするとは到底思えない内容に呆然と問いかけると、ニチカは頷いてから続きを語り出した。
「それを聞いた私は、アイツの事が嫌いになった、、そう思い込んだ。それまで積み重ねてきたものが全て消えてなくなる気がして、徹底的にアイツを否定して避け続けた。、、その内アイツがクラスでいじめられるようになって、それに加担した事もあった。そうして高校生になって、もう好きだった気持ちは完全に消えて、憎いって感情すらなくなってきてた」
まるで懺悔するかのようにそう口にしたニチカはそこで一旦言葉を区切り、俺の目をしっかりみて再び口を開いた。
「でもそれは勘違いで、、貴方に会ってどうしようもなく喜んでる自分に気がついてわかったの。私は、、忘れることなんてできてなかったんだって、、「渋谷春樹」が好きだって」
「ニチカ、、、それは、、」
「わかってる。女としてみられてない事も、そもそも私に春樹の横に立つ資格なんてない事も。、、今だって、、アイツをいじめて否定した私がどの口で言うんだって自己嫌悪でどうにかなりそうだよ、、、、でも!それでも好きなの!大好きなの!!」
俺の言葉を遮り、今にも溢れそうなほど目に涙を溜め、それでも泣くまいと歯を食いしばったニチカは決意の宿った瞳で俺を見つめ、深呼吸を一息ついてさらに言葉を続ける。
「私は、、自分に嘘をついて、現実から目を背けて過ちを犯した。アイツのことも、、私の中でまだ折り合いがついてないし、、つけることももうできなくなっちゃった。それに、、仮にできるのだとしても、、正直そうしたいのかすらわからない。だから、、、だからせめて今ハッキリしてる自分の気持ちにくらいはもう嘘はつきたくない、、後悔したくない!!」
「、、、私は「渋谷春樹」が、、いいえ、いま、目の前にいる貴方が好き。、、私が自分が嫌いだし、今までの事だってまだ答えも出せてないけれどそれだけは絶対に譲らない!もう自分に嘘はつかないし逃げないし、、逃がさない。絶対に諦めないから、覚悟してね」
ニチカはそう宣言すると、何も言えない俺を置いてその場から走って先に帰ってしまった。俺は、その後ろ姿を呆然と見送るしかないのであった。
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「、、、ハァ〜、、」
、、、ギクシャクしてる状況をなんとかしようとしただけのはずが、、どうしてこうなった?
「それで?どうするのじゃ?」
ニチカが去った後、俺がベンチで項垂れていると、いつのまにか戻ってきていた緋月がそんな事を聞いて来た。
、、、コイツ、、聞いてやがったのか、、、まぁいい。
「どうするって言われてもなぁ、、」
「、、、?煮え切らん反応じゃな、、向こうがそう望んでおるのじゃからサクッと手篭めにして子をこしらえてしまえば良いではないか?あの娘の事が嫌いなのか?」
「手籠めってお前、、、まぁ、別に嫌いではねえよ、、ただ異性として好きかって言われるとそれも違う。、、、そもそも俺の知る仁千佳とこっちの世界のニチカは別人だしな、、」
「ふむ?、、前々から気になっておったのじゃが、、お主は何をもってあの娘をお主の知る者と別人だと断じておるのじゃ?」
「何って、、、いくら同じ魂を分け合った分身みたいな存在とは言え経験して来た事も、もってる記憶も俺の知ってるものとは違うんだからそれはもう別人だろ?」
俺がそう口にすると、緋月は不思議そうな表情を浮かべてさらに質問を重ねた。
「、、、?それ、普通じゃろ?人の記憶なぞ元より曖昧なものじゃ。時が経つ事に本人の中で無意識に美化したり忘却したりして、同じ経験を共有した者どころか、本人の中でさえ齟齬が生じる事などままある事であろう?、、例えば、妾と春樹はこのひと月常に共におった、、つまり同じ経験を共有した訳じゃが、妾達の頭にあるこのひと月の記憶は果たして一致するのかの?、、重ねて問うが、お主は何をもって区別しておるのじゃ?重要なのは記憶ではなく、お主の心があやつを何者と捉えておるかではないか?」
「、、、、、、、、、、」
た、、、確かに?、、いやでも、、、あれぇ?
要するにコイツが言いたい事をざっくりまとめるといくら違う経験をしてきていようがそんなものは誤差に過ぎず、俺の心が「今村仁千佳」であると断じたのならそれは本人であるのと同義、、って事だよ、、な?、、っていうか今なんの話してたんだっけ?ヤバい、、マジで混乱してきたぞ?
混乱している俺をみて、納得していないと捉えたのか緋月はさらに問いを重ねてくる。
「では聞くが、今この場でお主が分裂して片方は腕立て、もう片方は腹筋をそれぞれ行ったとする。、、さて、元は一つだった存在が別々の経験をしたわけじゃが、、これは別人になるのかの?」
「それは、、、同一人物だ、、な?」
「じゃろ?、、この際じゃから言うておくが、お主は別人という事を意識しすぎてまるで別の生き物のように接しておるように見受けられるが、お主がかなり珍しい事例なだけじゃ。基本この世界の人間は、若干記憶に齟齬があるだけの、お主の元いた世界の人間となんら変わらぬ同一人物と考えてよいぞ?魂を分けた存在と言うのはそういう事なのじゃ。、、故に、流石に子を成せとは言わぬがもう少しお主の知る人間として対等に接してやるとよいのじゃ」
「そんな事は、、、」
ない、、と言おうとしたが、言葉が続かなかった。
流石に、別の生き物のように考えてるつもりはないが、、別人のように捉えてはいたし、いずれ元の世界に帰るのだから、、と一定の距離を開けてこの世界の人達と接していたのは否定できない。実際さっきも、ニチカの事を異性としてみていなくとも好意を伝えられて嬉しいと言う感情は確かにあったにも関わらず、ほぼ無意識に「断る前提」で思考が進んでいた。
なるほど、ここに来て本当の意味で緋月の言わんとしている事が理解できた。つまりは俺の知る「元の世界の今村仁千佳」と「この世界の今村仁千佳」としてではなく同じ「今村仁千佳」として接してやれ、、という事だろう。
、、その事を踏まえた上でやはり「元の世界に帰る」という明確で譲れない目的がある以上、この世界の誰とも恋仲になる気はない。それでも確かに、ニチカをはじめとしたこの世界の人達ともう少し前のめりになって関わってみるべきなのかも知れないな、、
そこまで考えた俺は、ここで考えていても仕方がないと意識を切り替えて、若干重くなった足取りで公園を後にするのだった。
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