第二十六話 『現代の勇者様』
第二十六話 看護師の美香さん視点です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
「永島さん、勇者様の担当にあなたを推薦しておきました。 お願いできますね?」
「へぁ?!」
いつも通りに仕事をしていた私、永島美香は婦長に呼び出された。
婦長は、一部ではお局様と裏で呼ばれているくらい小言が多く、ナース達から恐れられ嫌われている人で、同時に仕事もできる人だったので尊敬もされている人だ。私は、尊敬している派だったが、やはり怖いものは怖いので恐る恐る婦長の元へ足を運んだのだが、そこでかけられたのがそんな言葉だった。
思わず、婦長に対して素っ頓狂な声をあげてしまったのも仕方がないと思う。
、、、勇者。
この世界の、、おそらく日本に住まう者ならよほど特殊な環境で育ってない限りは絶対に知っている存在。両親や祖父母から聞かされる御伽噺、学校での演劇の題材、歴史の教科書、映画やドラマ、テレビの特集等々知らずに過ごす事が難しいほど其処彼処で耳にする有名な存在だ。
そして3日前そんな存在と同じ、勇者の再来と言うべき者の存在が公表され世間を賑わしているのは知っている。更に、その勇者様が現在この院内で治療を受けていると医者や看護師の間で噂が流れている事も知っている。
実際に上からそう通告された訳ではない。
でも、どれだけ極秘裏に匿おうが自分の働いている病院でいつのまにか使用されている病室があれば馬鹿でも気がつく。国立病院という性質上、よく政治家などが極秘で手術を受けにくる事があるがそういった場合は大抵は従業員に通知がされるものだが今回はそれすらない。そして、現在世間を賑わせているにも関わらず未だメディアに姿を現さない「勇者」。タイミング的にも、その極秘性的にもそんな噂が立つのも頷ける。
そして、婦長の言葉からその噂は真実だった訳だがここで疑問が生まれる。
何で私!?
ぜ、、絶対に嫌だ、、、
どう考えてもなにかあったら首が飛ぶじゃない!?
考えるまでもなくめちゃくちゃに重要な役割だ。それに、正直に言うとVIPルームを使用する患者にロクなイメージがない。セクハラ、パワハラ祭りで相手の立場が立場だけに強い拒絶もできず、何か粗相があればクビを飛ばされる。
実際、どこぞの政治家におしりを触られて思わず手を叩いてしまった先輩が不興を買い、クビにされてしまった前例をこの目で見ている。今回の相手は政治家ではないが、10代の若者が勇者だなんだともてはやされ、どれだけ増長しているか考えただけでゾッとする。
いやだいやだいやだいやだ。
「あ、、あのぅ、、私なんかよりももっと別のちゃんとした人がいいんじゃないですか?」
「文句があるの?」
一言、そう問いかけられた。言外にまさか断るつもりじゃないだろうな?と言う圧を感じる。でも、ここで折れるわけにはいかない。この先に待つのは破滅への道だ。
「で、、でもどうして私何ですか?そんな重要な役目、婦長か真鍋先輩の方が、、」
「、、貴方に期待してるからよ。これを機にお偉方を相手にする経験を積んできなさい。大丈夫、、私も数日彼を受け取っていたけど、正直あまり練習にはならないんじゃと思うくらいにはいい子よ」
なんとか逃れようとさりげなく先輩を生贄に差し出そうとする私に、婦長は優しい笑みを浮かべてそう言ってきた。
期待していると言われ、普段滅多に見ない婦長の笑顔を見た私はそれ以上なにも言えなくなってしまい、弱々しく「はぃ、、、」と言うしかないのだった。
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そんなこんなで「勇者様」の担当につき、緊張でガッチガチになりながら身の回りの世話にあたった私だったが、結論から言うと私の不安は全て杞憂に終わった。
婦長が「練習にならない」と言っていたのも頷ける。それほどに「勇者様」こと渋谷春樹君は優良な患者だった。
本来、患者を比べるような真似は決して褒められたことではないが、一般患者も含め私が過去受け持った中でも間違いなく1番いい患者さんだ。セクハラもなければいやらしい目を向けてくることもない。無言が気まずいタイミングでは気さくに話しかけてくれるし、逆に作業に集中したいタイミングでは測ったかのように無言になるし、事あるごとにお礼の言葉を口にしてくれる。
検査の際には例えばこちらがやりやすいように身体を傾けたりと一々気を配ってくれているのがわかる。採血する時に私が注射器などを準備している間に自分で血管を圧迫してこちらが位置を特定しやすいようにしていた時などは流石に度肝を抜かれたものだ。別に大した事をしているわけでは無いが、普通はそんな発想出てこないし、私はそんな患者に出会った事がない。
それでいて、機器の操作や各種検査とその記録等こちらが手を出して欲しく無い領域には絶対に手を出さない。なんというか、うまいのだ。絶妙に痒い所に手を伸ばしてくれる。しかも最終的には「そろそろ検温しよう」と思ったタイミングで口に出してもいないのにスッ、、と検温機が手渡されるまでになっていた。
もう、行き届きすぎていて逆に怖い。気分はオペナースに器具を手渡される執刀医である。
あまりにサポートがうますぎて時々、「動かされている」と感じるようになってきた事で流石にいくらなんでもおかしいと思い本人に直接聞いてみたら「バイトしてたらこうなった」との事だった。なんでも、彼が元の世界で働いていた飲食店の店長がとても恐ろしい人だったらしく、彼自身は特に問題なかったのだがバイト仲間や社員の人たちが仕事が遅く、彼らが店長に怒られないようにハラハラと見守りながらちょこちょこサポートしていたおかげで視野が広くなり、邪魔にならない程度に手伝いも差し込めるようになった、、、らしい。
理屈はわかるが、、いくらなんでも飲食と病院じゃ全く違うしあそこまで的確に動けるのはおかしいと思うんだけど、、と指摘したところ、「ざっくりと見て覚えて後は自分でやる時のことを考えてしてもらったら助かりそうな事をした」との事だった。
、、、キミ、もううちで働かない?婦長辺りがめちゃくちゃ気に入りそうだ。
そう思って一度冗談半分本気半分で誘ってみた事があるのだが、笑いながら「頭が悪いんで無理ですよ」と断られてしまった。少し残念ではあるがこれで良かったのかもしれない。だって彼、間違いなくモテる。忙しさから出会に飢えている女どもが彼のような人をほっておくなど絶対にあり得ない。ライバルが多いであろう事は分かりきった事だが、流石に同僚と醜い女の争いを繰り広げる事にはなりたくないのだ。
、、、熱くなりすぎて話が大きく逸れてしまったが要するになんというか、、最近はめっきりと感じなくなっていた、そして働く前は確かに持っていたはずの「病気の人達のために働きたい」と言う想いを思い出させてくれた。そんな患者さんだった。久々に働いていたやりがいを感じたし何より楽しかった。この先、退職するまで一生春樹君の担当につけと言われても喜んで頷くだろう。というか、こちらからお願いしたいレベルだ。
初めの頃は冗談半分で結構いいなとか役得だなぁとか思っていたのだがこの頃は、異性としてなんとか落とせないかと割と本気で考え始めている。
、、、相手は10代な時点で手出ししたら普通に犯罪なんだけど、、でも、、ちょっと仲良くなっておくくらいなら許される、、はず。
だって、考えても見てほしい。泰然としていて余裕があって私よりも歳上なのでは?と思うほど大人びており、相手に気がつかえて話していて楽しく、勇者と言う立場であり将来有望確定でその上イケメンだ。普通に、過去類を見ない超優良物件だ。これで惚れない女がいるのなら引っ叩いて目を覚ましてやるのでぜひ連れてきてほしい。
それに、勇者だとかそういう建前を抜きにしても、普通に彼に惹かれつつある自分がいる自覚もある。大人としてどうかと思うが、、とにかくそうなってしまったものは仕方がない。
そんな彼も明日にはこの病院を出て行ってしまう。
せめて、、連絡先だけでも聞いておきたいな、、、
そんな事を考えつつ彼に頼まれていた物を届けるために病室に向かっていた私は、病室の扉の前で意識を切り替えて荷物を持ち直してから入室した。
「失礼しま〜す。春樹く〜ん、頼まれたた物持ってきたわよ〜」
そう口にしつつ荷物を下ろすと、こちらに視線を向けた春樹君が口を開く。
「あざっす美香さん。業務と関係ない事お願いしちゃってすみません。本当に助かります」
「いいのいいの。こっちとしても仕事を抜け出す大義名分ができて助かるわ」
いつものようにお礼を言ってくれる春樹君にそう返す。仕事を抜け出す、というよりは春樹君に用もないのに会いに行ける大義名分ができて本当にありがたいのだがそんな事よりも、、、
お礼以外になんの反応も示さない春樹君に思わずジト目を向けた私は改めて思う。男女が下の名前で呼び合っているんだから、、もっとこう、、何か反応があってもいいんじゃない?、、と。
少しでも意識させてみようと下の名前で呼んでみたのがきっかけで今ではお互い名前で呼び合うようになっているのだが、これまで一度もそれらしい反応をされていない。思春期真っ盛りで異性から下の名前で呼ばれたら照れて頬を染めるくらいの反応は見せてくれてもいいんじゃないかと思う。むしろ、サラッと下の名前で呼び返されて私の方がドキッとさせられてしまった。
普通に大人の余裕的な部分で負けた気がしちゃってなんだか悔しい。
、、、私がおかしいのかな?
いや、、多分おかしいのは春樹君だ。私たちが春樹君と同年代の頃にはそういうのめちゃくちゃ意識していたはずだ。少なくとも私は恋愛として好きとか関係なく異性の名前を初めて下で呼ぶ時とても緊張した覚えがあるし、逆に呼ばれた時もドキッとした記憶がある。周りの子もそんな感じだったように思う。
そんな事を考えていたところ、新聞を見て顔を顰めている渋谷君をが目に入り、その理由を察し仕返しも兼ねてからかってやろうという悪戯心が芽生えた私はニヤニヤと笑いながら口を開いた。
「大人気ね?勇者様?」
「、、、勘弁してくださいよ、、マジで」
からかうようにそう口にすると春樹君は疲れ切った表情でそう言ってきた。、、弱ってる感じがちょっとかわいい。
まぁ、、でもそうなるのも無理はない。この1ヶ月接してきてわかったが、春樹君は普通の男の子だ。
いや、、大人の私をすっかり落としちゃってる時点で普通とは少し違うのかもしれないが、、別世界とはいえ、普通の家庭に生まれ普通に育ってきた私達と変わらない1人の人間なのだ。
そんな人間が、突然異世界に迷い込み、知人とよく似た知らない人間しかいない環境で訳もわからず勇者として祭り上げられる。
自分なら、どうなっていただろうか?
そこまで考えて思わず笑みが溢れた。
やっぱり、春樹君は普通じゃないや。
私だったら、きっと今頃まだ立ち直れずに病室に閉じこもって塞ぎ込んでるはずだ。少なくとも目の前の春樹君のように振る舞える自信は全くない。
「失礼するぞ」
そんな事を考えていると、突然病室の扉が開き1人の女性が入室してきた。
チラリと廊下に目を向けると、5人の女性が立っていた。
あれは、、春樹君と一緒に無人島にいたクラスメイトや教師だ。名前は確か、、小笠原さん、盛島さん、今村さん、広瀬さん、熊谷さんだったか、、、
私は、春樹くん専属で動いていたので直接の面識はないが顔と名前、後は同僚から話を聞いて簡単な人物像くらいなら知っていた。
いつもは総理大臣であろうと面会前に必ず私に情報が入ってきてたのに今日はなにも聞いていない。でも、、春樹くんほどでは無いとは言え同じ軟禁状態にあるあの5人が一緒にいるという事は、、政府の関係者なのかな?
若干顔が青ざめているのが気になるけど、、、
そう思い若干警戒しつつ改めて女性に目を向けた。
、、女の私から見ても凄く綺麗な女性だ。でも、、それ以上に威圧感が凄い。婦長を前にした時とはまた違う、、肉食獣のような雰囲気を纏っていて、、一言で言うとめっちゃ怖い。
すっかり圧倒されてしまった私はしばらく事態を見守り、ふと春樹君に目を向け、固まった。なぜって春樹君まで謎の女性に負けず劣らずの威圧感を放ち、物凄く凶悪な笑みを浮かべていたからだ。
な、、なにあの顔?
あんな表情、、この1ヶ月で初めて見たよ?
あ、、あれほんとに春樹君??
「、、、し、、渋谷君?どうして笑っているの?」
「、、、え?」
私が、思わずそう尋ねると、渋谷君は自分の顔に手を当てると一瞬驚いたような表情を浮かべた。
え、、?、、もしかして自覚なかったの?
「、、、今日は顔合わせだけして帰るつもりだったが、、気が変わった。オイ、表でろ」
初めて見る春樹君の一面に驚きと、謎の胸の高鳴りを感じていた私を他所に、牧瀬と名乗った女性は春樹君の首根っこを掴み軽々と持ち上げ、困惑する春樹君に構わずそのまま放り投げた。
放り投げられた春樹君はものすごい勢いで飛んでいき、パリィィィンと窓ガラスを突き破りそのまま外に、、、はえ?、、、え?人が人を投げて窓ガラスの外に、、?、、あれ?、、ここ、7階、、え、、?ち、、ちょっと?!
「ちょっ、、!!は、、春樹くぅぅぅぅぅぅぅぅん!!?」
あまりの事態に思考が追い付かず、ようやくなにが起きたのか認識した私は悲鳴に近い声で彼の名前を叫んで慌てて窓際に飛びついた。
「うっ、、うわああああぁぁああぁぁあぁ‥あぁぁ〜?」
そんな彼の悲鳴が聞こえ、慌てて眼科を確認すると、、、彼は普通に立っていた。
あ、、あれ?普通に立ってる、、?いや、、そうだ、、そういえば彼の身体能力は高いんだった。話には聞いていたけどここまで凄かったの!?
確かに、身体強化が得意な人は少数ながら存在する。それでも、強化の幅はせいぜい常人の2〜3倍程度だ。7階の高さから飛び降りて無事でいられる程の強化レベルとなると世界で見ても数えるほどしかいないはずだ。
それを彼は素の身体能力で、、、
その事実に驚愕していると、不意に真横を風が通り抜けた。
牧瀬と名乗った女性が窓枠に飛び乗り、そのまま飛び降りたのだ。
「ちょっ、、?!」
慌てて手を伸ばすが間に合うはずもなく、そのまま落下していった彼女は、、、、普通に着地した。
、、、、はえ?
目をゴシゴシと拭って改めて眼科を確認するが、2人とも自分の足でしっかりと立っている。
7階から飛び降りても平気な人なんて世界でも数えるほどしか、、、あれぇ?
いよいよ自分がおかしいのかと思い始めた私は他の面々に視線を向けるが皆一様に口をあんぐりと開けていた。
、、、よかった、、おかしいのは私じゃなくてあの2人っぽい。
私が、自分が正常だった事にホッとしているのも束の間、下から大気を震わせるような怒声が響き思わず身体を跳ねさせていると何やらここにいるメンバーも下に降りる話の流れになり、今村さんの魔法で下へと降ろされた。自分の体が風に包まれ浮いた瞬間「えっ!?私も行くの!?」と思ったが春樹君の事も気になるのでされるがままに黙ってついていくと、地面に降りた瞬間、何事かを怒鳴っていた彼が顔面を殴り飛ばされ吹き飛んでいくのが見えた。
バキッ、、という何かが砕けるような音と共に物凄い勢いで飛んでいった彼は、そのまま病院の塀を突き破り、何回か地面をバウンドして道路に飛び出し、車に轢かれた事でようやく止まった。
、、、え?あ、、あれ死んだんじゃ、、?
目の前で起こった衝撃的な光景に思わず青ざめている私を他所に牧瀬さんが口を開く。
「オウ、とっとと立てや木偶の坊」
、、、この人は、鬼か悪魔なんだろうか、、?
どう考えても動ける訳が、、、はっ!?
そうだ、、春樹君が、、!!
人が、、あんな、、、とにかく助けないと、、!!
あまりの出来事に呆然としていた私だったがすぐに直前の出来事が頭をよぎり顔を真っ青にして慌てて駆けつけようとして、、再び呆然と立ち尽くした。
助けに行こうとした渋谷くんが何事もなかったように起き上がったのだ。そしてその表情は壮絶で頭から大量の血を流し、口角は吊り上がり、目つきは鷹のように鋭くなって不敵な笑みを浮かべ、それまで彼に感じていたどこか余裕のある泰然とした雰囲気は完全に消え去り、牧瀬さんに負けず劣らずの圧倒的な威圧感と肉食獣のようなオーラをその身に纏っている。
、、、アレは本当に私の知る春樹君と同一人物なんだろうか?
「上等だァこのイカれ野郎がァァァァァァァ」
私があまりのギャップに困惑し、同時に何故か渋谷君から目を離さないでいると彼がそんな事を叫び猛然と突進していった。
、、せ、、性格まで変わってる、、?
私は、そんな彼の後ろ姿を呆然と見つめるしかないのだった。
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その後2人は戦闘を開始したのだが結論から言うと、春樹君は負けた。
2人とも位置的には大きく動いていなかったので流石に姿を見失う事はなかったが手の動きはブレまくっていてなにをしているのかよくわからなかった。それでも、なんとなくの雰囲気で春樹君が一方的に攻めている事はわかったのだが、、徐々におかしい事に気がついた。
多分、、春樹君の攻撃は一度も通っていない。
春樹君が大きく動いて上下左右とあらゆる方向から攻撃を仕掛けているのに対し、牧瀬さんはほとんど動かずに春樹君の攻撃を捌いている。なぜ手の動きが見えないのにそうだとわかるのかと言えば2人の息使いや風切り音は聞こえるのに、打撃音らしきものが一切聞こえてこないからだ。
そんな攻防がしばらく続いた時だった。突如牧瀬さんが動き一瞬姿がブレたように見えた次の瞬間、バゴォ!!とえげつない音を立てて回し蹴りが春樹君の腹部に突き刺さり、猛烈な勢いで吹き飛んだ春樹君は再び病院の塀を突き破り、子供に放り投げられた人形のように地面を何度もバウンドしてようやく止まった。
「春樹!!!」
倒れ込んで動く様子を見せない春樹君を見て、今村さんが声を上げて駆け寄って行く。そして熊谷さん、私、他のメンバーと続き近づいて行くと無言で春樹君を見ていた牧瀬さんが口を開いた。
「とりあえずもういい、、身体能力は大したもんだが、、技術の方はクソだな。体の使い方も技も基礎がまるでなってねえ」
「ハァ〜、、、あ゛〜クソッ!!それで?いつから教えてくれるんすか?」
春樹君は、悪態をつきながら地面に寝っ転がりそんな事を口にした。
たった今あんな目にあったのになんで訓練に前向きなの、、、?ていうか、、ちょっとタフすぎない、、?多分今の、、普通の人なら内臓が破裂して死んでてもおかしくなかったよ?動かないから凄く心配したのになんでそんな元気そうなの??
「ハッ、、気がはえぇよ。とりあえず話はコイツらを見てからだ。大人しく寝てろ」
「うーい」
なるほど、なぜいるのかイマイチ掴めてなかったが他のメンバーも春樹君と同じ理由でここにいたのか。
ていうかそんな事よりも、、、なんだかこの2人既に若干打ち解けはじめてない?
牧瀬さんに関してはよくわからないが、春樹君は間違いなく口調がくだけたものになっている。
見た感じ明らかにさっきが初対面だったよね?
私の時はそうなるまで1週間はかかったよね?
どういう事なの?
そんな事を考え、若干モヤモヤしつつ邪魔しちゃ悪いと距離を取ろうとした私に予想外の声がかけられた。
「オイ、テメエどこに行くつもりだ?」
「エッ!?」
突然声をかけられ素っ頓狂な声をあげてしまった私は慌てて周囲を見回すがどう考えても私に向かって言っている。他の面々は青い顔をして震えながら既に牧瀬さんの近くに立っているし他には私以外誰もいない。無言で後ろを振り向くというベタな事もしてみたが当然誰もいない。なにより、牧瀬さんの獣のような鋭い眼光がしっかりと私を射抜いている。
「わ、、わわ私は看護師なので、、」
「見りゃわかる。それがどうした」
「そ、、その〜、、私はたまたまいただけなので関係なくて、、」
「来い」
「、、、あぃ」
私はなんとか逃れようと足掻いてみたが結局有無を言わさぬ雰囲気と強烈な威圧感に屈してしまった。だってしょうがないじゃない。めちゃくちゃ怖いし、なによりさっき一度で言うこと聞かなかった春樹君が窓から捨てられるのを目の当たりにして逆らえるメンタルは私にはない。
既に笑うを通り越して爆笑の域に達しつつある自分の膝に喝を入れてなんとか歩いて合流した私を確認した牧瀬さんは頷いてから口を開いた。
「よし、テメエらは6人まとめてかかってこい。とりあえず、魔法は身体強化以外使用禁止、他はなんでもありだ」
「「「、、、、、、、、」」」
「返事はどうしたァッ!!!!」
「「「っ!?はっ、、はいぃいいぃぃ!!」」」
思わず無言で顔を見合わせる私達に、空気が爆発したのかと錯覚するほどの怒号が飛び全員ほぼ無意識に気を付けの姿勢になる。、、絶対に何がとは言わないが少し出ちゃったかもしれない。
そして次の瞬間、牧瀬さんの姿が掻き消えた。
どこへ?、、と辺りを見回そうとしてそのまま全員固まった。
「「「、、、、、、、、」」」
いる絶対に今、私達の後ろに鬼がいる。
達人でもあるまいし気配を読む術なんて持ち合わせていない。それでも確信を持って後ろにいると断言できるほど背後から強烈な怒気を感じる。手足は震え、全力疾走した時みたいに喉はカラカラだ。
「オイ、、私は気を付けしろじゃなくてかかって来いつったよな?多少手加減してやろうと思ってたが、、あそこに転がってるゴミと同じ様に扱われてえのか?ア゛ァ゛?」
そうして、何故か巻き込まれた私の地獄が幕を開けるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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