閑話 『残響』
間が空いてしまい申し訳ありません。
閑話になります。
感想、ご指摘お待ちしております。
ーーーーーーーーいったい何が起こっているの?
その日は、なんて事のない、いつもの朝だった。いつも通りに目覚め、朝食をとり、学校へ行く支度を済ませ玄関の扉をくぐり、隣の家の玄関先に視線を送る。
これは毎朝やっていて、もはや半ば無意識に行っているルーティンの様なもので、目的は春樹がいたら挨拶をする為だ。でも、今日も視線の先に春樹はいなかった。
、、最近、春樹の姿を見てないなあ。学校も休んでいるみたいだし、、もう4日は姿を見ていないけど風邪でもひいたのだろうか。
そんな事を考えているとちょうど視線を向けていた玄関のドアが開いた。春樹が出てきた!と思わず顔が綻びそうになる私だったが姿を現したのは春樹のお母さんだった。
私は思わず肩透かしを食らったような気分になりつつ、ちょうどいいのでおばさんに春樹の様子を聞いてみようと思い口を開いた。
「おばさん、おはようございます!」
「あら仁千佳ちゃん、おはよう!」
おばさんは笑顔で挨拶を返してくれる。
「春樹、体調でも崩したんですか?ここ最近見かけないですけど、、、」
私がそう問いかけると、おばさんは怪訝そうな表情を浮かべ口を開く。
「、、、ねぇ仁千佳ちゃん?春樹って、誰の事?」
「、、、、、、え?」
おばさんの思いもよらぬ発言に一瞬、頭が真っ白になったがすぐにからかわれているのだと思い、笑いながら口を開いた。
「も、、もう、やだなぁ〜からかわないでくださいよ。春樹ですよ春樹。それで、学校にも来てないみたいですけど大丈夫なんですか?」
私がそう口にするとおばさんは何を言っているんだ?と言わんばかりにより一層困惑している。
その表情をみて、私の中に何か得体の知れない不安が込み上げ、心臓の鼓動が早まる。
「ごめんなさい、、本当に心当たりがないのだけどその春樹くん?はお友達なの?」
な、、なに?この反応。まるで、、まるで本当に知らないみたいな、、
「ッ!!!だから春樹ですって!!おばさんの息子でしょう!?」
自分の内でどんどんと膨れ上がっていく得体の知れない不安を誤魔化すように思わず声を荒げてしまった私に、少しムッとした表情になったおばさんは口を開いた。
「、、、ねえ、昔からの付き合いなんだから私達に子供ができなかった事は仁千佳ちゃんも知ってるはずよね?冗談にしたってそう言う事言うのは感心できるものじゃないわよ?」
「、、、、、、え?」
すっかり気を悪くしてしまった様子のおばさんは信じられない発言を残し、固まる私を放置してさっさと歩いて行ってしまった。
え?、、、、え?、、まって?子供が、、できなかった?ど、、どういう事なの?
おばさんの思わぬ発言で完全に混乱してしまい、引き留めることもできずにその背中をただ見送る事しかできなかった私はしばらくその場に呆然と立ち尽くすのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
その後、朝の出来事から登校してすぐに学校の友達、先生と様々な人に確認を取ってみたが誰一人として春樹の事を覚えていなかった。それどころか、春樹の席は元々空いていた事になり、先生に見せてもらった学級名簿からもその名前は忽然と消えてしまっていた。まるで、元から存在しなかったかのように春樹の痕跡が消えている。
本当に何も知らない様子のクラスメイトや教師達を見て、自分だけが別世界に迷い込んだような、いい知れぬ漠然とした恐怖を覚えた私は誰にも何も伝えずに学校を飛び出し、ふらふらと彷徨うように帰路につき気が付けば自室のベットに呆然と腰掛けていた。
いったい何が起こっているの?どうして、、私だけ覚えているの?全部私の頭がおかしくて見てた妄想だったの?
いや、絶対そんなはずない!でも、、どうして、、、
いよいよ本当に自分の頭がおかしくなったのではないかと思い始めた私は慌てて頭を振って否定する。
「、、っ!!そうだ!!!」
ハッとある事を思い出した私は自室を飛び出し、そのまま庭へと駆け出しお母さんの園芸用のスコップを拝借して庭に生えてる木の根元を掘り始めた。服が汚れるのも構わず一心不乱に掘り進めていると、20センチくらい掘り進めたところでコツンと硬い物に当たり慌てて掘り起こす。
「はぁ、、はぁ、、、やっぱりっ!!あった!!!」
それは、お菓子のカンだった。
春樹と幼い頃一緒に埋めた、、大人になったら開けようと約束していたいわゆるタイムカプセルだ。中にはその時大事にしていたおもちゃやお互いに向けた手紙が入っている、、はずだ。
私は呼吸を必死に整え、震える手で蓋を開いた。
「、、、やっぱり!!」
中にはスーパーボールやら小さなキーボルダーやら、、、今になって思うとどうしてこんな物入れたのだろうと不思議で仕方なくなる様なものが数点入っていた、、、がそれは今はどうでもいい、そんな事よりも。
「ある、、ちゃんとある!!」
カンの中にはおもちゃと一緒に拙い子供の文字でそれぞれ″はるきくんへ″、″にちかちゃんへ″と書かれた2通の手紙が確かに入っていた。
やっぱり私の妄想なんかじゃない!春樹は確かにいた。ここにこうして手紙だってあるし私の頭の中にだって思い出がある。小さい頃から一緒にいて、最近は少し話す機会が減っちゃったけど、それでも変わらず大好きな、、、大好きな、、
「、、、、、あ、、れ?」
そこまで考えて、私は身体が総毛立つのを感じた。全身からサァッと血の気が引き、自分が今立っているのかすらわからないような感覚に陥る。そんなわけない、絶対にありえないと自分に言い聞かせるが現実は変わらない。
少なすぎる。
確かに、覚えてる。
名前は渋谷春樹、幼馴染で大好きな男の子。幼い頃は常に一緒にいた大好きな男の子。最近は、お互いに思春期になり少し距離ができてしまったがそれでも変わらず大好きな男の子。
だと言うのに、彼と過ごした思い出があまりにも少ない。間違いなく幼い頃常に一緒にいたと認識しているはずなのに、何をしたとかどこへ行ったとか、そういった記憶がほとんど思い出せない。
ま、、、まさか、、私も、、忘れていってる?
その考えに至った瞬間、絶望が襲いかかってくる。
嫌だ!絶対に嫌だ!忘れたくない!それに、、、それに私まで忘れたら春樹が本当にいなくなっちゃう!そんなのは絶対に嫌だ!認められない。
「春樹、、春樹、、、春樹っ!!」
私は、手紙を胸に抱き抱えて忘れる事を否定する様に何度も何度も彼の名前を呼んだ。
ーーーーーそして。
「、、、、、、え?」
そして、私は呆然とした。
目の前には自宅の庭の木があって、その根元に穴が掘られていた。いや、正確には自分で掘った。右手に土で汚れたスコップを握っているし、何より必死になって掘り起こした記憶がある。
、、、でも、そもそもなんで穴なんて掘ろうと思ったんだっけ?
私は、何も入っていない穴を見ながら首を傾げた。
なんだか、猛烈にここに埋まっている何かを掘り起こさないといけない気がして掘ったのは覚えてるけど、その肝心の″何か″がわからない。
首を捻っていると、自分がほとんど無意識に左手を強く握りしめている事に気がつき、開いてみる。感触からわかっていた事だが、その手の上には何も乗っていない。
、、、うーん?
ーーーーー見つけた。
そして、私が再び首を傾げたその瞬間″声″が聞こえてきたのだった。
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