第二十話 『帰る場所』
第二十話です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
「ついたのじゃ!」
「、、、、、、、、、」
忘れ去られていた刀を回収し、なにやら持ち出したいものがあると言う事で緋月の住処に足を運んだ俺達は無言で周囲を見渡す。
うん。普通に岩山だ。
忘れかけてたけど、、竜だもんなコイツ、、そりゃ小屋なんかに住んでないわな、、
困惑する俺達に構わず、ずんずんと歩いて行った緋月が岩影に姿を消したのでとりあえずついていくとそこには洞窟の入り口があった。若干躊躇いつつ中に入ると少しだけ進んだあたりでいきなり広い空間になっていて壁面が淡い光を放っていた。
仕組みはさっぱりわからないが一応、視界を確保できる程度の明るさがある。例えるなら常夜灯に照らされた室内くらいの明るさ具合だ。
そして、奥の方を見やるとさまざまな物が一箇所に適当に積み重ねられて山となっていた。仏像やら奇妙な仮面やら甲冑、果てはなんなのか全く見当のつかない物まで本当に様々で、その山を緋月が「どこにやったかの〜」などと口にしながら適当に漁っている。
、、、、随分と雑な扱いだが、大切な物ではないのだろうか?
そんな事を思いつつ、特にすることもないので適当な岩に腰を下ろしてぼんやりと緋月を眺めていた俺はちょうどいい機会だしいくつか気になってた事でも聞いてみよう、、と思い至り口を開いた。
「なぁ緋月、聞きたいことがあったんだけど熊谷がお前の″声″を聞いたのは今回が初めてだって言ってた。なんで前回までは声をかけて来なかったんだ?」
「声はかけておったよ?お主らに届かなかったのは″声″にお主らの魂が馴染んでおらんかったのが原因じゃ」
「魂に、、馴染む?」
俺が疑問を投げかけると緋月が頷いて口を開く。
「うむ、アレは魔法等で語りかけるものとは違い、魂に直接語りかける類のもの、、、要するに、別世界から来た春樹はもちろん、他の娘達にとっても馴染みのない力だったのじゃ。そしてお主らの魂は時間をかけてその力に馴染んでいった、、と言う訳じゃ」
「うん?でも死んだ時に傷も何もかもリセットされてたんだよな?おかしくないか?それ、、、って言うかそうなると俺が2回目以降最初から俺だったのもおかしくないか?」
俺がそう指摘すると緋月は大きく頷いた。
「うむ、道理じゃな。じゃが、実際には元に戻り傷も記憶も消えても起きた出来事は無かったことになった訳ではない。肉体に傷も記憶も残らずとも、その時の出来事は魂の記憶に刻み込まれておるのじゃ。春樹に関しても、、こちらのお主が死にかけ弱り、そこに入り込んだ事で春樹を主として魂は統合された。そして、その事実を魂が記憶した事で戻っても春樹は春樹のままでいられた訳じゃ。現に、春樹がこちら側に存在できておる事がその証左じゃろ?」
なるほど、、、
確かに、、考えてみるともし全ての出来事が無かった事になり元に戻る前提で考えるのなら、本来俺は消えるしかなかったはずなのだ。
仮に乗っ取りに成功しても熊谷が死んだら無かった事になり元に戻る。逆に熊谷が死ななかった場合ループは起きず、乗っ取れたとしてもそのまま死にゆくだけ。そして熊谷も死なず、こちらの俺も健在だった場合も、こちらの俺が弱ってないから普通に統合されてやはり俺は消える。
たしかに、その前提で行くと俺が今ここにいる事に説明がつかない。魂の記憶とやらがあるおかげで今があるわけだ。
なるほどなぁ、、と考えていると緋月が突然、「あったのじゃ!」と声を上げるとガラクタ?の山の中からなにやら衣服らしき物を取り出し着込み始めた。
そういや、、裸だったなコイツ。あまりにも堂々とした振る舞いなものだからもはや当たり前のようになって忘れていた。
、、、、ん?
「、、、そういえば、お前服着ても平気なのか?」
「む?平気か?とはどういう意味じゃ?裸の方が良いのか?」
「いや、、俺達を運ぶ為に竜になるんだろ?服、破れるんじゃないのか?」
「破れんよ?衣服を纏った状態で竜化してから再び人型に戻ってもそのまま身につけた状態なのじゃ。どうじゃ?凄かろう?」
「、、、、、、、、」
この際、服が破れない摩訶不思議な現象はどうでもいい。それよりも、服が破れたりしないのならなぜコイツは最初に裸の状態で出てきた?
「、、、、服が破れないのなら、、なんでお前は裸だったんだ?」
俺が浮かんだ疑問をそのまま投げかけるとえっへんとドヤ顔を浮かべていた緋月はキョトンとした表情になり口を開く。
「、、、?その方が気持ちがよいからじゃが?」
「、、、そうか」
まぁ、変態的趣味思考でないのはなんとなくわかる。
よくよく考えたら緋月は竜なのだ。服など身につけていないのが当たり前の感覚なのだろう。犬猫も服を着せられると嫌がるしな。むしろ、竜なのにこれから人里に向かうから服を着る、という気遣いができる事を称賛すべきだ。
「よし、これで良いのじゃ」
そんな事を考えていたら緋月の声が聞こえて、なんとなく逸らしていた視線を再び戻した俺は思わず息を呑んだ。
そこには、一見すると和服のような物に身を包んだ緋月がいた。
上服には緋色を基調とし花柄の入った襟付きの和服のような物を身に纏い、下には胸元まである黒のロングスカートのような物を穿き、細めの帯で締めている。
詳しくはないが、確か中国の民族衣装である漢服があんな感じだった気がする。飄逸感があり、動くたびにその独特な長い袖や袴がひらひらと揺れていて、まるで美しい蝶の様な印象を受ける。
そんな服を身に纏い、美しい緋色の髪を靡かせ、黄金色の双眸を妖しく光らせて妖艶な雰囲気を纏った紛れもない絶世の美女がそこにいた。
「、、、、、、、、」
思わず、見惚れてしまった。
そして、同時に困惑する。さっきまで全裸で歩き回ったり、正座したり、地面に埋まったりして泣きべそをかいていた人物と同一人物とはとても思えない。
こ、、このやたらと色気のある姉ちゃんは一体どこの誰だ、、?
「、、、?なにやら呆けた顔をしておるぞ?どうしたのじゃ?」
俺がオッサンのような感想をえていると緋月がコテンと首を傾げ訪ねてくる。
「いや、、なんでもない」
なんとか平静を装うが、その首をかしげる仕草に更にドキッとさせられてしまった。
こ、、、コレがギャップ萌えってヤツか?
「そうか?まぁよい。ほれ、受け取るのじゃ」
内心で動揺していると緋月は俺に黒い棒のような物を差し出してきた。不思議に思いつつ受け取るとそれはどうやら棒ではなく刀の鞘のようだった。装飾などは特になく黒一色のシンプルな鞘だ。
「、、、俺が持ってていいのか?これ」
「うむ、その刀は妾の鱗が使われておってな、色々と便利な武具故持っておくとよい。銘は【緋凪】という」
戸惑いつつ尋ねる俺に緋月は笑いながらそう答えて改めて鞘をこちらに差し出してきた。
、、、俺、、刀なんて扱えないんだけどな。まぁ、貰えるものは貰っておくか。
俺が困惑しつつも鞘を受け取り慣れない手つきで刃を鞘に収めるとその様子を見て満足そうに頷いた緋月が口を開く。
「さて、その刀の能力についてはおいおい話すとして、ここにきた目的は果たしたのじゃしさっそく出発する事にしようかの」
その言葉を聞き、気分が重くなる。
「、、ちなみに、日本まではどれくらいかかる?」
「そうじゃなぁ、、お主らを乗せながらだと、大体一刻くらいかの?」
気が進まないと思いつつも俺が問いかけると緋月はなんでもないようにそんな事を言う。
、、、コイツ、めちゃくちゃ早いな!?一刻って確か30分とかだろ?
途中から意識がなかったり、「ギリギリ力の届く距離」とやらの正確な所がわからなかったりで推測しかできないが、断片的な情報からおおよそ日本とハワイのちょうど中間あたり、、もしくはそれよりもちょっと日本寄りがおおよその現在地と言った所だろう。
それを30分かからないって、、、明らかに生物に出せる速度ではない。
まぁ、、ファンタジーに溢れるこちらの世界の存在なのだから気にしても仕方がないし、実はついさっき思い浮かんだばかりだが、どうするかは既に決めてあるからあまり関係ない。
「、、、帰るのは、明日にしよう」
「ど、、どうして!!?今すぐ帰ればいいじゃない!」
あらかじめ決めていた俺の提案に全員が驚き、広瀬が食ってかかる。
当然の反応だ。
「、、もう辺りは暗くなり始めているし、緋月は一刻でつくって言ってるけど、俺達にそんな速度耐えれる訳ないだろ?俺達に耐えれる速度で飛んでたら着く頃には深夜だ。それなら明日の朝でも問題ないだろ?」
内心で申し訳ないと感じつつも俺は「緋月もいるから危険もないしな」と続けた。思い付いたばかりで考えがまとまっていないのもあるが、、我ながら酷い言い分だ。
「それは、、でも!!」
「落ち着いて、広瀬さん。渋谷くんのいう通りよ。それに、私たちは高速で飛行する龍神様の背中にしがみついていなくちゃいけないのよ?体力の回復はしておくべきだわ」
尚も言い募ろうとする広瀬を先生がそう口にして嗜めつつ俺の方に意味ありげな視線を向けてきた。、、緋月も無言で様子を伺う様にこちらを見つめている。
、、、2人には多分、気付かれてるな。
そう、これは建前だ。
先程緋月は、俺達を乗せる事を考慮した上で一刻と答えていた。
色々と残念な部分は目にして来たが、現状俺は緋月が馬鹿だとは思っていない。おそらくは、飛行中に俺達を保護する″手段″がある。それがなかったとしてもどの道、いきなり機内から消失した生徒と教師が帰還を果たすのだ。深夜だろうが翌日だろうが騒ぎになるのは変わらない。ならばこれ以上家族を心配させない為にも少しでも早く帰るべきだ。それを理解していて帰らない理由は、、怖いからだ。
もちろん家に帰りたいと言う気持ちはある。
だが、俺には帰る場所がない。いや、正確にはあるんだろうが、、その家で待つのは知らない誰かだ。しかも、その人達の息子は死んでいて俺が乗っ取っている。
事情を話すのか、隠し通すのかはまだ決めていないが、、話すにしてもなんと言えば良いのか検討もつかない。隠し通すにしても、話を聞いたり周囲の反応を見る限り俺とこちらの俺はかなり性格に違いがあるように思う。果たして、隠し通せる物だろうか?
とにかく、俺はこれから知らない街の知らない自宅で待つ、知らない両親の元に帰らなければならない。先延ばしにしたところで意味などない事はわかっているが、、、流石に、、覚悟を決める時間が欲しい。
結局、先生の言葉に納得のいかない表情を浮かべていた広瀬も引き下がり、他の面々からも反対の声は上がらなかったのでこの島で一晩過ごして明日の朝帰還する事に決まった。
俺は、みんなに申し訳なく思いつつ、おそらく察して話を合わせたくれた先生と緋月に目線で感謝の意を伝えるとこれからの事を考え始めるのだった。
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