第十九話 『幼馴染の真実2』
本日二話目の投稿、第十九話になります。
引き続き仁千佳視点です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーーーーアイツは、アイツじゃなかった。
もうこの島に来て何度更新されたかわからない″人生で1番の驚き″が再び塗り替えられた。
でも、今回は冷静でいられた。
もちろん、驚いている。でも頭が真っ白になる事も、思考が停止する事もなく冷静に今までの事を思い返す余裕があった。
冷静でいられたのは、、きっと心のどこかでわかっていたからだろう。流石に別世界から来たなどとは想像していなかったがそれでもアイツがこの島に来てから変わった事には気が付いていた。だから、取り乱さずにいられた。
この島に来てからずっと感じていたまるでアイツが別人になったかのような違和感。その感覚は正しく、文字通り私の知るアイツと今の春樹は別人だったのだ。最初から、何でもない風に話しかけてきたのも頷ける。
そこまで考えて、ふとある可能性が頭に浮かびハッとする。
そう、、そうだ。春樹は何事もなかったかように、、今までのことなんてなかったかのように話しかけてきた。じゃあ、、、じゃあ今の春樹は、私を裏切らなかった春樹って事?
その可能性に思い至った瞬間、身体の奥底から歓喜の感情が湧き上がり、同時に先程の矛盾が氷塊し、その理由に気が付いて猛烈な自己嫌悪が湧き上がる。
私は、渋谷春樹が好きなのだ。
結局、忘れる事なんてできていなかった訳だ。だから、私を裏切り、変わったアイツを徹底的に拒み、憎み、否定し、挙句には興味まで失った。だから、この島で出会った春樹に、私の大好きな″渋谷春樹″の面影を見て心が高揚した。だから、春樹と熊谷さんを見て嫉妬した。
そして、アイツが死に、春樹になったという事実を知った上で″私を裏切っていない春樹″が目の前にいると分かった時、私はなにを思った?
そう、喜んだのだ。
アイツを否定し、憎み、虐めた私が、″私を裏切っていない春樹″に入れ替わった事にどうしようもなく歓喜した。それは、アイツの死を喜んでいるのと同義だ。もちろんそんなつもりはなかったが、、どちらにせよ今更一体どの口でそんな戯言を吐き出せると言うのだ。
その事実に強烈な吐き気を覚え、それなのに、、自身の醜悪さを自覚して尚、喜びを感じている自分も確かにいて、自己嫌悪で頭がおかしくなりそうになる。
私は、、私はこんなにも醜い生き物だったのか。
そうして私が自己嫌悪に陥ってる間にもどんどんと話は進んでいく。
自身の自覚していなかった救いようがない程醜い部分が露見し、嫌悪しながらもふと気がつくと春樹を見ている自分がいる。その事に気がつく度に目を逸らし、必死に頭の中で呪文の様に否定の言葉を唱える。
私に、そんな資格ありはしない。この気持ちはしまっておかなくてはならない。私のような自分勝手なクズは春樹の隣に立つのにふさわしくない。
そう自分に言い聞かせるように何度も何度も頭の中で繰り返す。
そうこうしているうちに、封印を解く為に移動する話の流れになった。、、正直気持ちを入れ替えるためにも移動をするのはありがたい。少なくとも、ここで突っ立ってひたすら1人で考え込むよりはずっといい。
そう考えた私は、先程から全く消えてくれない感情を振り払うように頭を振ってから歩き始めるのだった。
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そうして歩き始めた私は、幾分か冷静さを取り戻せつつあった。つい視線を向けてしまうのも、それに自己嫌悪するのも変わらずなのだが先程までの荒れ狂う濁流のような内心よりはだいぶマシだ。
、、、まぁ、、マシになったのは途中、春樹がまた怖い顔になっているのを見てビビってしまった影響もあるが、、、
ともあれ、その事にホッとしていると春樹が熊谷さんに魔法の事を聞き始めた。私は、熊谷さんが氷の魔法が得意だと言う事を話して、春樹の要望で魔法を使っているのをぼんやりと眺めていた。
その時。
「ほえーすげえな、、、おぉ、、ちゃんと氷だ。どうなってんだ?これ。、、ちなみに仁千佳はなんの魔法が使えるんだ?」
「、、ッ!!!」
春樹が、私に話を振ってきた事で再び激しく動揺する。
てっきり2人だけで話は完結すると思っていたのだ。信用していない、とも言っていたし暴言を吐いたり追い出したり、ひどい事をしてきた私に話しかけてくれるとは思わなかった。
、、怒って、、ないのかな?
「、、、、、私は、風の魔法が得意」
私は、話しかけられた事で、再び嬉しくなってしまった事を表情に出さないように必死になりつつ自分の得意な魔法を答えた。ついでに軽く魔法を使ってみたら気持ちよさそうに目を細めていてかわいかった。
その後、全員の得意な魔法を聞いていった春樹は「水や氷が使えるのなら飲み水の心配は必要なかったのでは?」と疑問を持った。
その事について龍神様が春樹に説明をしているのを聞きながら思う。
魔法を知らないなら当然の疑問だ。同時に、私達なら絶対に抱かない疑問でもある。せいぜい幼い頃に親に聞いた事がある人もいるってレベル、、、「どうして空には雲があるの?」や「子供はどこからやってくるの?」と言った疑問と同列に語られるような疑問だ。
常識。それも″大半が知っている″なんてレベルではない。この世界の人間なら、それこそ幼子や怪我や病気などで正常な思考が出来ない状態にある人達を除き、全ての人間が認知しているような当たり前の常識を目の前の春樹は知らないのだ。
頭の中ではとっくにわかってたつもりだったけどどうやら違ったらしい。私はその春樹の様子を見て、本当にアイツとは別人なのだと言う事を改めて本当の意味で実感した。
「、、本当に、、別の世界から来たんだ、、」
「、、、みたいだな」
「、、、ねえ。 別の世界の私と春樹は、、、、ッ!!ごめん、、忘れて」
ほとんど無意識に話しかけ、質問をしかけてハッとした私は慌ててそう口にした。
、、、今、私は何を聞こうとした?別世界の私と春樹の関係?そんなものを聞いてどうするの?
聞いたところで意味などない。それに、、春樹の元いた場所は春樹が私を裏切っていない世界だ。
向こうの私はさぞかし幸せな生活を送れている事だろう。
、、、嫌だ。聞きたくない、そんなもの。
再び、必死に抑え込んでいた黒い感情が私を支配する。春樹が、私を置いてもう一人の私がいる世界に帰りたがっている事に胸を抉られるような感覚を覚える。そしてそんな世界にいるもう一人の私が堪らなく妬ましい。
、、、、私は、何をしているんだろう。
アイツに、私の大好きな春樹の理想を勝手に押し付けた。だから、裏切られた事に必要以上に過剰反応してアイツを否定した。
裏切られたあの時、あの場で審議を確かめるなり、もしくはさっさと忘れてしまうなりすればよかったのだ。
でも、私はそうしなかった。その場から逃げ出し、現実を見ずにアイツが変わった事を認めず、否定し、拒絶し続けた。
わかっている。これは、ただの我儘だ。気に入らない事が受け入れられず駄々をこねる子供のようなものだ。
そして、今度は別世界の春樹にかつての渋谷春樹を重ね、押し付けようとしている。でも目の前にいる春樹は、私の求めている渋谷春樹に限りなく近い別人だ。そして、アイツは死んだ。
もう渋谷春樹は二度と帰って来ない。
わかっている。わかっているはずなのに、感情が抑えられない。想いを抑えきれないばかりか、こうして別世界の自分にまで嫉妬を向ける始末だ。
、、私はどうしたらいいんだろう。どうして、私はこんなにも醜い人間になってしまったのだろう。
頭の中で延々と同じ疑問を繰り返し、私は思考の渦に飲み込まれていくのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しややこしいので補足をしておくと
「春樹」=主人公
「アイツ」=この世界の渋谷春樹
「渋谷春樹」=この世界の仁千佳が好きだった頃の渋谷春樹
を指しています。
元は一つだった魂を分け合ったほとんど同一人物と言っていい存在ですが、辿ってきた道のりは同じではない=別人と本人達は認識しています。
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