第十八話 『幼馴染の真実』
第十八話です。
仁千佳視点になります。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーーーーーどうして、私はこんなにも醜い人間になってしまったのだろう。
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下着騒動で無実のアイツを追い出してしまった私達は、捜索中に熊谷さんまで消えている事に気がいた。その瞬間、頭の中に直接響くような謎の声が聞こえてきた。そして、島の中央の方から呼ばれていると感じて、行かなくてはならないと思い歩き出した。
、、、そこから先の事は良く覚えていない。
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「何さらしとんじゃワレコラァ!!!」
、、、私は、その怒号を聞いて正気に戻った。
ハッとした私は、慌てて周囲を見渡すと周囲をオオカミのように見える魔物に囲まれていて、すぐ近くの地面には真っ赤な血溜まり、そしてその上にアイツが額から血を流し鬼の様な形相で立っているのを確認した。その背にはなぜか熊谷さんが背負われている。
、、やっぱり、2人は一緒にいたんだ。
いきなりすぎる展開に呆然としつつもそんな場違いな感想を抱き、胸の奥がちくりと痛んだがその事に反応する間もなく事態は動き出す。
すぐさま付近にいたもう1匹の魔物がアイツに襲い掛かり、腕に噛み付き鮮血が飛び散った。急に目の前で繰り広げられた攻防をただ呆然と見ている事しかできない私だったが、直後に起こった出来事で更に唖然とする。
「、、、ッツ!!痛っ、、てぇなァこのクソボケがァァ!!!」
アイツが、聞いたこともない乱暴な口調でそう口にしながら魔物に噛みつかれた腕を振り上げたと思ったら、そのまま振り下ろし地面に叩きつけたのだ。周囲に轟音と振動が響き渡り、魔物は地面のシミになり、その衝撃で地表に蜘蛛の巣状の地割れが刻まれる。
、、、え?ま、、魔物が爆発した?それに、、地面が割れて、、、え?
「オウ、、テメェらよく見たらどっかで見たことあるツラしてやがんなァ?あの時世話ンなったお礼しなきゃなァ?」
私がひたすらに混乱しているとアイツはそう口にしながら魔物へと歩みを進め始める。
すると魔物は怯えたように後退り、そのまま逃走を図る。
「テメェから喧嘩売っといて逃げてんじゃねェぞカスコラァ!!!」
アイツはそう叫びながら石を拾い上げるとそのまま逃げる魔物に向けて投擲した。手から離れた石は凄まじい速度で飛んでいき魔物のうちの1匹に命中し、更に木々を薙ぎ倒しながら森の奥へと消えていく。
再び、頭が真っ白になる。
石を投げて魔物だけじゃなく木まで倒れて、、え?な、、なにが起こっているの?
「、、チッ」
アイツは舌打ちをするとこちらを振り返る。
「、、、、、、」
その表情を見た途端、背筋が凍った。
振り返ったアイツはとても恐ろしい顔をしていたのだ。この島に来てから何度か怖い顔をしているのを見たが、今はその比ではない。額から流れ出る血も相まって、、なんというか迫力が凄まじい。視線だけで人を殺せる、、とはああいう顔の事を言うのではないだろうか?
「、、、おい、大丈夫か? 怪我は?」
蛇に睨まれた蛙のようになっていた私だったが、アイツが私達の無事を確認してきた事でハッとして慌てて首を横に振る。
私達は無傷だ。というか、、この中で1番重症なのはどう見てもアイツだろう。どう考えても人の心配をしている場合ではない。そもそもどうして私達は魔物に囲まれていたの?
たしか、声が聞こえて、、とにかく行かなきゃと思ってそれから、、、ダメだ、良く思い出せない。気が付いたら魔物に囲まれててアイツがいて、、、それで、、、、、あれ?もしかして、、アイツが助けてくれたの?
冷静になって来た頭で、ようやく自分達はアイツに助けられたのだという事に気が付き、困惑する。
無実の罪で追い出した私達をあんな怪我を負ってまで救ってくれた?、、どうして?、、たくさん嫌な事とかも言ったのに、、この島に来る前だって、、あんなに。
と、、とにかく、謝ってお礼言わなきゃ。そ、、そうだ、、それより怪我、、!!血が出てる、、、止血、、止血しないと!!
ようやく、理解が追いついてきて焦った私がそんな事を考えていると、いち早く動いた先生がアイツの元へ駆けつけた。そして、そんな先生を拒絶したアイツは言い放った。
「信用していない」と。
それは、言われるまでもなく先生だけでなく私達全員に向けられた言葉だ。
冷や水を浴びせられたような気持ちになり、全身の体温が一気に下がったような感覚に陥る。先程まで状況に踊らされ、ひたすら混乱していた頭も一気に冷え込み現実に叩き戻される。巨大な杭で胸を貫かれたような気がして、思わず泣きそうになるが歯を食いしばって耐える。
これは、当然の反応だ。ショックを受ける権利すら私達にはない。それだけの事をした。
頭ではそう理解しつつも感情は荒れ狂う波のように押し寄せてきて思わず俯いてしまっていると、アイツは熊谷さんに止血を頼み始めた。頼まれた熊谷さんは困惑しつつ、私達に気を使ったのか視線をこちらにチラリと向けて一瞬躊躇う様子を見せてから手当を開始した。
「、、、、、、、、」
その光景をみて、私は再び胸の辺りが深く抉り取られるような感覚に襲われた。感情が揺さぶられ、酷く不快だ。とにかく、アイツが熊谷さんに治療されているのが気に食わない。
見ていたくない。
この島に来てから何度か感じていた胸を刺すような違和感。そんなわけないと誤魔化していたがいい加減認めなければならない。これは、、、嫉妬だ。
でも、、どうして?どうして、こんな気持ちになるの?
必死に冷静に努めて考える。
まず私は、、アイツが嫌いだ。それは間違いない、、筈だ。より正確に言うなら、なんとも思っていない。
この島に来てアイツに会って、いろいろ思い出して怒りが再燃したりもしたが、ここ最近の私は学校でアイツを見ても前みたいに心が怒りに染まるような事は無くなっていた。
もちろん、許したわけではない。ただ、もうどうでも良くなってきていたのだ。
いつの頃からだったか、、正確な事は覚えていないが、ある時から急にいちいちアイツを目にするたびに怒ってエネルギーを消費するのがバカらしくなったのだ。
どこかで″好きの反対は嫌いではなく無関心″なんてセリフを聞いた気がするが、この頃の私はまさにその″無関心″の領域に片足を突っ込みはじめていたように思う。
やはり、思い返してみてもその思いは変わらない。、、そのはずだ。
でも、それなら、、これはなに?、、なんなの?この感情は。
なんとも思っていない事を再確認しても胸の底から湧き上がってくるモヤモヤとした思いは一向に消えてくれない。
なんだっていうの?私は一体何に嫉妬しているの?
私が自分の抱える矛盾に混乱しているのを余所に手当を受けたアイツが私達を助けに来た経緯を語り始めた。
「、、、、、、」
話を聞き終えた私は熊谷さんの能力については驚きはしたが、正直それどころではなくやはり自分の抱える矛盾の事ばかり考えていた。他の事を考える余裕がなかったのだ。そして、そんな私を更に追い込み、嘲笑うかの様な出来事が起こる。
竜が、現れたのだ。
ワイバーンや飛龍といった良く似た魔物もいるが、、アレは本物だ。竜はもちろんの事、そういった魔物も直接見た事はないがそれでも、わかる。アレは″格″が違う。
うまく言葉にできないが、、理屈じゃなく本能でそう理解させられた。
ーー竜。
この星の生態系の頂点に君臨する四大精霊の一角。この世界に住む人々なら知らぬ者などいない。実際に会った事がある人など世界中のどこを探したっていやしないが、おとぎ話や空想ではなく確実に実在する″生ける伝説″だ。
特に″竜神″の名はかつて勇者と共に世界を救ったと言う話もあり四大精霊の中でも1番有名で、広く人々に知れ渡り親しまれている。絵本や創作物のモデルとして取り上げられ、竜神を信仰する宗教まで存在するまさに神の如き埒外の存在。
そんな存在が今、わたしの目の前にいる。
間違いなく、今まで生きてきた中で1番の衝撃。そして、先程まで頭を悩ませていた事もすっかり吹き飛び、ただただその存在感に圧倒されるのみだった私の前で、先程更新されたばかりの″人生1番の衝撃″をたやすく塗り替えるような出来事が起こる。
突如光に包まれた竜神様だったがその直後、思わず見惚れてしまうような綺麗な女性に姿を変えて現れたのだ。そして、、
「これで話もしやすかろう。、、、ん?お主、、なにやら面白い事になっておるのぅ。どれ近こうよれ、もっと見せぷへぇ!?、、、え?、、、オブゥ!!!!」
そして、アイツが、いきなり竜神様にビンタして続け様に腹部に前蹴りを放ったのだ。
「おう、クソトカゲ、まず、謝れや」
2度目の″人生1番の衝撃″に言葉を発する事ができずただただ絶句する私を余所に、アイツが竜神様に謝罪を要求し始めたのを耳にしたその瞬間、既にいっぱいいっぱいだった私の思考は完全に停止した。
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「な、、なんて事を、、」
呆然とした先生のそんな呟きを耳にしあまりの衝撃に完全に脳が停止し、意識がそこら辺を彷徨っていた私は現実に戻ってくる。
、、、、え?本当にアイツなんて事をしてんの!?相手は伝説の存在で、、そんな存在にビンタして謝れって、、え?あれ?ていうか、、私達殺されるんじゃ、、?
「オイ、トカゲ」
り、、竜神様をトカゲ呼ばわり、、というか今気が付いたけど、、竜神様が裸で痙攣している。だ、、大丈夫なんだろうか、、あれ。
「ヘブッ!?フベッ!!アウッ!?、、、ハッ!?なっ、、ななななななななにをする!?」
心配する私を余所に、あろうことかアイツは痙攣して反応を示さない竜神様の上体を起こし往復ビンタを浴びせはじめたのだ。
再び、私の思考は真っ白になる。
というか、なんで春樹はあんなに普通なの?なんで神様みたいな存在に普通に殴り掛かれるの?あと竜神様、裸なんだよ?普通男子だったら動揺するなり食い付くように見るなり何か反応示すものじゃないの!?なんで無表情でビンタを浴びせてるの!?
そう思いチラリと竜神様を見るが同性の私から見ても思わず赤面してしまうほどに美しいし、スタイルも見事の一言に尽きる。一種の美術品のように完成された存在がそこにいる。
女の私ですらちょっとドキドキしちゃうような女性の裸体が目の前にあるのに春樹はなんの反応も示さず冷ややかな目を向けている。最初は男子がよくやる謎の「女子に興味ありませんからアピール」か?と思ったが、、、どう見ても本気でなんとも思ってないっぽい。まるでゴミを見るような冷めた目だ。
春樹はあの身体でも、なんにも思わないんだ、、、
そう思ってほとんど無意識に自分の身体を見下ろして、気分が落ち込む。私も同級生と比べれば胸は大きい方だが竜神様には流石に敵わない。それだけでなく等身とか、、足の長さとかとにかく全体的なバランス含め竜神様に女の魅力で勝てる気がしない。
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この時の私は、立て続けに衝撃展開が起こったせいで混乱の境地に達し、自分が先程まで頭を悩ませていた問題もすっかり吹き飛び、頭の中での呼び方がいつのまにか″アイツ″から″春樹″になっている事にも気が付いていなかった。
そして、自分がいま、一体何に落ち込んだのかすら自覚していない私に更なる″爆弾″が落とされるのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
今回は二話続けて投稿になります。
引き続き仁千佳視点になります。
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