第十三話 『竜』
第十三話です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーー言葉が、出ない。
身体は金縛りにあった様に硬直し、呼吸の仕方を忘れたかの様にうまく息ができない。全身からひや汗が吹き出し、何時間も砂漠を歩いていたかの様に喉がカラカラに干上がっている。喘ぐ様に空気を求め、息を吸い込みなんとか呼吸をするがやはり、声は出せない。
俺達は、突如現れた竜の存在感にただ圧倒されていた。
この島に来てからとにかく驚愕の連続だった。だが、、これはあまりにも、、
そう思いあらためて目の前の竜に視線を向ける。
、、まず、でかい。
正確なところはわからないが10mくらいあるのではないだろうか。いわゆる西洋風の竜、ドラゴンと聞いて誰もがイメージするような見た目の生物がその大きな翼をはためかせ滞空している。
燃え盛る炎の様なウロコに全身を覆われ黄金色の双眸がこちらを睥睨していた。鋭い牙の隙間から「グルルル」と低い唸り声を響かせ、太陽をその背に背負いこちらを見下ろすその偉容には、もはや神々しさすら感じる。
どうする?
どうすればいい?
戦う?、、アレと?
とりあえずぶん殴ってみるか?
ーーーーーーよくぞ来てくれたのじゃ人の子らよ。
「、、、!!」
俺が必死に頭を回転させていると頭に響く様な″声″が聞こえた。、、、間違いない。俺たちを呼んでいた、あの助けを求める″声″と同じだ。
先程までただ圧倒されていた俺はその声を聞いた瞬間、急激に頭に血が昇るのを感じた。
ーービキッ
額に青筋が浮かぶ。
ーーーーーーふむ。この姿では怯えて会話にならぬか。
再び″声″が響くと竜が突然光に包まれた。眩い光に思わず顔をしかめていると次第に光は小さくなっていき徐々に消えていく。
そして、光の中から燃え盛る炎の様な赤い長髪を靡かせ、瞳孔が縦に割れた黄金色の瞳を持つ美しい女性が姿を表した。まさに絶世の美女と言う言葉がふさわしく、すらりと伸びる長く細い手足、全身の肌は陶器の様に白く透き通っていた。
ちなみに全身の、、と言うのは文字通りの意味で端的に言うと、全裸だ。通常時なら「ありがとうございます」と拝みたくなる様な美しい裸体を隠すそぶりすら見せずに堂々と晒している。
それを見た俺はーー
「さて、これで話もしやすかろう。、、、ん?お主、、なにやら面白い事になっておるのぅ。どれ近こうよれ、もっと見せぷへぇ!?、、、え?、、、オブゥ!!!!」
俺は、とりあえず無言でビンタを見舞ってから竜だったものが頬を押さえ呆然としているのを無視して更に腹部に前蹴りを放った。
一瞬、全力で行くか迷った俺は先程、オオカミ(仮)が爆散した事を思い出し加減を加えてみたのだが、、、爆散はしていないしどうやら普通にダメージは入っているっぽいからとりあえず良しとしよう。
蹴りが腹部に突き刺さり、腹を押さえて膝から崩れ落ち、蹲ってビクンビクンしている竜?に俺は口を開く。
「おう、クソトカゲ、まず、謝れや」
ーーーーーーーーーーーーーー
「「「、、、、、、、、、」」」
静寂が場を支配していた。
腕を組んで仁王立ちしている俺の目の前には見目麗しい女性(竜)が未だに腹を押さえてビックンビックンしている。
ちなみに、全裸だ。
「な、、なんて事を、、」
そんな先生の呟きが聞こえ後ろを振り返ると先生だけでなく、皆一様に信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。盛島などは再び青褪めガタガタと震えながら物凄い勢いで汗を吹き出し始めている。完全に、ドン引きである。
、、、ふむ。
改めて自分の行動を振り返ってみる。
今の俺を客観的にみたら全裸の女性に平手打ちをした後腹部に前蹴りを放った上で謝罪を要求している男、、という事になる。
完全にヤベー奴だ。そりゃあドン引きされてしかるべきだろう。
でもね、コイツ竜だよ?
先程目にしたまんま竜が人に化けたのか、もしくは実は人が竜に化けていたのかはわからないが、、俺たちに洗脳まがいの事をして来た危険な存在だよ?君ら、危うく死ぬとこだったんだよ?なんで、俺がドン引きされなきゃいけないんだ?
なんだか腹が立ってきた俺は未だに目の前でうずくまっている竜だったものを睨みつけて声をかける。
「オイ、トカゲ」
「、、、、、、、」
声をかけるが相変わらずビクンビクンしたままで反応がない。
、、、よほど蹴りがイイとこに入ったのか?、、チッ!ったくしょうがねぇな。
このままでは埒が開かないと感じた俺はため息をつくとしゃがみ込み肩を掴んで上体を起こしてやり、片手はそのまま肩を掴んだままで姿勢を維持させ、もう片方の手をスッと掲げ、無言で往復ビンタを繰り出した。
「ヘブッ!? フベッ!! アウッ!?、、、ハッ!?なっ、、ななななななななにをする!?」
数度の殴打を経てようやく意識が戻ってきた竜に俺はにっこりと笑いかけながら言葉を放つ。
「謝れ」
「、、、、、え?、、ングゥ!?」
竜がなにを言っているのかわからないと言った様子で呆然と聞き返してくるので俺は即座に手を伸ばし顔面を鷲掴みにする。
「テメエのワケの分からない洗脳のせいでこっちは全員死ぬとこだったんだよ。よく来てくれたのじゃ、、じゃあねェんだよハゲ。まず、謝れや」
そう口にしながら徐々に手に力を込めていくと竜は悲鳴を上げあわてた様に喋り出す。
「いだだだだだだだだだ!!!!わ、、悪かったのじゃ!謝るから離してくれぇ!!」
竜が謝罪の言葉を口したが俺は更に手に力を込め締め上げながら質問を繰り出す。
「俺は、とりあえず謝罪を受け入れよう。後ろの連中に関しては後で個別に地面に頭を擦り付けて誠心誠意謝れ。わかったか?」
俺が問いかけると竜は「わ゛、、わ゛がっ゛だ」となんとか絞り出した様子で答えるがそれでも力を緩めずに質問を続ける。
「それで、お前は敵か?」
敵なら容赦はしない、と言う意志を込め更に頭を掴む手に力を込めながら確認する。
すると竜は力無く首を横に振る仕草を見せる。
、、実際には俺が顔面を鷲掴みにしていたので動かせないのだが、首を横に振ろうとしている事は手から伝わってきたので解放してやると俺の手から解放された竜はそのまま力無く崩れ落ち地面にしなだれそのまま俯き、やがてシクシクと啜り泣く声が聞こえ始めた。
チッ、、めんどくせえな、、、
「オイ、泣いてんじゃねえよめんどくせえ。テメエには聞きたいことが山ほどあるんだ。俺の聞いた事を洗いざらい全て吐け。聞いてねえ事も必要だと思ったら適宜吐け、わかったか?」
「あ、、、悪魔、、?」
「に、、二重人格?」
「なんで裸な事はスルーなの!?」
俺が舌打ちを交えつつ竜にそう投げかけていると後ろからそんな呟きが聞こえて来た。
誰が悪魔で二重人格だ。それに、たしかに目の前の不思議生物は視覚的には人間と変わらないし大変眼福ではあるのだが、、、もう一度言うけどコイツ、竜だよ?スルー以外にどうしろってんだ?優しく上着でもかけてやりゃいいのか?それともなにか?竜相手に欲情しろってか?
しかも、相手は洗脳まがいの事をしてきた危険な存在だ。ついでにいえば、俺たちをこの島に連れてきた犯人候補でもある。敵意は、、今のところ感じないがその事実は変わらない。
、、、正直、、警戒はかなり薄れてきているが、、
俺は目の前でしなだれ「うぅ、、妾、竜なのに、、」と呟きながらシクシクと泣いている残念な存在に冷めた目を向けながらそんな事を考えていた。
、、、まぁいい。とりあえず今は質問だ。
「オイ、トカゲ」
「わ、、妾はトカゲじゃなくて竜、、」
「ア゛ァ゛?」
「ピィ!?」
俺が苛立ちの声をあげると竜は珍妙な悲鳴を上げて仰向けに寝っ転がりガタガタと震えだした。
、、、何度も言うが、全裸だ。
そのせいで色々と見えてはならない部分が丸見えになっているのだが、、まぁ今更だ。ていうかそもそもなにしてるんだ?コイツ。あれか?犬が服従の証にお腹を見せるのと似たような物か?
まぁ、なんにせよこのままでは埒が開かないのでさっさと質問を投げかけよう。
「まず、お前はなんだ?」
「わ、、妾は妾じゃ」
「、、、、、」
額に青筋を浮かべながらにっこりと笑った俺は、無言で仰向けになっている竜の腹に足を乗せるとそのまま徐々に力を込めていく。
とんちが聞きたいんじゃねえよ。
すると竜があわてた様に言葉を続ける。
「ほほほほほ本当じゃ!人の子らは妾の事を四大精霊などと呼んでおるが妾は妾じゃ!!なんだと言われてもそれしか答えられん!!!」
、、、四大精霊?、、また随分と突飛な単語が出てきたな。
意味は、、なんとなくわかる。てか、分かるも何も聞いたそのままで精霊の四天王的な意味なんだろうが、、あと竜なのに精霊?あまり詳しくないが別物じゃないのか?
、、、まぁ、今は無理矢理良しとしよう。
「お前がその四大精霊ってのだとして、そんな存在が俺たちを騙してまで呼んだ目的はなんだ?」
「だ、、騙してなどおらぬ!本当に助けて欲しかったのじゃ。もちろん危害を加えるつもりもない」
「、、お前の声に従ってここまできた結果危うく死ぬとこだったが?」
実際、俺と、一緒にいた熊谷は俺が謎の怪力に目覚めたおかげで切り抜けられたとは思うが、、、それでも怪我も負ったし危険だった事に変わりはない。他の面々に関しては正真正銘、本当に危ないところだったのだ。
俺がその事を指摘すると竜は気まずそうに視線を逸らしながら答える。
「そ、、それは、、随分と昔の話にはなるが、妾の知る人の子らはあの程度の魔物に苦戦する様な弱い存在ではなかったはずなのじゃ。故にあの程度なら問題にもならんと思っておった。正直、、気にもしておらんかったのじゃ。危険な目に遭わせてしまったことは本当に申し訳なかったが、、誓って騙そうなどとはしておらぬ」
そう言って竜は本当に申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
、、、、追加で魔物とか言う気になるワードが出てきたが、いちいち突っ込んでいては会話が進みそうにないので後で聞く事にしてスルーしよう。
、、巻き込まれた側としては言い訳にしか聞こえないが、話を信じるのであれば一応言ってる事に特別おかしな点はない。
コイツの言う″昔″がどのレベルなのかは知らないが、ここ数十年、、と言うのはどうにも考え辛い。そうなると少なくとも、数百年単位で昔の時代を生きた生きた人達と、世界でも特に治安が良く安全な国で大半がぬるま湯に浸かって生きてるような俺達現代人とじゃ比べるべくもない。そりゃあ、弱くなったと感じるだろう。
まぁ、色々とツッコミどころはあるがこれも今はスルーでいい。次の質問だ。
腹に乗せた足を退けてやりつつ質問を投げかける。
「それで?助けてほしいと言っていたが、、何から、何故狙われてて、何故俺達に助けてほしい?」
「、、妾が直接危害を加えられているわけではない。いま、世界に危機が迫っておる。じゃが妾は封印されているせいでこの島から動くことができぬのじゃ。じゃから妾の封印を解いてほしいのじゃ!」
竜は必死な面持ちでそう訴えかけてくる。
普通なら即座に切り捨てて頭のおかしいやつ認定するところだが、、、コイツが龍から人になる所を目の前で見たし、どうやら魔物らしいオオカミモドキに熊谷の能力、極め付けは俺自身の身体に起きている異変。頭ごなしに否定するにはちょっと無理がありすぎる。
、、、本当になんだってんだクソッタレ。魔物だの、世界の危機だの、封印だのいったいいつからこの世界はこんなにもファンタジー溢れる素敵仕様になった?
あ、、やばい。情報過多でまたイライラしてきちゃったぞ。
感情が顔に出てたのか俺を見上げていた竜は「ピッ!?」と再び珍妙な悲鳴を上げると流れる様に正座に移行する。
「、、、、、まぁ、目的は一応理解した。それで、世界の危機ってのはなんだ?核戦争でも起きんのか?」
「、、、カク?、、が何かはわからぬが違う。現在、複数の世界が何者かの手によって一つにまとめられようとしておる。このままじゃと、ほとんどの生物はその変化に耐えられずに死に絶えてしまうじゃろう」
「、、、詳しく話せ」
俺の言葉に頷いた竜は口を開き始めるのだった。
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