第十一話 『希望』
第十一話 熊谷視点になります。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーーーーーどうして、こんな事になったんだろう。
私、熊谷三裡は考えを巡らせる。
学校の修学旅行に参加し、その帰りの飛行機の中で私は眠りについた。
そして目覚めたらどこかの砂浜だった。
訳もわからず、呆然としたまま彷徨う様に海岸沿いを歩き、もしかして自分一人しかいないのかと思い始めて不安で泣きそうになった時、同じ様に一人で歩く先生を発見して心から安堵した。
その後、別のクラスの盛島さん、広瀬さん、今村さん、渋谷くんも合流し、全員で途方に暮れていた。しばらくすると、急に今村さん達と渋谷くんが喧嘩を始めて先生が必死に取り成していた。
いや、あれは喧嘩と言うよりも今村さん達が一方的に因縁をつけて暴言を叩きつけていただけだったけど、、とにかく、そんなこんなで結局ほとんど何もしないまま私達は一日目を終えた。
そこからは怒涛の展開だった。
まず、翌朝盛島さんの下着が無くなると言う事件が起きた。盛島さんは猛烈な勢いで渋谷君に詰め寄り問い詰めたのだ。
私は、この状況でわざわざ自分に100%疑いが向くとわかりきっている下着など盗むだろうか?と少し懐疑的だった。
だからとりあえず、証拠を探してみようとか単純に風で飛ばされたんじゃ?とか言ってなんとか取りなそうとしてみたのだが全然聞き入れてもらえなかったのだ。
結局渋谷くんは反論すら許されず追い出されるように出て行ってしまい、その後すぐに盛島の下着をとりあう子ザルを発見した。
人から聞く分にはなんともマヌケでお粗末な、思わず笑ってしまうような結果だが、当事者としては全く笑えない。私達は無実の人間を危険な生物が生息しているかも知れない島に追い出してしまったのだから。
その後結局、先生の説得もあり彼を追いかけて謝る事になった。
彼を探して、小高い山の上まで来ていた私達だったが彼は見つからずに途方に暮れていた。なんとなく、高い所から見下ろせば見つけれるかも?と思った私はその旨を先生に伝え、一人グループを離れた。
離れたとは言っても、大声を出さないと声は届かないが姿は見える、その程度の距離だ。
そうして切り立った崖のような所から下の方に視線を巡らせていた私は突然何者かに突き飛ばされ、そのまま崖から落ちた。
下を覗き込む直前に一度先生達の方を振り返って見たが全員いた。あの距離をものの数秒で詰めて私の事を突き飛ばせるはずがない。つまり先生達じゃない。
じゃあ、、誰が?
そんな事を考えているうちにあっという間に地面が目前に迫り私はギュッと目を瞑った私の耳にグシャッと言う生々しい音が聞こえ、意識が途切れた。
そうして、″一回目″が終わった。
そして″二回目″叫んで飛び起きた私は慌てて自分の身体を抱くように状態を確認するが無事な事を確認しアレは夢だったのかと胸を撫で下ろした。
しかし、目覚めた状況が夢と同じ事に気が付き嫌な想像が頭によぎる。その後も、夢と変わらない流れで合流を果たし、言い知れぬ不安がどんどんと膨らんでいくのを感じていると、夢の内容と違う事が起きた。
渋谷くんがこれからの行動を提案し始めたのだ。
私が、夢の内容と違う事が起きた事に内心ホッとしているうちに、渋谷君の提案でとりあえず海岸沿いを歩き他の生存者や漂流物、ついでに夜を過ごす為の拠点を探す事になった。渋谷君がその提案を投げかけた時、今村さん達が激しく食ってかかり始め先生が必死に取り成していた。
そういえば″夢″の中でもケンカしていたけれどこの人達は仲が悪いのかな?
そう思った私は視線を巡らせた。
今村さん達はよく知ってる。同学年の人気者で交流が広く、別クラスである私たちの教室にもよく顔を出していたし仲がいいとまではいかないが何度か会話した事もある。
対して、渋谷君はほとんど何も知らない。風の噂で虐めを受けているとか、後はアイツキモいだのなんだのと悪口を聞いたこともある。
、、、とてもそんな風には見えないけど。
チラリと渋谷君を見た私はそんな感想を持つ。″夢″の中の私は正直他人の様子など気にする余裕もなかった。だが、こうして落ち着いて見てみると先程の提案もこの状況に呆然とするばかりだった私とは違い、彼はスラスラとすべき事を見つけていて素直に凄いと思った。
冷静だし、少し大人びてると言うか、、泰然としている。そんな印象だ。顔も、、私の感覚がズレてなければ普通に整っているイケメンと呼んで差し支えない容姿だし持ち合わせている雰囲気も相まってさぞかしモテそうなものだが、、。
さっきだって、今村さんに鬼の様な表情を向けてビビらせていたし、、、本当に彼は虐められているのだろうか?
そう思い記憶を探るが、元々人付き合いは最低限でいいと考えているタイプで積極的に他クラスの人たちとまで関わってこなかった私は彼の印象をよく思い出す事ができなかった。
名前は知ってたし、顔もわかるから絶対に見た事はあるはずなのだが、、、まぁ、元々意識していなかったのだからこんなものか。街中ですれ違った人のことをよく思い出せない様なものだろう。
そう一人で納得した私だったが、結局″夢″と同じ様な流れになり、下着泥棒騒ぎが起き、渋谷くんが追放され、誤解が判明し、渋谷くんを探すが発見できなかった。ここまで細かな違いはあれど「夢」と同じような展開になっている事もあり最大限に警戒していたおかげか突き飛ばされる様な事はなかったが、結局その日眠りにつき、目覚めると最初の砂浜に戻っていた。
そうして始まった″三回目″、流石に″ループ″していると悟り、とにかくなんとかしなきゃと思った私は思い切ってみんなに打ち明けてみた、、が当然信じられるはずもなく、他にも色々としてみたが結局何も変える事ができずとうとう″四回目″を迎えてしまった。
私は、仮面を被り冷静を装い、渋谷くんの真似事をして提案を投げかけてみたり、慣れない進行役を務めてみたりとしてみたのだが、結局流れが変わる事はなかった。必死に頭を働かせるが何も思いつかず、いよいよ一日目も終わりを迎える頃になり途方に暮れてしまった私だったが、ふと脳裏に渋谷くんの顔がよぎった。
そう、、そうだ!!とても落ち着いて余裕があるように見えたし、彼ならなんとかしてくれるかもしれない。
そう思った私は一縷の望みをかけ、藁にもすがる思いで渋谷くんに頼ってみる事に決め、声をかけるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
結局、彼は話を聞いてくれたけど私の話を信じてはくれなかった。
希望を絶たれ、絶望に押しつぶされ泣きそうになるが同時に仕方がないとも思う。精神的にいっぱいいっぱいだったせいで説明は要領をえず、仮にうまく説明できてたとてその内容は言わずもがな。それでもきちんと最後まで話を聞いてくれた彼の人柄に感謝すべきだろう。
いったい、他の誰がいきなりこんな荒唐無稽な話をされて真面目に最後まで聞いてくれただろうか?そしてその話を聞いた上で頭ごなしに否定せず、明確な理由を提示した上で否定してくれるだろうか?
普通は、まともに取りあわない。むしろこんな状況で突然そんなワケのわからない事を言い出す事に怒りを覚えるだろう。それがおかしいとは思わないし少なくとも、私ならそうする。でも彼は、、渋谷くんは困惑こそしていたけどちゃんと真面目に話を聞いてくれた。
渋谷くんならきっと、、何か一つでも彼の心を動かせる何かがあれば、、、
そうして再び熱を持ち始めた希望を胸に折れそうな心をなんとか歯を食い縛り耐え、せめて″次″につなげようと渋谷くんに色々と質問を投げかけた。
そして結局、いきなり突き飛ばされた私は意識を失い、″四回目″も三日目を迎えることが叶わずに終わった。
そうして迎えた″五回目″。
現在、私は渋谷くんに背負われ森の中を凄まじいスピードで爆走していた。
ーーーーー本当に、どうしてこんな事になったんだろう。
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彼の背中で、ゴシゴシと袖で涙を拭いズビズビと鼻水を啜った私は考える。
″四回目″頑張った甲斐あってか渋谷くんは今回、私の話を信じてくれた。
それだけでなく、私がまったく思い付きもしなかった″先生達にも記憶を残す″と言う手段まで示してくれた。
あくまで可能性の話ではあるが、それなら、、みんなが覚えていてくれるなら、、、あまり考えたくはないけどもし″五回目″が失敗に終わっても″次″からの動きが飛躍的に楽になるはずだ。
渋谷くんにも一部記憶が残ってると分かった時驚きやら嬉しさやらで我を忘れてしまったが、冷静になって今までの事と照らし合わせて考えてみると充分に試してみる価値のある可能性だ。
、、、やっぱり、渋谷くんは凄い。彼に頼って正解だった、、そう心の底から安堵したのも束の間、謎の声が聞こえてきたのだ。
「!!!」
無言で渋谷くんと見つめ合うがこの反応だと聞こえているのは私だけではないらしい。″前回″まではなかった事だ。
私が不安に感じていると渋谷くんがその事を私に確認してきた。
やっぱり渋谷くんは冷静だ。こんな事が起きてもすぐに事態の把握に動いている。その事に私は安心感を覚え、不思議と気分が落ち着いている事に気が付いた。
、、、なんだか途中から鬼の様な顔になってきていたのはものすごく怖かったけど。
そして二回目の″声″が聞こえた私はどうしても島の中心へと行かなくてはというか衝動に駆られた。
理由はうまく言葉にできないが、、とにかくその方向に行かなくてはならないと猛烈に感じたのだ。
、、、行かなくちゃ。
そう思い、足を踏み出そうとした時だった。
バキャッ!!!
不意に音が鳴りハッと我にかえる。何事かと思い後の方に視線を向けると何故だか渋谷くんが木に頭突きをしていた。
ドォォォンと轟音が響き渡り地面から振動が伝わってくる。
ーーーーーーーーーーなっ!?
「し、、、渋谷くん!?」
思わず驚きの声をあげてしまうがそれも仕方のない事だろう。謎の″声″も驚いたような声を上げていた。
そして私がひたすらに混乱していると大きく息を吐き出した渋谷くんは俯いてクックックと静かに笑い始めた。
「し、、、渋谷、、くん?」
困惑する私の呼びかけには答えず彼は今までとは全く異なる口調で喋り始めた。
「なんだァ?謎の島にループに謎の声、お次は何が飛び出すかと思えばこりゃァ洗脳かァ?この状況で島の中央に向かおうとするなんざおかしいだろ?おかしいよなァ?助けを求めといて随分な真似してくれるじゃねえかア゛ァ゛!?」
急に豹変した彼の言動に呆然としていた私は渋谷くんの口にした″洗脳″という言葉を聞きハッとする。
さっき、私は島の中央に向かわなくてはと思い、実際に足を踏み出そうとしていた。渋谷くんの行動で我に帰ったが、たしかにこの状況で謎の声に従って中央に足をすすめるなんてどうかしている。
つまり、、私いま洗脳されかけていたの!?
あっ!、、だから渋谷くんはいきなり木に頭突きを?、、、いや、なんで?正気に戻る為と言うのはなんとなくわかるけど、それを頭突きで戻そうだなんてそんな無茶苦茶な、、、
そんな事を考えていると彼がこちらを向いた。
「、、、、、」
彼の顔を見た私は硬直してしまう。
思わず唾を飲み込もうとするがうまく飲み込めず「ングッ」と喉から音が鳴る。
彼は、壮絶な顔をしていた。一言で言うと、めっちゃ怖い。
今までも何度か彼の怖い顔を見た事はあるが、今回は次元が違っていた。目付きは剣呑で鷹のように鋭く、口元には獰猛な笑みを浮かべ、額から噴き出す血も相まってそれはそれは壮絶な表情になっていた。
暑くもないのに額から汗が吹き出し、寒くもないのに全身が震える。
こ、、怖いぃ。
私を一瞥した彼はそのままおもむろに、木を蹴り倒した。
再び凄まじい轟音をあげ木が倒れる。
な、、、なになに?なんなの!?私何か気に触るようなことでもしちゃった!?
「熊谷ァ!!!」
突然彼に名前を呼ばれた私は大声で返事をして自分でも驚くほど素早く気をつけの姿勢を取った。、、、というか、身体が勝手に動いた。
怖い先生や偉い人の前に立つと、自然と畏まってしまうあの感じに近い気がする。見た目が怖いからとか怒鳴り声をあげているから、、だけではない。今の彼はそうさせる何か、、覇気のようなものがあった。
そして彼に見つめられ、体温が上昇するのを感じる。鼓動は早鐘を打っているしその影響か呼吸も若干しずらい。
もしかして、、私は彼の事が好きになってしまったのだろうか?
、、、いや違う!?これ、普通に怖いだけだ!!
ここここここわ、、怖いぃぃ。誰でもいいから助けてぇ!!
瞳に涙が溜まり始めるのを感じる。なんとか涙をこぼさない様に歯を食い縛、、、あっ溢れた。
、、、高校生にもなって、普通に怖くて人前で泣いてしまった。
この島に来て、死ぬ事に恐怖を感じ、その記憶を自分しか持っていない事に言い知れない孤独感と不安を覚え、その他の事でも何度も泣きそうになったがなんとか歯を食いしばって耐えて来た。そんな鉄壁を誇った私の涙の防波堤がいとも容易く破壊され、あっさりと決壊した。
、、なんだかもうどうでも良くなってきちゃった。いっそこのまま声出して泣いてやろうかな。
「行くぞ、乗れ」
私が若干ヤケクソ気味にそんな事を考えていると目の前にしゃがみ込んだ渋谷くんがそう言う。
「え、、で、、でも、、。それに行くってまさ、、」
「乗れ」
困惑した私の言葉に被せる様に渋谷くんが再びそう口にする。
あ、、、圧が凄い。
「、、、あぃ」
渋谷くんの有無を言わさぬ圧にあっさり屈した私は羞恥心やら何やらをかなぐり捨てて素早くその背に乗り込むのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
そうして私を背負った渋谷くんが走り出して現在に至るのだが、それにしても凄まじい速度だ。
そのあまりの速度に何度も振り落とされかけた私は先程から身体が密着するのにも構わず、むしろ全力で押し付けるようにしがみついている。胸が当たっちゃってるとか、重いって思われてないかな?とかそんな乙女らしい思考をする余裕はない。気分はさながら安全バーなしのジェットコースターである。
もう必死だ。少しでも風の抵抗を減らそうと噛み付くような勢いで首筋に顔を埋めて、足も腰から前に回してガッチリ組みついている。
そのおかげで最初は私が落ちないようにしてくれていた手がフリーになったことで春樹くんの速度が更に上昇した。泣きそう。
それにしても、、、改めて凄まじい速度だ。
自分の身体能力を武器に戦う人たちがいる事は知っているし見た事もあるが、ここまでの動きは見た事がない。そう言う人達も、せいぜい常人の数倍の力とかその程度だった筈だ。でも渋谷くんのこの動きは常人の数倍どころではない気がする。
、、、一体、この人は何者なんだろう?
でも、これならもしかして、、、
先の見えない暗闇のような状況に光が差し込んだ様に感じていると渋谷くんから声が上がる。
「熊谷ァ!!!」
「ッ!?はっ、、はいぃ!!!」
思わずビクッとしながら返事すると渋谷くんが言葉を続ける。
「見えてきた!!目標ッ!訳のわからねぇ不思議生物!!!このまま突っ込むぞォァ!!!」
え?、、なに?なんだって?、、不思議生物?
何事かと首筋に埋もれていた顔を少し上げて渋谷くんの肩越しに正面を見ると、先生達がオオカミのような生き物に襲われているのが見えた。一見オオカミのように見えるが額が縦に割れ、そこにもう一つの瞳がある。
あれは、、、いや、ちょっとまって?そんな事よりいま、このまま突っ込むって言わなかった?私、まだ背負われたままだよ!?
その事実に気がつき喉からヒュッと音が鳴る。慌てて下ろしてもらおうとするが時すでに遅かった。声を上げる前に身体が一瞬沈み込み、直後全身にとてつもないGが襲いかかる。
「いっ、、いやあああああああああああああ!?」
さらに速度がはね上がったのを全身で感じつつ、私は必死にしがみつきながら悲鳴を上げることしかできないのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もう2000文字に抑えるのを諦めつつある今日この頃、、、
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