第十話 『覚醒』
第十話です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーーーーーーーーーータスケテ。
声が、聞こえた。
俺と熊谷は弾かれたようにバッと顔を上げると同時に島の中央の方に顔を向ける。
呼ばれている。
理由はわからないがとにかくそう感じた。今すぐに声のする方へ向かって歩き出したい衝動に駆られて俺と熊谷は無言で顔を見合わせる。
、、、熊谷の反応を見てなんとなく察しつつも俺は口を開いた。
「、、、熊谷、、一応聞くけど、この不思議現象に心当たりは?」
俺の問いかけに熊谷は不安そうな表情で答える。
「し、、知らない。今まで、こんな事一回もなかった。今回が初めて」
熊谷の言葉を聞いて俺は頭を抱える。
なんなんだ、本当に。この島はびっくり箱か何かか?次から次へとワケのわからねぇ謎が降って湧いて来やがる。流石にそろそろイライラして来たぞ。もうとっくの前にお腹いっぱいなんだよ。
「し、、、渋谷君?」
熊谷が怯えたような表情で呼びかけてくる。ついさっきまで不安そうではあれどそれ以外は平気そうだった熊谷が急に怯え出した事に疑問が浮かぶ、、、が、今はこんな事よりもこの謎の声だ。
状況を整理してみよう。
この声、どこかで聞いたような気もするが、、それは今はいい。頭に響くような声でどこから聞こえて来たのかはわからない。わからないが、おそらくは島の中央だ。その方向から呼ばれていると感じた。とにかく島の中央の方に行かなければならない気がする。
うん、わっかんねぇ。
いつもの事だ。そもそも、熊谷の能力?だってそういうものだと無理矢理納得しているだけなのだ。
でも、どうしてこんなにも行った方がいい気がするんだ?怪しいだろ、どう考えても。
それに、謎の声の主は「助けて」と言っていた。つまりは声の主に危険が迫っていると言う事だ。
少なくとも、熊谷と俺の記憶からまず間違いなく人を襲う生物が生息している島の中央部へ謎の助けを求める声に応えて進む?
、、ありえないだろう。
流石に、目の前で助けを求められたら手を差し伸べるくらいの事はするが「声」だけしか聞いた事のない奴を助けるために危険地帯に踏み込むほど人間出来ちゃいないぞ俺は。
そこまで考え、行かない選択を取ろうとするが後ろ髪を引かれるような思いになり決断したはずの思考が鈍る。
わかっている、、わかっているが、、やはり行くべきな気がする。
、、、なんだ?これは。
ーーーーーーーーーータスケテ。
「!!!」
俺が困惑していると再び声が聞こえた。
変わらず頭の中に直接響くような助けを求める声。島の中央の方から呼ばれていると感じるのも変わらない。
、、、やはり行った方がいい、、のか?
、、、そう、、そうだ!!俺たちに聞こえていると言う事は仁千佳達もこの声を聞いて同じ状況に陥っている可能性が高い。もし仁千佳達が声に誘われるままに島の中央に向かっていたら?
アイツらが危険だ。すぐに向かわないと!!
そこまで考えた所でブチン、、と頭の中で何かが切れる音がした。
バキャッ!!!
ーーーーーーーーーーなっ!?
「し、、、渋谷君!?」
熊谷と謎の声の驚愕に満ちた声が聞こえた。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ、、」
近くにあった木に全力で頭突きをした俺は大きく息を吐き出す。すると、目の前で俺の頭突きで凹み亀裂の入った木が轟音を立てながら倒れた。
、、、ハハ、、謎がまた一つ増えた。
何一つ面白いことなんてないのになぜか笑いが込み上げて来た俺は「クククッ」と笑いを抑えるように俯いて小さく笑う。
「し、、、渋谷、、くん?」
そんな俺を見て完全にドン引きした様子の熊谷が恐る恐ると言った様子で呼びかけてくるが俺は無視して口を開く。
「なんだァ?謎の島にループに謎の声、お次は何が飛び出すかと思えばこりゃァ洗脳かァ?この状況で島の中央に向かおうとするなんざおかしいだろ?おかしいよなァ?助けを求めといて随分な真似してくれるじゃねえかア゛ァ゛!?」
、、、、返事は、ない。
「チッ」
俺が舌打ちをしつつ熊谷に視線を向けるとビクッとした熊谷はガタガタと震えて大量の汗を流し始める。
、、、なんだァ?なんか、まるでバイト先の社員共みてえな反応しやがるな。
まぁいい。それより、先程浮かんだ考えだ。先程の俺は明らかに思考を誘導された感があった。ただ、、その誘導された思考で出した答えなのは腹立たしいが、改めて考えてみればあながち間違った選択と言うわけでもない。
事実、仁千佳達が俺たちと同じ様に声を聞いて意識を誘導され中央部に向けて移動している可能性は充分にあるだろう。急いで向かわないと危険だが、場所がわからない。別れた時と同じ場所にいる可能性もあるが、予想通りならこの謎の「声」に導かれて島の中央に向けて既に移動を始めているだろう。
当然、助けに向かう。見ず知らずのやつを助けに向かうほど人間出来ちゃいねえが、顔見知りを見捨てるほど人間やめたつもりもねぇからな。
考えをまとめた俺は無言で近くにあった木を蹴りつける。
バゴォ!!
俺の蹴りが当たった部分が紙粘土かと思うほど簡単にへし折れ再び木が轟音を立てて倒れる。
「、、、、」
明らかに、身体能力が上がっている。いや、これは身体能力が上がっているとかそう言う次元ではないだろう。そりゃあそれなりに身体は鍛えていたが、これはいくらなんでもあり得ない、鍛えてどうこうなる次元をはるかに超えている。
チラリと熊谷に視線を向けると顔を青褪めさせて更に大量の汗を噴き出している。
、、、まぁいい。
熊谷をスルーした俺は無言で自分の身体を確認する。先程の頭突きのせいで額から血が噴き出しているがそれ以外に特に異常はない。
いや、、この怪力は充分に異常なのだが、特に不都合や体調の異変は今のところ起きていないし、むしろこれから向かう先を考えれば好都合とも言える。
、、、ならば良しッ!!!
仁千佳達の問題もあるが、どの道このふざけた声の影響で島の中心に向かって移動しているはずだ。つまりは声の導くままに進めば自ずと合流できる、、可能性が高い。少なくともどこにいるかもわからない奴らをノーヒントで探し出すよりよほど楽だし可能性も感じる策だ。
なんかもう色々と面倒になってきた俺は半ば強引に結論を出すと、「とりあえずふざけた真似してくれた奴に挨拶しなきゃなァ、、」と考え行動を開始する。
「熊谷ァ!!!」
「はっ、、はいぃぃぃ!!!」
俺が名前を呼ぶと熊谷は直立不動で気をつけの姿勢を取り大声で返事を返す。相変わらず顔は青褪め額からは大量の汗が噴き出している。瞳に溢れんばかりの涙を溜め今にもこぼれ落、、、あっ溢れた。
プルプルと震えながらとうとう泣き始めてしまった熊谷だったが様々な出来事が重なり、挙句の果てには洗脳まがいの事をされた事で完全にスイッチが入り、その上怪我でなんだかハイになっていた俺はそんな熊谷を華麗にスルーすると口を開いた。
「行くぞ、乗れ」
そう言って熊谷の前にしゃがみこむ。
「え、、で、、でも、、それに、行くってまさ、、」
「乗れ」
躊躇う様子を見せる熊谷に被せる様に俺は再度声をかけた。
「、、、あぃ」
困惑していた熊谷だが俺の有無を言わさぬ雰囲気に再び顔を青褪めさせると素早く背中にしがみついて来た。それを確認した俺は島の中心へと誘う本能にも似たな奇妙な感覚に身を任せて走り出すのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
一応言っておくと主人公は二重人格ではありません。
仕事になるとスイッチが入って人が変わる人がたまにいますよね?
アレです。
最初は怯えるのみだったバイト先の店長の理不尽な暴力に抗うために生みだされた悲しきスイッチで、基本的には仕事の時だけ切り替わるのですが、何か理不尽な目にあったり許せない事があったり、、、ようするにブチギレると職場以外でもスイッチが入ります。
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