第九話 『幼馴染から見た「彼」の変化』
仁千佳視点です。
感想、ご指摘などお待ちしております。
ーーーーーどうして、今みたいになってしまったんだろう。
私、今村仁千佳は呆然とそんな事を考えていた。
いや、答えはわかってる。
アイツ、渋谷春樹はいわゆる幼馴染で小さい頃はいつも一緒にいた。何をするにも一緒で、アイツはいつも私の手を引っ張っていろんなところに連れて行ってくれた。そんなアイツのことが私は大好きで、将来当たり前に結婚するものだと思っていた。
そんな日々を過ごすうち、いつしか2人とも思春期を迎えお互いに「異性」として意識するようになり、最初は戸惑って少し距離ができたりもした。
以前より顔を合わせる機会が減り、寂しいという気持ちもあったが、それよりもアイツが明らかに私の事を「女」として意識してくれている事が何より嬉しかった。
中学に入っても、変わらず私はアイツのことが大好きで、以前より減ったとは言えお互い仲良く会話だって出来ていたし、これが大人になるって事なんだと、この先もずっと側にいてくれるとそう思っていた。
そんな時、私達が今の関係になる決定的な出来事が起こった。
ある日、偶然アイツがクラスの男子と廊下で話している姿を見かけたのだ。
よくない事だと思いつつも興味本位で聞き耳を立てていると何やら私との関係を冷やかされているようだった。恥ずかしくなって顔が赤くなるのを感じたが、それよりも周囲からも私達がいい感じの雰囲気に見られてるんだってわかって嬉しくなった。
しかしそこで、アイツは耳を疑うような台詞を口にした。
「あいつとはそんな関係じゃない。他に好きな奴もいるし正直、いつも付き纏われてうんざりしているんだよ」
頭が真っ白になった。
今まで信じていたものが一瞬で崩れ去り、足元の地面が消えたような感覚に陥りその場に座り込んでしまった。
何かの聞き間違い。必死にそう思い込もうとするが先程の言葉が耳にこびりついて離れない。
、、、そこから、どうやって家に着いたのか記憶がない。気がつくと、自室のベッドの中で枕に顔を埋めて声を上げて泣いていた。感情がぐちゃぐちゃになり、悔しいのか、悲しいのかもわからなかった。
結局一晩中泣き続けた私はしばらく学校を休んだ。
立ち直るまでにかなりの時間がかかった気もするが、、あの日から私は変わった。それからの私はアイツを徹底的に避けた。代わりにクラスの人と会話する機会が増え友達も随分増えた。
今、思い返すと他人と関わる事でなんとか忘れようと必死になっていたんだと思う。そしてそのおかげもあってか自分で言うのもなんだがクラスで人気者になってきた。
そんな私とは対照的に、アイツはどんどんと暗く、目立たない存在になっていった。そして、クラスの人気者である私が明確に嫌っていると言う事もあってか、次第にアイツはクラスのみんなから虐められ始めた。
初めは陰で悪口を言う程度だったのだが、次第にエスカレートしていった。多分男子達は陰で暴力なども振るっていたと思う。何度かどこかに連れていかれてるのを見た。
正直、ざまあみろ!とすら思った。何度か私が虐めに加担した事もある。裏切った当然の報いだと思った。
そんな日々を過ごして現在に至るのだが、、、この島に来てからアイツは変わった。
理由は、、うまく説明できないが、とにかくこの島でアイツを一目見た瞬間にそう感じたのだ。
そしてアイツは昔と変わらない様子で気軽そうに私に話しかけて来た。
ーーーふざけるな。
そう思った。私を裏切った癖に、なんでもないような態度でいる事も、何事もなかったように話しかけてくるのも全てが気に食わなかった。普段いじめてる男子達がおらず、男が自分だけだからと、女をナメて調子に乗ってるのかと思った私は当然食ってかかった。
、、、一瞬、アイツが今まで見た事のない悪鬼の様な表情になり、強烈な怒気を放ってきた事で怯んでしまった。正直、内心ちびりそうになってしまったが、その事実が悔しくて許せなくてなんとか強気な態度だけは崩さなかった。
それから、しばらくアイツのことを見ていた私は次第に、どこかおかしいと感じるようになり始めた。
最初は、口にした通り女の私たちをナメて調子に乗っているのだと思っていたがそれは違う気がする。もっと根本的な、、、うまく言葉にできないが立ち振る舞いというか纏っている雰囲気というか、、、とにかく″別人″とそう言われたら素直に信じてしまいそうなくらい人が変わっている。
、、、いや、変わったと言うよりは″昔のアイツ″に、、戻った?
なんとなくだがそれが一番適切な表現の気がする。
そんな言いようのない大きな違和感を胸に抱えていると事件が起こった。親友の盛島恵美が、アイツに下着を盗まれたと騒ぎ始めたのだ。
恵美の事は信頼している。それでも私は直感的に違うと思った。
、、、アイツは、やってない。
変わらずアイツは、、憎い。理由は自分でもわからない。確証はもちろんないがそれでも、アイツは無実だという確信めいた思いが確かにあった。
それでも、今までの事も、つい先程まで突っかかっていた事もあり私が何も言えずにいると恵美が憤怒の表情を浮かべアイツに詰め寄っていく。
私は、その後ろを黙ってついていくことしか出来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーー
そこからは怒涛の展開だった。
次々と衝撃の事実を告げたアイツは、最後に私達に忠告だけするとさっさと出て行ってしまった。
「、、、、、、」
誰も一言も発さない。みんな先程アイツが言っていたことを考えているのだろう。
実際、アイツが言っていた事は頷ける話だった。知ってしまえばなんて事はない。こんな状況になって冷静ではない部分もあったと思う。それでも、どうして今まで気付かずにいられたのだろうと自分が情けなくなってくるほど簡単な事ばかりだった。特に、荷物が全員分都合よく流れ着いていた事や壊れてないケータイ等、本当にどうして気が付かなかったのだろう。
、、、きっと、自分で思っている以上に心に余裕がなかったんだろうな。
いや、、逆にアイツはなんであんなに冷静でいられるんだろう?少なくとも、普段のアイツなら絶対にあり得ない。隅っこの方でウジウジしてるだけでなんの役にも立たなかったはずだ。
、、、まるで、、まるで本当に昔のアイツに戻ったみたいに、、
「、、、、ッ!!!」
そこまで考えた私は、ふと自分の気分が高揚し始めている事を自覚し唇を噛み締める。
なんだ、この感情は。これではまるで、喜んでるようではないか。
唇を噛んだ痛みで熱に浮かされたような気分も収まり、冷静になった頭で考える。
仮に本当に昔のアイツに戻っていたとして、だからなんだと言うのだ。今更どうなろうとアイツが私を裏切った事実は変わらない。
私が思考を切り替えているともう1人の親友、広瀬郁美が引き攣った表情である方向を指差し声を上げた。
「ね、、、ねぇ、あれ、、」
郁美が指差す方向をに視線を向けると、小さいサルの様な生き物が2匹、何かを取り合う様にしてじゃれあっていた。
ショウガラゴ?、、、とか言う種類があんな見た目だった気がする。小さくてかわいい。
だがそんな事よりも問題はサル達がその小さな手で取り合っているものだ。最初は白い布切れか何かかと思ったのだが、、、アレはどう見ても下着だろう。
「「「、、、、、、、」」」
沈黙が流れる。同時に自然と、全員の視線が恵美に向けられる。
「な、、、何よ!?あの状況じゃアイツが犯人だと思うのが当たり前でしょ!?」
恵美が動揺した様子で言い訳をする様にそう口にした。表情もバツが悪そうだ。
自分を擁護するような発言をした恵美だったが、誰も責める声は上げない。当然だろう。責めれる訳がなかった。
郁美は明らかに非難する視線をアイツに向けていたし先生も疑うような様子を見せていた。私はアイツは犯人ではないと思っていたが、、、それだけだ。結局、思ってただけで何も言えずにただ見ているだけだった。
つまりは全員恵美と同罪なのだ。全員で、無実の人間を得体の知れない島に放り出した。
全員がその事実に気が付き顔を青褪めさせるが、何も言えないでいると慌てたように先生が口を開いた。
「い、、今すぐ彼を探して謝らないと!!」
、、、謝る?
この人は何を言っているのだろうか。いや、言っている意味はわかる。悪い事をしたら謝るのが常識だし今回の件に関しては100%こちらに非がある事も理解している。でも、私たちは話を聞くことすらしようとせずアイツを、無実の人間を追い出したのだ。それが今更、一体どのツラ下げて謝れと言うのだろう。
それに、、、謝りたくない。
こちらが悪い事も、許されるどうこうでなくとにかく真摯に謝罪すべきなのも理解している。それでも、過去に裏切られた経験がアイツに頭を下げる事を良しとしてくれなかった。
私が葛藤していると恵美が声を荒げて先生に食ってかかる。
「なんで私だけ悪ものみたいな空気になってるのよ!?止めなかったのはみんなも同じでしょ?絶対に謝ったりなんかしないから!!!」
恵美が後半若干ヒステリック気味にそう叫ぶ。、、自分に非がある事は恵美も理解しているが、おそらく引き下がれなくなっているのだろう。
そんな様子の恵美に先生はゆっくり首を横に振ると優しく、諭すような口調で語りかける。
「あなただけが悪いなんて言ってないわ。私も同罪よ。渋谷くんとは、この島で初めてまともに会話した程度の関係だけど、それでも昨日一日一緒に過ごして下着泥棒なんてする様な子じゃないのはなんとなくだけどわかったわ」
先生はそこで一旦言葉を区切り、後悔する様に目を伏せてから話を続ける。
「わかってたはずなのに、疑ってしまった。話を聞いた時この場で唯一の男の子である渋谷くんを見てまさか、、と思ってしまった。そもそも教師として真実がどうあれこんな得体の知れない島に放り出すなんて絶対止めなきゃいけなかったのに何もできなかった。彼を信じきれなかった私も同罪」
先生は顔を上げて恵美と目を合わせしっかりとした口調で話を続ける。
「だから、みんなで謝りましょう。たとえ許してもらえなくても謝らなくちゃいけないの。盛島さんも間違った事をしてしまった事はわかってるんでしょう?」
先生がそういうと、恵美は弱々しく頷いた。
私はまだ謝る事への抵抗感が捨て切れずにいたが恵美はどうやら折れたらしい。
随分と簡単に折れたものだ。
いや、、私と違って、恵美にはアイツを嫌う明確な理由などないはずだ。せいぜい、「みんなが嫌ってるから嫌い」程度の理由だろう。あれだけ怒ってた割に案外すぐ折れたのも仕方がないのかも知れない。
、、、最低だな、、私。今回とは無関係の過去話を持ち出して意地になり、今だってあっさり折れた恵美を裏切られたような気持ちになり、それを責めるような思考になっている。これではまるで駄々をこねる子供ではないか。
自重気味にそんな事を考えていると先生が何か言おうとして全員を見渡して、固まった。
なんだろう?と思っていると先生が顔面蒼白で口を開く。
「、、、熊谷さんは、、、どこ?」
ハッとして周囲を見渡す。確かに、熊谷さんの姿がどこにもない。会話には参加してこなかったが、少なくとも会話を始めた段階では少し離れた位置に確かにいたはずだ。
いったい一人でどこに、、、?
「、、、まさか、アイツについて行った?」
私が浮かんだ疑問をそのまま口にすると、胸の奥がチクリと痛むような違和感を覚えた。
その事を疑問に感じて首傾げたその時。
ーーーーーーーーーータスケテ。
声が、聞こえた。
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