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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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許し(2)

 ルナとユーゴが無事に国王との謁見を終え、また、神殿側からの許しを得たことをダフネとガスパールは喜んでくれた。

ルナはすぐにでも東の辺境領の城へ戻り、マージやノア、ジョセフたちを安心させたかったが、王都を出る前に中央神殿へ参じるよう、ルナとユーゴに通達があった。


神殿からの通達を持ってきたのは、ガスパールだった。

「言づてがあって、ダフネも必ず一緒に連れてこいとのことなんだ。」

ガスパールがダフネに言うと、

「え!? 私、何で??」とダフネが素っ頓狂な声を上げた。


 神殿を離れてだいぶ経つダフネに、今更何の用事があるのだろうか、といぶかしく思いながら一行は、ガスパールと共に神殿へと向かった。

すると一行は神殿の最奥部に案内された。


ルナでさえも足を踏み入れたことのない最奥部の一角にある部屋では、首席聖女が待っていた。


「首席聖女様にご挨拶申し上げます。」

ルナが代表して挨拶の言葉を言い、それに合わせてユーゴ、ガスパール、ダフネが深く礼をした。


含み笑いの音が微かに聞こえたかと思うと、

「畏まるのは、もう終わりでいいわ。」と、さらりと首席聖女が言った。


ルナは頭を上げ微笑んでいる首席聖女を見ると、改めて〝このお方はこのようなお顔をしていたんだ。〟と思い、見とれてしまった。

今までは、定例の接見や重要な式典でしか顔を見たことがなかったのだが、いつも無表情で仙女のように人間離れした雰囲気を漂わせていたからだった。

それが、王宮内でも今も、生き生きとした表情を浮かべ、人間らしい存在感を持っていた。


「来てくれてありがとう。初めに言っておきます。今日は、やはり罰を与えることにしたとか、そのようなことではありませんので、心配しないように。」

首席聖女の言葉にルナとダフネはそっと胸を撫でおろした。

「それでは、首席聖女様、本日はなぜ私どもを?」

ルナが聞くと、首席聖女は笑みをまた深めた。


「それは、あなた方に今後は私が力になりたいと、伝えるためです。」


「あの、それはなぜですか?」

ルナは率直に疑問をぶつけた。


「そうよね、今まで何の関係もなかったのに、不思議な話よね?」

「はい……。」


「実は、あなた方の聖養母から、あなた方を託されたのです。」

「聖養母様ですか?」


「聖養母サーラと私は、同じ聖養母の元で育ちました。つまりあなた方と同じ、姉妹のような大切な幼馴染です。サーラは、あなたが神殿を出た直後に病で亡くなりました。」


四人が息をのんだ。


「そんな……。」

聖養母はルナが聖女に叙任された後、職を辞し地元に戻ったと聞いていた。外に出た聖養母とは個人的なやり取りをすることは許されていなかったが、同じ空の下、どこかに聖養母がいる、ということがルナの心の支えになっていた。


「死の直前、つてを頼って私に便りを出してくれました。あなた方のことを頼むと、それぞれが才能にあふれた子たちだったから、それ故に重い荷をおうこともあるだろうから、と。」


「聖養母様が……。」胸が熱くなり、ルナは絶句した。


首席聖女は昔を懐かしむような遠い目をしながら続けた。

「今まで私は大切な人を失ってから、世捨て人のようになっていたのですが、サーラの手紙でまた生き直そうと思いました。

そう思って、あなた方のことを探してみたら、まあ大変なことになっているから、とても驚きました。」


「申し訳ございません。」と、ユーゴが誤った。


「まあ、でもそれほど心配はしていませんでしたが。」

首席聖女はまた、微笑んだ。


「あの、首席聖女様よろしいでしょうか? 大切な人を失って世捨て人のようになった、というのはどういうことなのでしょうか?」

と、ガスパールが聞いた。

ガスパールも今までの表情のない首席聖女の印象が強かっただけに、その点に興味があった。神殿内でそこまで大切な人がいたのかということも気になった。


「ああ、そこが気になるのですね。よろしいでしょう。聖女ルナにも聞いてもらいたいのでお話ししましょう。

私は、出戻りの聖女なのです。」


「出戻り、ですか?」

ガスパールはすぐには意味が分からず反芻した。


「私は、聖女に叙任された7年後、公爵家の男性に見初められ、婚姻をして神殿を出たのです。

お子を授かることはできませんでしたが、夫を愛していました。そして数年後、夫は外国への視察旅行中に事故で亡くなりました。

私は視察旅行についていかなかったことを、激しく後悔しました。もし一緒にいれば助けられたかもしれないのに、と。」


予想だにしていなかった首席聖女の話に、若い四人は聞き入ることしかできなかった。


「夫の死後、屍のようになっていた私を、神官長は神殿に呼び戻してくれました。しかし、私は生きること自体がどうでもよくなっていたという訳なのです。サーラが、私にまた生きる意味を与えてくれるまでは……。


私は、ルナには伝えておきたかったのです。一つは、婚姻をしても聖なる力は弱まることはないということ。もう一つは、愛し愛されている相手とはいえ、人間である以上、予期せぬ死という別れが訪れることがある、ということ。」


首席聖女はルナとユーゴの手を片手ずつ優しく握った。

「ルナ、ユーゴ、神様に許されて、力をいただいていることを忘れないで。

神様に許されて二人で一緒にいられることをどうか忘れないで。

二人に幸多からんことを……。」

首席聖女の手を通して、ルナとユーゴに温かいエネルギーが流れ込んだ。


「ありがとうございます。」とユーゴは深い感謝の思いを込めて言った。

ルナは言葉を紡ぐことができず、ただ深く頭を下げた。



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