許し(1)
「神官長、首席聖女殿もすまなかった。もうよいぞ。」
国王が部屋の奥へ声をかけると、今まで誰もいないように見えた空間に急に二人の姿が見えるようになった。
「やれやれ、結界の術なんぞ、久方ぶりにかけたぞ。」
と白銀の長い髭を揺らしながら神官長が言った。
「聖剣が放つ光はなんて美しいのでしょう、眼福でしたわ。」
首席聖女が微笑みながら言った。
ルナは自分が使える防音だけの結界とは明らかに質の違う結界の術の様子に驚き、今まで人間らしい表情を浮かべたことがない首席聖女が微笑んだことにも、また驚いた。
「絆で結ばれた人と共にいる聖剣の騎士は無敵であることを、おわかりいただけましたかな?」
と神官長は国王に聞いた。
国王は高らかに笑い声を上げた。
「ああ、戦いが成立しなくなってしまうのだからな。正に無敵だな。」
「と、いうことで、結論から言えば、騎士ユーゴの望み通りにすることが最善の策でしょうな。」
神官長がたたみかけるように国王に進言した。
「そうだな。それでは、聖剣の騎士ユーゴ、そなたは何を望むのだ?」
国王がユーゴに聞いた。
ユーゴはこの場に来るまでに何度も問われた問を今一度反芻した。
そしてルナの方に向き直り、ルナの瞳を覗き込んだ。
ルナはユーゴを見つめ返し、目を細め微笑みながら頷いた。
「自由を。ルナと共に自由であることを望みます。まずはルナと共に様々な国や土地を旅したいと考えております。
しかしながら、この身はどこにありましても、平和を望み戦いを収めます。民のよかれと思うことを成します。
そうすることが陛下のご治世のためになることを私は信じております。」
ユーゴが国王に向かってはっきりと言った。
「なるほど、私が平和を望む限りは、私の力になる、ということだな。」
国王がニヤリと笑った。
「陛下におかれましては、何も問題はありますまい。」
と、神官長が朗らかに言った。
「そうですな。ご家庭内での平和も大切になさり、三十年にもわたり王妃様ただお一人を大切になさっていらっしゃる方ですからな。」
と、バシルも国王の顔をいたずらっぽく見ながら言った。
国王はわざとらしく咳払いをした後、ユーゴに言った。
「ただ、私はそなたに我が国の特別王宮騎士の称号と視察のための資金を与えよう。これはそなたらの益となるはずじゃ、よいな?」
ユーゴは神官長とバシルの顔を見た。二人とも軽く頷いてくれた。
「ありがたくお受けいたします。」
ユーゴは恭しく国王に礼をした。
そして顔を上げた後、神官長と首席聖女に向け言った。
「御前ではございますが、今一つ。神官長様、首席聖女様、私とルナが神殿を勝手に抜け出したことをお許しいただけますでしょうか?」
「今更なこと。許す。」
神官長が言った。
「申し訳ございません。もう一つございます。これからもルナと共にあることを、ルナと婚姻することをお許しいただけますでしょうか?」
神官長は静かに言った。
「許す。そなたらに幸多からんことを……。」
首席聖女も静かに微笑みながら、頷いた。
ユーゴとルナは、どちらかともなく手を取り合い、微笑みあった。
それは、二人の逃亡がついに終わりを告げた瞬間だった。




