帰還(2)
ユーゴはルナの方へ振り向き、口を開いた。
「ルナ…、出陣する前に〝ずっと一緒にいる〟と言ってくれたが…。」
ユーゴはそう言ったきり、ルナを愛おし気に見つめたまま押し黙ってしまった。
「ええ、そうね。覚えているわ…。」
初めて遠乗りに出かけてお互いの気持ちを確かめ合った日から、本当にいろいろなことがあったので、ルナにとっては遠い日のできごとに思われた…。
「その…、君の気持ちは変わらないだろうか…?」
ユーゴの言葉に、ルナがユーゴを碧い瞳で見つめ、頷いた。
「嫌だわ、ユーゴ。今更だわ。変わるわけなんてない。」
ルナは心外だと言わんばかりに、頬を少し膨らませた。
「よかった…。これから城に帰ったら、また俺たちの立場が変わってきそうだからな…。」
「そうね。ユーゴは伝説の騎士様ですものね?」
「いや、君も戦場で大きな力を発揮してしまったからな…。」
「え!? でもあれは、聖剣の力とユーゴがいてこその……。」
「ルナはそう言うが、周囲からの見え方は、偉大なる聖女様そのものだった…。」
「えー!?」
とルナは言った。
〝なるほど、ローガンが言ったように、自分のことは自分で見えないからな。〟とユーゴは思った。
とにかく、何があってもルナを守りたい、という思いはユーゴの中ではダイヤモンドの結晶のようにいつだって胸の中にあった。
「ルナ…。」ユーゴはルナの前にひざまずき、ルナの両手を取った。
「私と結婚していただけませんか? 生涯をかけて貴女を守るという誓いを私に立てさせてください。」
ルナを真っすぐに見上げるユーゴの新緑の色の瞳は澄んでいた。
「はい。」
滲み出てくる涙を抑えながら、ルナは答えた。
ユーゴの顔が輝き、立ち上がってルナを抱き上げ、喜びのあまりその場で回ろうとした。
しかし、狭い庭でルナのドレスの裾が庭木の枝に引っかかるかもしれないと、止めた。
「ごめん…、ルナ、求婚の場所を選ぶべきだったな…。」
狭い庭を見渡し、ユーゴが少し、しょんぼりとした顔をして言うのを聞き、ルナの胸にまた愛おしさが溢れた。
ルナは背伸びをしてユーゴにキスをした…。
その日の城までのパレードは東の辺境領で後々までの語り草となった。
ユーゴの愛馬とルナの愛馬シルフィは花々で飾られた。それぞれの馬に白い騎士服とマントを身につけたユーゴは凛々しく跨り、白い優美なドレスを身につけたルナは横乗りになり進んでいった。ユーゴとルナの前後にも騎士団の見目の良い青年たちが正装で騎乗し隊列を組んでおり、華やかな雰囲気を添えていた。
沿道に集まった人々からは、「聖剣の騎士様~!」「聖女様~!」
「ばんざ~い!」「ありがとう~!!」などとたくさんの歓声が降ってきた。
ユーゴは沿道からの歓声に手を振って応えた。
ルナは慣れない横乗りのために、あまり手を振ることはできなかったが、笑顔で歓声に応えた。パレードの列の後方からその様子を眺めていたローガンは満足そうに微笑んでいた。
城では、総出でユーゴとルナの帰還を出迎えてくれた。
ユーゴとルナが馬から降りると、辺境伯バシルが朗々とした声で言った。
「聖剣の騎士ユーゴ、聖女ルナ、此度の働き誠にご苦労であった。」
ユーゴとルナは軽く膝を折り、左胸に手をあてて頭を下げ、神殿方式の礼をした。
しかし、すぐにバシルはユーゴに近づき、ユーゴを立たせて、がしっと抱きしめた。
「よく、無事で帰ってきてくれた。ユーゴ。」
そして、ユーゴを抱擁した後、バシルはルナの方に向き
「ありがとう、ルナさん、ユーゴを助けてくれて。感謝に堪えない…。」と言った。
その直後にルナとユーゴは大きくはない腕にいっぺんに抱きつかれた。
ノアだった。「ルナ姉さま!ユーゴ叔父上…!」
ノアは泣いているのか、そのまま顔を伏せ絶句したまま二人に抱きついていた。




