戦場の河原(1)
ユーゴはルナを抱きとめ、そのまま言葉なく抱きしめた。
そして、身体を離してから「時間がない。馬に乗っていれば大丈夫だから。」
と言い一気に自分の馬へ歩み寄り騎乗した。
「できるだけここから離れて。会えてうれしかった。」
とユーゴは言った。ルナを見つめた刹那、ユーゴの瞳から愛しさと優しさが溢れ出た。
そして、すぐに表情を引き締め、「準備ができたものからいくぞ!」
と大声で言ってから、馬首を返し、あっと言う間に駆けだして行った。
ユーゴの少し前には、ここに来るまでにルナの後ろについてくれていたジイドが駆けていて、ユーゴの先導をしてくれるようだった。
ユーゴの後を追い、次々と陣にいた騎士たちも駆け出していった。
土埃の中しばし、ぼおっと立ちつくしていたルナだったが、
「ルナ様!」
と自分に呼びかけるトムの声で我に返った。
「ルナ様、どうされますか?城に戻りますか?」
「もちろん…、追いかけます。」
ルナの返事にトムは、ニカっと笑った。
「そう言われると思いました。」
「トム、ありがとう。」
ルナはそう言い、また気合を入れ直し、シルフィの上にまたがった。
「シルフィ、もうひと頑張り、よろしくね。」
と愛馬に話しかけ、首を軽く撫でると、シルフィはまた首を軽く振りルナに答えた。
「行きましょう。」
ルナがトムに声をかけると、トムはまたルナを先導するべく、先に駆けだした。
林道を戻っていくと、木立の間から、対岸の馬のいななきや大勢の足音、盾や鎧がこすれる音などが響いてきた。
ユーゴたちが通った跡なのか、林道から河原へ向かう更に細い道を進んでいくと、対岸の音がだんだん大きく聞こえるようなっていった。
河原に出る少し前で、トムは馬を止め馬から降りた。そしてルナにも馬から降りるよう言った。
「さすがにルナ様はここまでです。敵が来そうになったら一目散に逃げます。抱きかかえてでも逃げますので、そのおつもりで。」
幸いにもルナたちがいる場所は河原から段になり高くなっていて、対岸からは見えにくくなっていた。
トムにはだいぶ無理なことを聞いてもらっている、という自覚はルナにもあった。
だから今はトムの言葉に従う他はなかった。
ルナたちの後ろから、弓矢と盾を携えた兵士たちが20人ほど駆け足で追いついてきていた。
そして河原に出ている騎士たちの所へ駆けていき対岸へ向け弓と盾を構えた。
しかし、まだ距離があるために互いに弓を射ることはせず、睨みあっていた。
対岸には見えているだけでも、ユーゴの隊の5倍以上の敵兵の姿があった。
〝やっぱり、こちらが本隊だったのね…。〟
できればここで渡河を阻止したいが、現時点の数においては圧倒的に不利だった。
〝早く街道からの本隊が到着するといいのだけれど…〟
ルナは必死で思いを巡らせたが、本隊の行軍速度などルナにはわかるはずもなかった。
そして、均衡はすぐに破られた。
敵側から太鼓の音が聞こえ、「おおー!!」という大きな掛け声が敵兵から上がった。
盾を前と上に構えた兵士たち10人ほどが一列になって川のせせらぎに足を踏み入れ始めた。




