夜明け前(2)
ルナは必死になり、ジョセフが言っていた地形の特徴と目の前の地図を照らしあわせた。
「おそらく…、ここです。」
ルナが指をさしたのは、ユーゴが陣を構えている場所より少し本隊側、川が辺境領側に蛇行している場所だった。
「よし、それではこの本隊の三分の二をそこへ回そう。人数が多くなるから街道から周り込む。
トム!お前は、川沿いの林道を通って、いち早くユーゴにこのことを伝えろ!道は細いがうまくいけばそちらの方が速い!」
ローガンは、ルナの傍に控えていたトムに指示を出した。
「はっ!」
トムは直立不動で敬礼をし、答えた。
「私もトムと一緒に行ってもよいですか?」
ルナはローガンに聞いた。
ローガンはトムに無言で目で確認をした。ルナの現在の乗馬の技術がどの程度のものか、ローガンは知らなかった。トムは無言で頷いた。
「いいだろう。申し訳ないが、今はルナさんの帰還のために護衛に割く人数も正直惜しい。」
ローガンもギリギリの判断を迫られていることが、ルナに伝わってきた。
「トムさん、必ずついていきますから。」
「はい。」
ルナの言葉にトムは短く答えた。
トムとルナはすぐに自分の馬に乗り、林道の中を駆け出した。
トムの指示で城からの護衛の一人、グイドもルナの後ろにつき駆け出した。
今までいた本隊でも各々が必死で陣を出る準備に入っており、ルナたちを見送るものは誰もいなかった。
少しずつ明るくなってきた林の中、狭い林道をトムを先頭にしてルナたちは駆けて行った。
トムが騎乗のまま片手でときおり、突き出ている小枝を剣で払ってくれるが、それでもルナの肩や腕、顔は、接触する枝や葉でどんどん切り傷ができていった。
自分だけではなく、愛馬のシルフィにも走っているうちに切り傷が増えているだろうと予測できた。
「ごめんね、シルフィ。ありがとう。」
ルナは必死にトムを追いかけながらも、シルフィに話しかけた。
シルフィがルナの声に応えるかのように、頭を軽く振った。
木立の隙間から見えるホール川の川面が朝日に照らされて輝いてきたころ、突如として水鳥が一斉に羽ばたく音が対岸の方角から聞こえた。
〝敵軍が来ている…!?〟
ルナは直感的にそう思い、鳥肌が立った。
ルナは、馬上から対岸の方へ目を凝らしたが、木々が邪魔になり敵軍の姿は確認できなかった。
ほどなくして、ルナたちはユーゴの陣に辿りついた。
ユーゴは日が出たばかりだというのに、テントの外に出ていた。
必死でトムについていたルナは疲労してしまい、やっとの思いでシルフィから降りた。
ユーゴはルナとトムの姿を見て、驚いた様子で近づいてきた。
しかし、右足を引きずっていて、そのスピードは速くはなかった。
トムがユーゴの前に駆け寄り、干ばつで浅瀬になっている、ここから近い場所から敵が河を渡ってくるであろうこと、今街道から本隊がこちらへ向かってきていることを告げた。
「ユーゴ様、ここへ来る途中、対岸から水鳥が一斉に羽ばたく大きな音が聞こえました。おそらく敵軍に驚いた水鳥たちが立てた音でしょう。もう時間がありません。」
トムが緊迫した面持ちで言った。
「わかった。」ユーゴは大きく頷き、声を張り上げ号令をかけた。
「皆、出陣だ!敵の渡河を阻止するぞ、急げ!」
ユーゴの従騎士と思われる青年が、馬を引いてきた。
「ユーゴ怪我の治療を!」
ルナがユーゴの元へ駆け寄った。




