夜明け前(1)
「敵側もこちらが待ち構えてはいるが、街道が通っていて辺境領に深く入り込もうとするには便利だからな、やはり橋の攻略を狙ってくると考えている…。」
ルナはジョセフに教えてもらった辺境領の地理を頭に思い描いていた。こうしてローガンの話を聞いて理解できるのも、ジョセフの治療のための口実ではあったが勉強したおかげだった。
「そういえば、下流の方にも橋がありましたか?」
ルナが思い出してローガンに聞いた。
「よく、知っているな。その橋は小さなもので木製だったから、すでに火をかけて落とした。
ユーゴがいるのは、その橋があった場所を見下ろせる小さな丘だ。
そこからは細い道から街道に合流できるから、万が一ここが突破されたときには、敵を側面から攻撃することもできるのでな…。
」
〝軍の人間ではない自分に、このような戦略の話をしていいのだろうか?〟
とルナはふと疑問に思った。
「軍属ではない者に、こんな話をしていいのか?とでも思いましたか?」
ローガンはルナの表情を読んだのか、ルナに聞いてきた。
「はい…。」
「はははっ…。貴女はもう辺境伯家の一員だからね。そして、俺の勘が貴女には話しておいた方がよいと告げている。この勘というやつも、時には馬鹿にならないものでね…。
頼むルナさん、ユーゴのやつは、どれだけ怪我の手当で城に戻れといっても聞き入れなくてな。ちゃちゃっと直してあげてくれ。そして直ぐに貴女は城に戻ること。」
「ちゃちゃっと…?」
「そうだ。」ローガンは真面目な顔をして頷いた後、からっと笑った。
ローガンの陣に到着したのは夕方であったため、ルナはその夜は陣のテントを一つ借り、休ませてもらうことにした。
〝もうすぐ貴方の元へ行くわ…、ユーゴ…。〟
ユーゴの怪我のことが気になり、まんじりともしないうちに夜明けが近づいてきた頃、テントの外がにわかに緊迫した声や音がルナの耳に飛び込んできた。
ルナがテントの外に出ると、ローガンが騎士や兵士たちに次々と指示を出していた。
「騎士団長!」
ルナがローガンの元へ駆け寄った。
「ルナさん、夜明け前だが、ユーゴのところへ出発してくれるか?
橋の向こう側に敵が終結してきた。」
ローガンが木立の向こうの川の対岸の方を指さした。ルナが、ローガンが指さした方向を見ると、橋のたもとの辺りを中心にして、数多くの松明の炎の明かりが揺らめいていた。そして敵兵の鳴らす太鼓の音や地面を踏み鳴らす音なども、風に乗って響いてきていた。
「あの…、騎士団長。隣国のイースターは、いつも出撃準備のときはこんな風に太鼓を鳴らすのですか?」
ルナは思いきって、ふと不自然に思ったことを聞いてみた。
「そうだな。士気を鼓舞するために鳴らしているようだが、今日はいつもよりだいぶ多く鳴らしている感じがあるな…。」
「こんなまだ暗い時間に。不意打ちを狙うなら、もっと音は控えるはずですよね…?」
「確かにそうだな。こちらはおとりの可能性があるのか…?」
「騎士団長、本当に川を渡れる浅瀬のポイントは他にないのですか?」
「ない…はずだ。」
そこで、ルナはジョセフが教えてくれたことを思い出した。それは、大干ばつのときに現れるホール川の現象だった。
「待ってください、大干ばつのときにはホール川にはとても浅くなる場所があると聞いたことがあります。」
「今年は、わが国はさほどではなかったが、敵側は干ばつだったか!?」
「ええ、大干ばつまではいかなくても、馬が通れるような深さの場所が出現する可能性はあります。」
「ルナさん、その場所はどのあたりかわかるか?」
ローガンは素早くルナの前に地図を広げた。




