戦場へ
「神官長というのは、なかなか話が通じる人物のようだな。いつもあのような感じなのか?」
バシルがルナに聞いてきた。
「〝いつも〟と聞かれましても、神官長様とはめったにお話する機会はないのでわかりません…。」
ルナは水晶玉をバシルに慎重に手渡しながら答えた。
「そうか…。」
バシルは水晶玉を箱に収めながら、考え込む表情をした。
そして、またルナに聞いた。
「ルナさん、ユーゴの元へ行ってくれるのか?」
「はい。」
ルナは、はっきりと答えた。
「ユーゴは、辺境軍にとって大切な人間だ。そして、もちろん私の大切な息子だ。ルナさん…、頼む。
護衛に割ける人数は少ないが、なるべくよい人材をつけよう。」
「ありがとうございます。では、明日朝出立いたします。」
ルナはバシルに一礼し、退室しようとした。
すると、バシルは机のむこうからルナの方へ近づき、「失礼…」と言い、右手でルナの頭を撫でた。
ルナは突然のバシルの行動に驚いた。けれど、繰り返しルナの頭を撫でるバシルの手は優しく温かかった。
「ルナさん、我が家のために、民のためによく頑張ってくれているね…。君も我々の大切な家族の一員だ。どうか気をつけて…。」
バシルの言葉に、ルナの視界が涙で滲んだ。
ユーゴを助けにルナが戦場へ出ると聞き、マージは猛反対した。
「ルナ様は、今日もお倒れになったばかりなのに!? 無茶です!!」
「大丈夫よ、マージ。」
「ルナ様はいつも〝大丈夫〟としか、おっしゃらない!」
必死な顔でマージはルナに詰め寄った。
「マージ、いつもありがとう。またここに帰ってこられるように祈っていて…。」
ルナはマージに手伝ってもらい、自分の銀色の髪の毛を以前のように茶色の染粉で染めた。
肩を超えた髪の毛も切ってもらおうとしたが、マージがきっとユーゴが悲しがるからと、許してはくれなかった。
翌朝、少年兵用の軍服を身につけ、ルナは愛馬のシルフィに騎乗した。護衛となったトムと他の2人と城の城壁の大門を出た。城壁の上の方を振り仰ぐと、ダフネ、ジョセフ、ノア、マージ、ロイの皆が見送りに出てきてくれていた。
「ルナ姉さま~~!無事のお戻りを~!」
ノアが声の限りに叫び、手を振っていた。
ルナはその声に答え、手を振った。トムも自分の家族と視線を交わしているようだった。
そして、「参りましょう。」とルナは言い、駆け出した。
城壁の上のダフネは、ルナたちが見えなくなるまで見送り、つぶやいた。
「馬で駆ける聖女様は、歴史上初めてかもしれないわね…。」
そして「戦いが早く終わりますように。皆が大事な人のもとへ帰ってこられますように…。」と祈った。
トムは、別動隊となっているユーゴの居場所は自分にはわからないので、と、まずは本隊である騎士団長のローガンの元へルナを案内してくれた。
ありがたいことに、ローガンはルナに余計なことは聞かず、ユーゴの部隊の居場所を教えてくれた。
「正直、ルナ様にユーゴの傷を治してもらえるとありがたい。ただできるだけ急いでくれ、ぼちぼち敵の攻撃が本格化しそうなんだ。」
「敵が、一気にホール川を渡ってこようとしているのですか?」
東の辺境領と隣国の間に流れているのがホール川で、今、ローガンが陣をしいているのはホール川にかかる橋のそばの林で、昔からの街道が通っている場所だった。
「ああ、本来なら橋なぞ、すぐにでも破壊したいところなんだが、昔からある石造りの橋で一気に壊せないのさ。壊そうとすると、すぐに矢を射かけてくる。」




