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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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言づて(1)

ガスパールがルナの元へ駆け寄ろうとしたが、ダフネがそれを制し言った。

「ガスパール、この人を重症者用の部屋へ運ぶから手伝って!

ロイ!マージを呼んできて! ルナ、すぐに戻ってくるから休んでいて頂戴!」


ルナは倒れそうになる身体を両手で支えながら、うつむいて座ったままの恰好で頷いた。

ガスパールはしぶしぶ、ダフネの言葉に従い、戸板を他の男たちと共に持ち上げ移動を始めた。ロイはマージを探しにホールを飛び出していった。


「ルナ姉さま、大丈夫ですか? 横になりますか?」

ノアがルナの顔を覗き込んでいると、ホールの中にいた他の負傷者たちが興奮しながら話し始めたのが聞こえてきた。


「おい!? さっき光ってから急にジッドってやつが回復したよな??」

「ああ、俺も見た。」

「ひょっとして、聖女様の御業ってやつか?」

「きっとそうだ。あの人、聖女様だったのか?!」

「なんで、聖女様がこんなところにいるんだ!?」


「聖女様なら、俺の怪我も直してくれるかな?」

「自分にも、光が欲しい…。」


と、口々に言いながら、負傷者たちが、ルナとノアの周りに集まってきていた。

「聖女様…。」

「聖女様、お助けください…。」


ルナは負傷者たちが、自分の方へ近づいてくるのを、ぼんやり見つめていた。


「皆、控えるがいい!」

迫ってくる男たちに向かって、ルナを背にかばうようにノアが立ち大きな声で言った。


「この方も薬師様方も、最善をつくしてくれている。なのに、更に多くを望むのか!?

他者に望むより、自分は何ができるのか、考えてくれないか!?

それが皆で戦うことであろう!?」


それは、年恰好は青少年でも、まぎれもなく人を率いる力をもつ力強い言葉だった。


ルナに迫っていた負傷者たちは、ノアの言葉に息をのみ、視線を落とした。

騒ぎを聞きつけて、ホールに駆けつけてきた辺境伯バシルと、ジョセフもノアの言葉を聞いた。


そして、バシルはホールに響き渡る声で重々しく言った。

「我が孫、ノアの言う通りだ。皆、力を合わせてこの戦いを乗り切ろう。

また、このルナ嬢は聖女でもあるが、我が息子ユーゴの婚約者でもある。二重の意味で大切に遇するように。」


「ユーゴ様!? ユーゴ様の婚約者だって?」

「聖女様が婚約者様??」

細かいことは聞かされていなかった兵士たちは、更に驚いた。


そして、

「私は、戦場でユーゴ様に命を救われました!」

「俺はユーゴ様に教えていただいた剣術がなければ、死んでいました。」

「御恩は忘れません。」

と、ルナやバシルに向け、何人もが口にした。


そのような中、ロイに呼ばれてきたマージと、急いでホールに戻ってきたダフネ、ノアと共にルナはゆっくりとホールを出て行った。


バシルとジョセフは、治療院を見て回り、兵士たちに声をかけていった。

すぐにジョセフは、自分たちをじっと見ている旅姿の男に気がついた。


今はバシルの護衛についているトムもその男に気がつき、警戒し、バシルと男の間に入り、剣の束に手をかけた。


その旅姿の男ガスパールは、静かにゆっくりとバシルに近づき跪いた。

そして、左胸に手を当て神殿での礼をした。

「辺境伯バシル・ルーセル殿、神官長より言づてを預かって参りました。どうかお時間を賜りたく…。」

ガスパールが恭しく言った。


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