祖父と孫
すっかり体調が良くなった様子のジョセフを見て、父親のバシルは驚いた。
それは、何年も見なかった息子の生気に満ちた姿だった。
しかし、またすぐに具合が悪くなるかもしれない…と期待はしないように、バシルは自分を戒めていた。けれども、1週間経っても2週間経っても、ジョセフの調子は良いままだった。それどころか、次第に体力や筋力も戻ってきているようで、積極的に元の領主補佐の仕事に取り組み、日に日にジョセフの仕事量も増えていた。
新しくやって来た、ユーゴの幼馴染みの薬師ダフネの治療が奏効したようだ、と、お抱え薬師や執事から報告をバシルは受けてはいた。
しかし、薬だけでは、ここまでの変化はないだろう…思わせるくらい、ジョセフは生き生きと職務に励んでいた。
〝自分は今までジョセフの何を見てきたのだろうか? 何が彼を変えたのだろうか?〟と、バシルが考えていると、ある日執事が進言してきた。
「旦那様、一度、ご子息様方とノア様の朝食の場にいらっしゃいませんか?
ノア様にはしばらくお会いになられてはいないのでは…?」と。
そう言えば、自分を除く家族が朝食の場で交流しているという話は以前から耳に入ってはいた。ノアがユーゴから武術を習っているという報告も受けていた。
しかし、バシルのイメージの中には、引きこもりがちの暗い目をした孫ノアと、病で生きる気力をなくしてしまったかのような息子ジョセフしかいなかった。だから自分がそこへ顔を出すことなど思ってもいなかった。
しかし、自分が想像していたのとは違っていたのかもしれない…とバシルは思い、朝食の場に参加してみることとした。
「それでは、ぜひ皆さまには予告をせず、サプライズとしていらしゃってください。その方が皆さま方の普段のご様子がお分かりになることでしょう。」
と、執事は少し口の端を上げ楽しそうな様子で言った。
そして、次の日の朝、バシルは執事に先導され、食堂へ向かった。
バシルが食堂の扉へ着く前から、中からは楽しそうに会話をする声が響いてきた。ノアらしい少年の声、ユーゴのよく響く低い声、ジョセフや女性の笑い声などが聞こえてきた。
扉のドアの前に着いた執事がバシルを振り返り、ニコリと微笑んだ。
そしてノックをして、ドアの中に声をかけた。
「旦那様がお見えでございます。」
ノアは話しに夢中になり、気がつかなかったが、ドアの内側の従僕と、ユーゴ、ジョセフはすぐに気がついた。
「お父さん?!」「父上?!」と口にして、席を立った。
席についていたダフネ、ルナ、ノアもすぐそれにならった。
そして、扉が開かれ、バシルが入ってくると、ノアはバシルの元へ駆け寄った。
「おじい様! おはようございます! お会いできてうれしいです。」
ノアはうれしそうに顔を綻ばせながら、元気な声で言った。
執事は、テーブルの中央にバシルの席を用意するように、従僕へ目配せをした。
「ノアか?! 背がだいぶ伸びたのではないか?」
バシルの言葉に、ノアは更に笑顔になった。
「はい、ユーゴ叔父上のお陰です。鍛錬は楽しいです。」
「おやおや? 勉強は楽しくはないのかな?」
ジョセフが笑顔で二人に近づき、ノアに聞いた。
「えーっと、勉強もまあまあ楽しいです。ジョセフ叔父上がわかりやすく教えてくださって理解できたときは、特に楽しいです!」
ノアが真面目な顔をして答えた。
「まあ、よろしいでしょう。ノア、おじい様をお席へ。」
「おじい様、失礼しました。どうぞ、こちらへ。」
ノアが小さな紳士のように、バシルを席へ誘導しようとした。
その様子が微笑ましく、バシルは思わず少し乱暴にノアの頭をなでて言った。
「そんなに畏まらなくていい。私は君の〝じいじ〟だからな。」
それは、ノアが幼い時に祖父であるバシルを呼んだ呼び方であった。
「おじい様…」
祖父と孫は4年ぶりに微笑みあった。




