ジョセフの決断
そして、四人それぞれが考えこむ、沈黙の時間が流れた後、ジョセフが静かな口調で言った。
「ありがとう、みんな。現時点では、ここまでの検討で十分だ。」
「兄さん!? あきらめてしまうのですか?」
ユーゴが反射的に聞いた。
けれど、穏やかな表情をしているが、強い意志をたたえたようなジョセフの瞳を見て、ダフネは言った。
「ユーゴ、違うわ。ジョセフはもう諦めたりなんかしないわ。」
「……、そうだ、ダフネ。」
ジョセフはダフネを見て、しっかりと頷き、そして続けた。
「ルナさん、お願いがある。私を貴女の力で治して欲しい。」
「え!?」
ルナは突然のジョセフの申し出に驚いた。
「もちろん、対外的な面もあるから、内密に、ということになるが。
ダフネ、構わないだろうか?」
ジョセフは、やはり静かな口調で言った。
「兄さん、どういう心境の変化なんですか?」
ユーゴが率直にジョセフに聞いた。
「欲が出てきたんだ。もっと生きたい、と。もっと皆のために働きたい、と。
ダフネの力量を疑っているわけではない。けれど、薬の検討と治療には時間がかかるものだ。その時間が惜しくなってしまったわけなんだ…。」
「〝役に立つものは、なんでも使う〟それも上に立つものとしては、よいお心がけだと思います。」
ダフネが優しく微笑みながら言った。
「わかりました。」
と、ルナは言い、ジョセフの前に進み出た。
そして、ジョセフにソファに横になってもらい、その横に膝をつき、ジョセフの手を握った。
ルナは目を閉じ集中し、〝癒しの力〟をジョセフに送ると、一瞬光がジョセフの全身を包んだ。
「すごい。なんて心地よさだ。まさに神力なんだろうな…。」
ジョセフは、少しぼうっとした目つきで呟いた。
「ジョセフ様は経過が長いので、五回くらいに分けて業を施そうと思います。」
ルナは、ダフネに言った。
ダフネは頷き、そして聞いた。
「ルナ、それでやっぱり全身的な疾患として捉えてよさそう?」
「ええ、そうね、今の感覚だと…」
「そこまでだ、ダフネ。ルナには久しぶりの本格的な〝癒しの業〟だ。休ませてやりたい。」
ユーゴはルナの肩を抱き、ゆっくりとルナを立たせた。
そして、「大丈夫か?」と、ルナの顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ、ユーゴ。」
ルナがユーゴに微笑んだ。
そんな二人の姿を見て、〝やっぱり聖女様と聖騎士様なのね…。〟とダフネは思った。
そうして、長きにわたりジョセフを苦しめていた病は癒えた。
筋力の衰えについては、まだしばらく時間が必要ではあったが、顔色や食欲、活力は周囲が驚くほどの回復ぶりを見せた。
ただし、ルナが聖女の〝癒しの業〟を施したことは、公にはできないので、その功績はダフネのもの、ということになった。
「なんだかルナに申し訳ないわ。私の功績でも何でもないのに…。」
ダフネは、ジョセフと二人きりのときにジョセフに言った。
「いや、君の功績でもある。君は僕に生きる意欲と自信を取り戻させてくれた、すばらしい薬師だよ。」
ジョセフは断言した。
「まだ、自分を客観視できないから、その言葉だけ受けとめておくわね…。」
と、ダフネは返したのだった。




