叔父と甥
穏やかな眼差しでノアを見ているジョセフの様子を確認して、ルナが言った。
「ユーゴ、週2回の東屋での朝食なんだけど、少し肌寒くなってきたから、食堂でいただくのはどうかしら? そうしたら、ジョセフ様も体調のよいときに、ご一緒していただけるのではないかしら?」
ユーゴにとっては、馬場や東屋は比較的騎士団の詰め所に近かったので、練習の後や東屋での朝食の後は仕事に行きやすいという利点はあった。しかし、ユーゴにとっても、今感じている皆で過ごす穏やかな空気は大切にしたい気がした。
「そうだな。俺は毎回参加できないかもしれないが、いいんじゃないかな?」
ユーゴは部屋に控えていた執事に視線を投げると、執事は微笑みながらしっかりと頷いてくれた。
「兄さん、ぜひいらっしゃってください。ノアもジョセフ叔父上がご一緒だとうれしいよな?」
「はい!うれしいです!」
ユーゴの問いかけに、ノアが笑顔で返事をした。
「ありがとう。」
ジョセフは噛みしめるように礼を言った。
〝家族っていいな…。〟幼いときから血の繋がった家族とは縁がなくなってしまっていたルナには、ユーゴたちの様子は少し眩しく映った。
そして、次の日から、ルナはノアに「〝ルナお姉さま〟って、呼んでいいからね。」と何度も言うようになったのだった。
食堂行くには、ジョセフは階段を使う必要がなく行くことができるので、筋力が低下している身体でも、身構えずに足を向けることができた。
ダフネが処方してくれる薬を飲み始めてから、呼吸がしやすくなったり、起床時に出ていた空咳が明らかに減ってきた。また、夜もよく眠れるようになったためか、以前よりは前向きな思考をするようになってきた気がしていた。
だから、ノアが勉強で難しいところがある、と言ったとき、
「私でよければ、教えようか?」と、口にしたのだった。
「本当ですか?」と、ノアはいつもの真っすぐな瞳をジョセフへ向け喜びの表情を浮かべた。
ノアは、その日から、朝食後少してからジョセフの部屋を訪ね、勉強でつまずいているところを質問するようになった。
大人のルナの質問に答えるのとは違い、まだ12歳のノアには、現在の理解度や今後段階を追って学んでいくべき内容などを考慮しながら教える必要があった。
このため神経を使わなくてはならなかったが、理解が速く伸びしろの大きいノアには、ジョセフとしても教えがいがあり、喜びを感じ始めていた。
ダフネがルナやユーゴと相談しながら、ジョセフとノアを改めてつなぎ合わせるよう働きかけたのは、ジョセフに生きる意欲、病に向きあう意欲を取り戻してもらうためだった。
ノアはいち早く、青少年らしい伸びやかに成長する力を取り戻してくれていた。そのノアの力が知らず知らずのうちにジョセフにもよい影響を与えているようだった。
ダフネは、ノアがジョセフに質問しているところに、しばしば立ち会うようにしていた。二人のやり取りを聞いている中で、ジョセフの博学ぶりや、多方面からのアプローチで、かみ砕いでノアに教えることができる柔軟性には、ダフネは脱帽していた。
〝ガスパールは、コツコツ学び、積み上げていく秀才型だけれど、ジョセフ様は、積み上げてきたものに加えて、天才的なひらめきやセンスもお持ちの方かもしれないわね…。〟
ダフネは、職業柄、人間を観察することが好きなので、勝手にジョセフのことを分析していた。
ダフネがジョセフのことを観察しながら、自分の分析に思いをはせていると、ジョセフがときどき声をかけてくることがあった。
「ダフネさん? 何を考えているの?」
「すみません、ジョセフ様、いろいろと…。でも私が何を考えているかなど、気にする必要はございません。」
と、ダフネが淡々と答えた。
「いや、気になるよ…。正直に言うとね。」
ジョセフは優雅な微笑みと共に返した。




