おいしい食事
目の前で、少し息を弾ませ、頬を紅潮させているノアは、昔かわいがっていた頃そのままの、まっすぐで明るい瞳を持っていた。
それは、4年間部屋に引きこもりがちで、ごくたまに年始めの集まりなどで顔を合わせた時に見かけた暗い瞳とは全く違っていた。
〝若い力はすごいな…。〟
ジョセフはそう思った。
「兄さん、おはようございます。」
少年二人の傍らにいたユーゴがジョセフに声をかけてきた。
「今日は早めに練習を切り上げますので、一緒に朝食はいかがですか?」
「いいけれど、二階の食堂で?」
「いいえ、こちらで、です。簡単なものを用意してもらっていますから。」
ジョセフが部屋に用意されていた椅子に座っていると、ワゴン数台と、椅子数脚が使用人により運ばれてきた。
そして、温かいお茶と、ハムや卵がはさまったホットサンド、フルーツなどが目の前に並べられた。
そして練習を終えたユーゴとノアが汗を軽くふき終わり、ジョセフの元に来ると、ルナとダフネはジョセフに辞去の挨拶をしようとしていた。
「それでは、ジョセフ様、私たちはここで失礼いたします…。」
ルナがそう言うと、ジョセフは
「君たちも一緒にいただかないか?たくさん用意してあるようだし。」と言ってきた。
「ですが…。」
と、ルナは言い淀んだ。
身分のことを言えば、ルナはユーゴの〝婚約者〟であるので、家族の一員扱いとして食卓を囲めなくはない、しかし薬師であるダフネは使用人という括りに入るので、食卓を囲むのは礼儀上はばかられるのではないか…?とルナは思っていた。
ダフネをそんなことで線引きしたり、されたりするくらいなら、この場にいない方がよいとルナは判断したのだった。
「ああ、それなら、ダフネさんも一緒にいただこう。」
ジョセフはルナの気にしていることを正確に察知して、提案してきた。
「それから、ノアの練習相手になってくれている君も。」
更に、ジョセフはロイにも声をかけた。
「え!? 僕もですか!?」
ロイは驚いて声を上げた。
「もちろんだ。ノアと仲良くしてくれてありがとう。」
ジョセフには、少年二人の様子を見て、気を許し合っている仲であることがすぐにわかった。
「いえ、僕の方こそ。」
ロイがうれしそうに答えた。
「ありがとうございます、ジョセフ様。ご一緒させていただきます。」
ダフネも答えた。
「じゃあ、俺たちは床に座って食べようか?」
と、ユーゴはあっという間にホットサンドを一つ手に取り、その場に座り込んだ。
「叔父上、野営のときってこんな感じなんですか?」
床に座ったことなどないノアが無邪気にユーゴに聞いてきた。
「そうだな…、」とユーゴが話し始めたところを、ルナが遮った。
「皆様、食事の前の言葉を忘れていますよ。ジョセフ様、お願いします。」
ルナが聖女らしく言った。
「恵みの糧をありがとうございます。いただきます。」
ジョセフの言葉に続き、皆が口々に「いただきます。」と言い、食事を始めた。
ジョセフにとっては4年ぶりくらいの、家族一緒に食べる食事だった。皆の話を聞きながら
食べると、食べなれたリンゴも美味しく感じられた。




