久方ぶり
「兄さん、今日からダフネの診察と治療を受けていただけますか?」
ユーゴがジョセフに言った。
「ユーゴがわざわざ呼びよせたのだろう? 受けるよ。 ただ、おそらく私の病は治らない。結果が出せないダフネさんの立場が悪くならないように、気をつけてあげてほしい…。」
「兄さん、それは…。」
「ジョセフ様、その言い方はいささか私に失礼ですわね?」
ダフネはにっこりと微笑み、「それでは、診察させていただきます。」と言って、脈をとり始めた。
ジョセフは間近で自分を見つめる真剣な眼差しを受け、しばらくの間、そんな眼差しを受けたことがなかったので、新鮮な思いがした。
そして、一通り診察を済ませたダフネは、
「それでは、ジョセフ様、明日から薬をお持ちします。」と、またにっこり微笑んだ。
ルナの部屋に戻ってから、ルナはダフネに聞いた。
「ジョセフ様はどうだった?」
「聞いた通り。筋肉の衰えは明らかね。特に上腕と大腿部、頸部…、体幹に近い部分が目立っていた。一番気になったのは、心肺機能の衰えも出始めたところだったかもしれないということ。脈にその兆しがあった。
おそらくルナが食べ物に〝癒しの力〟を込めなければ、一気に状態が悪化していたかもしれないわね…。」
ルナは小さく息を吸った。
「ダフネ、何とかなりそう?」
「さすが幼馴染、聞きにくいことをサラっと聞いてくるわね。時間を頂戴…、情報を整理してみるわ。」
「頼む、ダフネ。」
ユーゴの言葉にダフネは力強く頷いた。
その日のうちから、ダフネは精力的に動いた。
まずは、ユーゴを通じ、古くからいる城のお抱え薬師を紹介してもらった。
お抱え薬師は、壮年の男性で、長年に渡り辺境伯家の令息であるジョセフの症状の悪化をなすすべなく見ているしかなかったので、すっかり自信をなくし気弱になっていた。
このため、新参者のダフネにも親切に接してくれた。
現在城にあるすべての薬の情報や、今までのジョセフの症状、用いた薬について、ダフネに説明した。
ダフネは、病の根本的な治療となる薬を検討する前に、まずは、ジョセフにわずかにみられていた心肺機能の低下の回復をはかるための薬を服用してもらうことにした。
また、ルナにも引き続き、〝癒しの力〟入りの食べ物を差し入れてもらうようにした。
それらのかいがあり、ジョセフは、長い時間でなければ、部屋の外に出ていけるようになった。
そして、毎日ダフネと接しているうちに、ダフネの誠実で優しい人柄がわかってきたのか、ジョセフはダフネに心を開くようになってきた。
「ジョセフ様、雨の日は、甥のノア様が鍛錬部屋で体術の練習をしているようですよ。次の雨の日の朝は、練習を見に行きませんか?」
と、ダフネが提案をしてきたとき、ジョセフはすぐに承諾をした。
次の雨の日の朝、迎えに来たルナとダフネと共に、従者に支えられながらジョセフはゆっくり一歩一歩階段を降りて行った。
〝鍛錬部屋など、ここにあっただろうか?〟ジョセフが不思議に思い、ルナたちの先導で歩いて行くと、そこは一階のティールームの場所だった。
部屋の中に入ると、数年ぶりに見る、成長したノアが同じ年ごろの少年と腹筋運動をしていた。
そして、ジョセフの姿に気づくと、ノアはすっと立ち上がり「叔父上!」と言ってジョセフの元に駆け寄ってきた。




