大人として
ルナがあまりに驚いた顔をしたので、ダフネはぷっとふき出した。
「私をダシに卑怯な脅しまでかけてルナを連れ戻そうとしていたのに、辺境騎士団にものの見事にかっさらわれたでしょう? ガスパールは、あの後すぐに中央神殿に帰ったんだけど、しばらくしてブイエ村に戻ってきたの。
ガスパールは何も言わなかったけれど、当然、中央神殿側と辺境伯家とのやり取りはうまくいかなかったのでしょうね。気落ちした様子で村にやってきたわ。所属をシドの町にある地方神殿にしてもらったみたい。」
「それにしても、なんでブイエ村にいるのかしら?
ダフネとゆっくり話をしたかった…とか??」
ルナはダフネに聞いた。
「いいえ。多分、少しでもルナの近くにいたいのではないかしら?
でも、辺境伯のお膝元には近づけないでしょう? それに、ブイエ村には、自分の仕事があるって、思ったんじゃない?」
「自分の仕事?」
「元々、地方の神殿の神官には、住民に祈りの場を提供するだけではなく、住民の困りごとを解決する役割もあるでしょう?
今、ブイエ村の困りごとは、残り一つの村の中心で使える井戸も、いつ同じように汚染されるかもしれない…という潜在的な大きな問題。
だから、毒性物質の有無をきちんと検出できる手立てを作りださないといけない。
ガスパールは、今これに取り組んでくれているわ。」
「じゃあ、ダフネはガスパールと仲直りして、いっしょに仕事をしていたの?」
ルナが身を乗り出して聞いてきた。
「う~ん…、仲直りというか…、お互い、脅したの脅されたの、みたいなことはなかったことにして…、なんとなくやり取りをしていたわ…。
実際ガスパールの博学ぶりは役に立つしね。」
「大人になったってことか?」
ユーゴが横からしみじみとした口調で言った。
「そう、それ!」とダフネは同意した。
「私たち四人の関係も変わっていくものなのね…。」
ルナは少し寂しそうに言った。
翌日ルナとユーゴは、ジョセフにダフネを引き合わせた。
「あなたがダフネさんか…。同じ養母の元、ユーゴが世話になったね。ブイエ村でも我が領民のために働いてくれて、感謝している…。」
ジョセフが静かな口調で言った。
「ジョセフ様はだいぶ前からダフネのことをご存じだったのですか?」
神殿での昔の生活について、ジョセフが知っていたことにルナは驚いた。
「ユーゴがね、見習い騎士になるまでは、たまに家に手紙を書いてくれていたんだよ。
当然、同じ養母の養い子となった、ルナさんとダフネ、ガスパールのことはよく手紙に登場していたんだよ。」
「そうだったのですね。」
ダフネが落ち着いた様子で言った。
「だからね、幼い頃から勉強好きのダフネさんが薬師として活躍しているのは十分納得できる。ルナさんがこの城で熱心に勉強して私にまめに質問しにきているのは意外だったけどね…。」
「え!?」
ジョセフの言葉にルナは固まってしまった。
〝それって、私が幼い頃はあまり勉強しなかったってことをジョセフ様がご存じということ?
と言うことは、ユーゴがお家への手紙に…?!〟
「もう、ユーゴ! 変なことを手紙に書くのはやめて!」
ルナが顔を真っ赤にして、隣に立っているユーゴの腕に軽く握り拳でパンチをした。
「ルナ!?十年以上も前の話だぞ?」
ユーゴが困った顔をして、ルナに言った。
そんな二人の様子を見て、ジョセフは楽しそうに微笑んだ。
ジョセフの微笑みを見て、この方はユーゴのことを大切に思っていらっしゃるのね…とダフネは思った。




