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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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朝食を囲む

 「ねえ、マージ。簡単な朝食をバスケットとかに詰めて用意してもらうことってできるのかしら?」

ルナは、マージに相談を持ちかけた。


「? それはルナ様の分でございますか?」

「いいえ、できれば皆の分、朝の練習が終わった後に、ユーゴとノアと、トムとロイ、皆で食べることができればうれしいな、と…。ユーゴはいそがしいから食べられるときだけでも…?」


「素敵なアイデアですね。ただ、夫とロイは結構です。お仕えする方とお食事を共にするなど、いけません。」

「ユーゴも私も、気にしないのに。」

「いいえ、けじめというものですわ。それに、ノア様もとおっしゃるのなら、しっかりとバランスのとれた朝食がよいと思いますので、曜日を決めて、皆様で東屋で召し上がっていただくのはいかがでしょう? そこでなら私共もちゃんとしたお支度ができます。」


「マージ、それは素敵ね!」


マージは早速各方面に相談し、週に2回、馬場から庭園に入ってすぐの場所にある、東屋で朝食を食べることができるようセッティングをしてもらえるようになった。


ノアの体術の練習も軌道に乗り、ノアはよく食べよく眠るようになったためか、みるみるうちに顔色がよくなってきた。

そして、東屋での朝食も、おいしそうに食べていた。


ただ、練習も東屋での朝食も、天気が悪い日は中止になってしまうことは、非常に残念だった。



 「ねえ?マージ、お屋敷の中で、ノアとロイが体術の練習をできるような広めのお部屋ってないかしら?」

ルナはまたマージに相談をした。


「そうですね…、ティールームが使えるかもしれません。以前奥方様がいらっしゃったときは、ときどきお茶会をなさったりするときにお使いでしたが、今はもうほとんど使われてはいませんので…。

ただ、建物の中のお部屋を本来の目的とは違う形で使うことになりますので、執事さんに許可をいただいた方がよいかと思います。」


実は、東屋で朝食をとることについても、マージはきちんと最初に執事の許可を取り付けた上で、厨房など各方面の調整に動いていた。

執事は、うるさく言う人間ではなかったが、古くからの伝統に変化をもたらすようなことについては、慎重だった。


「では、一度執事さんに朝の練習の様子を見に来ていただきましょう。」

ルナは、ユーゴを通じて、ノアの様子を見に来てもらえるよう執事にお願いをした。

執事は、東屋での朝食が始まったときに、一度テーブルの用意などの確認にきたことがあったが、実際の最近のノアの様子を見たことはなかった。


だから、馬場の隣の芝生の上で、同い年の少年のロイと、生き生きと体術の鍛錬に励んでいるノアの姿を見たとき、執事はとても驚いた。

執事はこの数年、青白い顔をして、家庭教師の指導のもと、ただ人形のように机に向かっているノアの姿しか見たことがなかった。


それが、すっかりと血色のよい顔色となり、まだ少しおぼつかないながらも、必死にロイに食らいつき、組手をしていた。

執事は、二十数年前のノアの父親、ラファエルが剣の鍛錬をし始めた頃の姿を思い出した。


〝そういえば、ラファエル様も十歳頃から剣の鍛錬を始めていた。最初の頃は生傷が絶えなくて…〟

そう回想していると、ノアがロイに投げられ、芝生の上で辛うじて受け身を取った。


「ああぁ!!」

執事は、思わず大きな声を発してしまった。

しかし、ノアはすぐに立ち上がり、またロイに向かっていった。その真っすぐで力強い瞳は、当主バシルや亡きラファエルと同じ新緑の色だった。


〝ノア様も、武門のルーセル家の血脈を受け継ぐ方でいらっしゃる…。〟

執事の目にうすく涙が滲んできたことは、誰も知らなかった。


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