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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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ルナの案

「気になるのは、病状が進行していることね。マージの話だと、この半年で更に筋力低下が進んできていると聞いているわ…。」

「そうだな…。」


本当は、ルナはジョセフに直接〝癒しの業〟を施したかった。

しかし、ここでは聖女としての振舞いは禁止されている、そして内緒で〝癒しの業〟を施そうにも、ルナはユーゴの〝婚約者扱い〟なので、ジョセフと二人きりになるなどということは不可能だった。


「そうだわ。〝婚約者〟のユーゴと一緒なら、ジョセフ様と内密の話をしているというシュチエーションになっても大丈夫よね。そこで〝癒しの業〟を行わせてもらえれば…。」


「ルナ、それは…。」


「名案だと思うでしょ?」

ルナはにっこり笑ったが、ユーゴの歯切れは悪いままだった。


「ルナ、気持ちはうれしいが、兄さんは〝癒しの業〟を受けてくれるかどうか、わからない…。」


「ジョセフ様ご自身も神殿や神殿関係者がお嫌いとか?」


「いや、そうではなく…、俺から見ると、兄さんは病を治す気があまりないような気がするんだ…。」


そういえば、ルナから見ても、ジョセフは自分の病については諦めているような、触れてほしくないような、そんな雰囲気は感じていた…。

どうしてなのか…? ルーセル家の家族や、跡継ぎ関連で何かあるのか…?

ルナはよい機会なので、ユーゴに聞いてみることにした。


「マージ、ごめんなさい、これから込み入った話だから、小声で話しをするわね。」

ルナは部屋の壁近くに控えていたマージに一声かけた。

そして、意識を集中し、自分とユーゴの周りに防音の結界を張った。


ルナの聖なる力が一瞬薄く空間に放たれたのをユーゴも感じた。


「ごめんユーゴ、ルーセル家の跡継ぎ問題って、今どんな感じなの?」


ユーゴは、ルーセル家の家族の問題や、跡継ぎの問題などを、ルナに聞かせたくはなかった。

しかし、ルナが察している通り、確かに兄のジョセフの生きる気力、しいては病状にも関わっていることかもしれず、重い口を開いた。


「本来の継嗣であるジョセフ兄さんの病気が進行してしまったため、実情としては継嗣候補は3人いる、と周囲にはみなされている。

兄さんと、俺、それから、まだ幼いがラファエル兄さんの息子のノアだ。」


「え?ユーゴに甥っ子さんがいたの?」

ルナの目が驚きのために見開かれた。


「ああ、年は確かロイと同じ12歳だ。4年間に事故で一気に両親を亡くしているだろう?そのときから引きこもりがちな生活をしているらしくて、俺も一回しか会っていない…。」


「それにしたって…! ユーゴの家は、家族のつながりが薄すぎるわ!」


「そうだよな…。」


ルナとて、本当の家族とのつながりなど実感したことはない。けれども、聖養母やユーゴたち3人と密接に関わった記憶や、宿の女将さんやご主人と心を通わせた経験が、ルナに力強くそう言わせていた。


「実は、継嗣候補の一番手は、目下のところは俺だ。不本意なんだが…。

兄さんとしては、もうこのまま俺に継嗣を譲るつもりでいるのかもしれない…。」


「そうなのね…、ジョセフ様としては、病のためでもあるけど、気力がとても落ちている状態なのね…。」


「そうだな。」


ルナは、真剣な顔をして考え込んだ後、急に弾かれたように声を発した。

「ユーゴ、一緒にいろいろ頑張りましょう?!

まずは、ジョセフ様のご病気については…、ダフネの力をかりましょう。

おそらく村の皆さんの中毒については、そろそろ一段落していると思うの。

ルーセル卿にお願いして、ダフネを呼び寄せる許可をいただいてくれる?

ダフネがここへ来てくれるまでは…、私が本や資料について相談にいくということで、癒しの力を込めたお菓子か何かを持って、ジョセフ様の元を訪ねましょう。」


ルナは、またも〝名案!〟とばかりに、得意げににっこりと笑った。


「ルナ…、それはいいと思うが、持っていくのは、ルナの手作りのものでなくていいからな…。」

「え?どうして?」

無邪気に首をかしげるルナは可愛らしくユーゴの目に映ったが…、

「ほら、ここの料理人はなかなか優秀で、おいしい菓子を作るだろう? ジョセフ兄さんも食欲がないときは、食べなれた菓子の方を好むかもしれないじゃないか?」

と、ユーゴは力を込めて言った。


「それもそうね。」

頷いたルナを見て、ユーゴはそっと息を吐いた。


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