クッキー(?)
「そのクッキーは、私が作ったの!」
ルナは、〝よくぞ気がついてくれました〟と、言わんばかりに、うれしそうに声を弾ませた。
「ほら、聖養母様がときどき作ってくださったクッキーを覚えている? あれを目指して作ってみたの!」
ルナが作ったものは、ユーゴの記憶の中にある聖養母のクッキーとは似ても似つかない気がした。
〝こんなにこげ茶色で、こんなに薄くて、こんなに硬そうな感じではなかったような…??〟
「食べてみてくれる!?」
ルナがうれしそうに、皿をユーゴに向けて差し出した。
ルナの輝くような笑顔の前に、食べないという選択肢は、ユーゴにはなかった。
ガリ、ガリ、ポリ、ガリ…。
クッキー(?)を噛む音が響いた。そばに控えていたマージが、ユーゴに向けて心配そうな顔を向けた。
「どう?」
ルナがユーゴの顔を覗き込んで聞いてきた。
「う、うん…、味の感じは…いいんじゃないかな…?」
「よかった…。」
ルナは満足そうに微笑んだ。そして、マージへ声をかけた。
「今度、ロイにも焼いてあげようかしら?」
「めっそうもございません!ルナ様! お気持ちだけで十分でございますっ!
うちの子はお菓子は食べないんですよ。そ、そう、子供らしくない辛党で!」
マージが少し青い顔をして早口で言った。
「そうなの?」
ルナは、残念そうな顔をした。
「ところで、ルナ。改まって話って、何だい?」
ユーゴが話を切り出した。
「そうだったわ。」
ルナは、ソファの上で座っている姿勢を整え直し、ユーゴに向き直った。
「ルナ様、私は席を外しましょうか?」
マージが気をきかせ聞いたが、ルナは「大丈夫よ。」と答えた。
〝あれ? 今後の二人についての話ではなかったのか…?〟
ユーゴは少し残念な気持ちが沸き上がった。
「ユーゴのお兄様のジョセフ様のことが聞きたいの。ご病状を教えてくれない?」
「…、兄さんのことは俺も気になって、情報を集めてはいた…。」
ユーゴは小さく息を一つ吐き出し、話し始めた。
「ジョセフ兄さんは、幼いころからよく熱を出す子どもだったそうだ。高い熱は出すが、熱だけで特に他に症状はなく、数日でおさまっていたらしい。
成人してから発熱する頻度は減ってきていたらしいのだが、現在のような症状が出てきたのは、2年前からのようだ。
まず、倦怠感が強く出始め、仕事が滞ってきたらしい。それでも、継嗣としてなんとか気力で務めを果たしてきたらしいのだが、1年前から筋力の衰えが目立ってきたと聞いている…。」
「辺境伯家お抱えの薬師は、何と言っているの?」
「まったくの原因不明で、対処のしようがないと。」
「……、なかなか難しそうな病気ね。早めに神殿に来てくださっていれば…。」
ルナは今更言っても仕方がないことを、思わず口にしてしまった。
「ああ、けれど、父は、俺のことで神殿を嫌っているからな…。」
辺境伯は、幼い息子を神殿に送らざるをえなかったことについて、神殿に思うところがあるようだった。




