筋肉痛はつらいのです
「この馬がルナの相棒になる、シルフィだ。」
ユーゴが傍らの栗毛の馬の背をぽんぽんと叩きながら言った。
「よろしくね。シルフィ…。」
ルナはおずおずと近づき、先ほどユーゴがしていたように首の後ろを優しく撫でた。
するとシルフィは、気持ちよさそうに目を細めた。
「よかった…。優しいのね、あなたは…。」
シルフィがすぐに自分を受け入れてくれた様子に、ルナはほっとした。
「ああ、賢くて穏やかだ。けれど、いざというときは速く駆けることができるぞ。」
「まあ、頼もしいわ、シルフィ…。」
シルフィは、「まかせて」とばかりに、頭を振った。
よい馬とも出会えたし、ユーゴと過ごす時間が増える…と喜んだルナだった。
しかし、ユーゴの指導は、なかなか厳しかった。
ルナは2週間くらい筋肉痛に苦しんだ。特に太ももとおしり、背中が辛かった。
マージが、気を効かせて身体のマッサージをしてくれた。
ある日の夕方、寝台の上で横になっているルナをマッサージしながら、マージが話しかけてきた。
「ルナ様、聖女様のお力というのは、ご自分を癒すことはできないのでございますか?」
「え?」ルナは聖女の力について、マージが初めて聞いてきたので少し驚いた。
「いえ、申し訳ございません。ふと疑問に思ったものですから…。」
「そう思うわよね。自分も少しなら癒すことができるのだけれど、人に業を施した方が断然力が強く発揮できるの。神様からいただいている力だからかしら? きっと神様は授けた力で、どんどん人を癒すことをお望みのような気がするの…。」
「そうですか…、不思議ですね…。」
「そうね…。ところで、ロイは乗馬ができるのよね? 馬場まで付き添ってくれた後、私の練習を見ているだけではつまらないのではないかしら?」
「ルナ様、息子のことはどうぞお気になさらず…。あの子は元々騎士志望で、ユーゴ様に憧れているのです。ユーゴ様のご指導の言葉を聞くだけでも勉強になる、と言っております。」
翌朝、馬場まで歩きながら、ルナはロイに話しかけた。
「ねえ、ロイ。あなたは騎士志望なんですって?」
「は、はい! そうです…。夢で終わるかもしれないのですが…。」
「まあ、そんな…。ねえ、いい機会だし、ユーゴに教えてもらいたいこととかある?」
「めっそうもない! 僕なんか!?」
ロイは手を顔の前でぶんぶん振った。
「ロイ、〝なんか〟っていう言葉は、私は好きじゃないの。
誰だって夢を描いていい。その夢を大切にしていれば、その夢自体は叶わなかったとしても、きっと素晴らしいところへ辿りつける、って、私は信じているの。」
「ルナ様…、えっと…えっと、少しでもいいから、僕は体術を習ってみたいです。
父が言っていたんです。ユーゴ様の剣術はとても素晴らしいが、体術も素晴らしいって…。」
「そう。」
ロイの言葉に、ルナはにっこりと微笑んだ。
その日の乗馬の練習が始まるとき、ルナはユーゴに言った。
「ユーゴ、お願いがあります。私がシルフィのブラッシングをしているときに、少しでもいいから、ロイに体術を教えてあげてもらえませんか?」
「ルナ?」
「ロイは騎士志望で、ユーゴに憧れているそうです! 私は、シルフィのブラッシングにも慣れてきましたので、一人でも大丈夫です!」
〝ルナは、今日は激しく生徒モードなのかな?〟とユーゴは思った。
そして、ユーゴはロイの方へ向き、
「ロイ、俺は厳しいぞ? 大丈夫か?」と聞いた。
「は、はい!」
ロイは顔を紅潮させ、直立不動になって、答えた。




