ユーゴの思い
ユーゴにとってルナは、ずっと前から、かけがえのない存在だった。
家族のような幼馴染としてではなく、一人の女性として愛おしい…と強く感じるようになったのは、いつの頃からだったか、ユーゴにもわからない…。
15歳になり、ルナが聖女に、ユーゴが聖騎士として叙任され、それぞれの職務に励むようになり、直に接することができる機会は減ってしまった。
けれど、式典などで見かける聖女の白い装束を身につけるルナは美しく、懸命に人々のために尽くす姿を見ては、ユーゴは心の中で応援し、自分の励みにしていた。
遠征などがなければ、数カ月に一度、ルナの護衛担当の任務につくことができる期間は、ユーゴにとって、とても大切な時間だった。
ルナもユーゴが傍にいるときは、幼馴染のユーゴにしか見せないような表情をたくさん見せてくれた。
少し甘えたような仕草や、拗ねたような表情、いたずらっぽく笑うときの目や唇や声、ユーゴはそのすべてを愛おしく感じた。
ルナただ一人に向ける自分の強い思いは、聖騎士としては持つべきものではないのかもしれない…そう思い悩んだときもあった。
しかし、ルナが聖女として生き生きと務めを果たしていけるよう守ることが、民の幸せにもつながっていくのではないか? 神様もお喜びになるのではないか?…と思うようになっていった。
ルナを守ることができるよう、ユーゴは人の2倍3倍鍛錬を重ねた。騎士として、すべての職務に力を尽くした。
そのような中、しばらく前から、ルナの表情のトーンが次第に冴えないものになっていき、やがて表情そのものが乏しくなってきたことに、ユーゴは気がついていた。
だからこそ、ルナが『一緒に神殿から逃げてほしい。このままでは心が死んでしまう。』と言い出したとき、すぐに納得することができた。
ユーゴは、そのままのルナを愛していたし、ルナの霊性を信じていた。そして、ルナがルナのままでいられることが一番大切だと思っていたので、ルナの思いに沿う以外に選択肢はなかったのだった。
神殿の追跡が厳しく、やむを得ず自分の実家である辺境伯家を頼ることになってしまい、そのために息子として家と領地に貢献しなければならなくなった。しかし、それに関連して、今後のルナの自由を侵害するような事態は絶対に避けたい…。
けれど、ルナと〝婚約者〟となる、ということは、たとえそれが便宜上のものであっても、一人の青年男子であるユーゴにとっては、単純にうれしかった。
ルナの乗馬のレッスンについても、その教師役を他の誰かに譲る気は毛頭なかった。
小さな馬場で、馬の首を撫でながらユーゴが言った。
「じゃあ、ルナ、馬に慣れることから始めようか?」
「え!? ユーゴが乗馬を教えてくれるの?」
「もちろん。」
ユーゴの言葉に、ルナがうれしそうに笑った。
そこへ、「申し訳ありませ~ん、ルナさま、ユーゴさま!」
と言って馬場へ駆け込んできた人間がいた。
息を切らしながら「も、申し訳ありませんでした。」と、重ねて言っているのは、トムと侍女のマージの息子のロイだった。
「寝坊でもしたのか? ルナを迎えに行く役目をお前に頼んだはずだが?」
ユーゴは少し厳しい声でロイに聞いた。
「いえ!ルナ様がお早かったのです~。」
ロイが焦って答えた。けれども、ロイの髪の毛にはしっかり寝ぐせの跡が残っていて、〝かわいい〟とルナは思った。
「ごめんなさいね、ロイ。乗馬のレッスンが始まるのが楽しみで、すごく早く起きて支度を終えてしまったの…。次からはよろしくね。」
ルナがロイに優しく言った。
「そうか、ルナはやる気に満ち溢れているんだな…。ルナさえよければ、できるだけ毎日レッスンをしようか?」
「え!? いいの、ユーゴ? うれしい!」
ルナはこぼれるような笑みを浮かべた。




