ルナの気持ち
いくつかの資料を選んだ後、ルナはジョセフに聞いた。
「あの…、こちらの資料は自室に持っていってもよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ。君は弟の〝婚約者〟なんだろう?」
そう言って、ジョセフは儚げに微笑んだ。
〝あ、この方の瞳の色は、灰色なのね。〟
ルナが、そう思っていると、資料室に従者らしい男性が現れ、ジョセフに声をかけた。
「ジョセフ様、お迎えに上がりました。」
「ありがとう、この本を持ってくれるかい?」
ジョセフは従者に閲覧台に置いてある本を指さした。
「かしこまりました。」と言って従者は本を脇に抱えた後、ジョセフの前に立ち、中腰になった。
ジョセフはゆっくりとした動作で、従者の両肩に手を置き、それを支えにして椅子から立ち上がった。そして、
「見苦しいところを見せて申し訳ない。ルナさん、ユーゴによろしく伝えてくれ。」
と言い、従者の左肩に手を置いて、従者と共にゆっくり小さな歩幅で歩きだした。
ジョセフの姿が見えなくなると、
「おいたわしいですわ。また更に弱られたご様子…。」
と、マージが哀しそうにつぶやいた。
「マージ、ジョセフ様の病状を教えてくれる?」
「申し訳ございません。私の口からは申し上げにくいのです。ユーゴ様にお聞きになっていただけますか?」
「わかったわ。」
そう答えたルナだったが、〝いつ、ユーゴとゆっくり話すことができるだろう?〟と思ってしまったのだった。
資料室に行った次の日に、ルナが乗る馬と馬具の準備ができたので、翌日から乗馬のレッスンを開始できる、との連絡がルナに入った。
「明日は、朝早くから開始するとのことですわ。」
と、マージが言った。
「それでは、朝は私一人で支度をするわね。乗馬服の準備だけしておいてくれれば大丈夫よ。」
「かしこまりました。」
翌日ルナは一人で乗馬服を身につけ、肩の長さを少し超えてきた髪の毛を後ろで一括りにまとめた。
マージが丁寧に洗髪してくれるので、ルナの髪の毛からは、染粉の茶色はほぼ消えて、本来の美しいツヤのある銀色の髪色が戻ってきていた。
ルナは、回廊を抜け、教えてもらっていた厩舎へ向かって歩いていった。
〝朝の空気が気持ちいい…。レッスンはどんな方が教えてくださるのかしら?
乗馬が上達したら、ユーゴと遠乗りに出かけたりできるとうれしいな…。〟
ルナはいろいろなことを考えながら歩き、いつの間にか厩舎が近づいてきた。すると、厩舎の前の小さな馬場に一頭の馬と、その傍に、辺境騎士団の騎士服を着ている男性が立っていた。
〝ユーゴ!?〟
ルナの心臓がドキンと一つ大きく跳ねた。
ユーゴは優しく微笑んで、馬の首を撫でていた。
そしてその新緑の色をした瞳は澄んでいて、きれいだった。
ルナは、ユーゴの純粋で穏やかな表情を見ているだけで、幸せな気持ちが沸き上がってくる気がした。
〝やっぱり…、私、ユーゴのことが好き…。〟
その思いがルナの胸にすとんと落ちた。
「ルナ?」
自分のことを見つめているルナに気づき、ユーゴが声をかけた。
「あっ!? ユーゴ!? お、おはようございます!!」
「…?、おはよう。ルナ、今、何かのモードが入っている?」
「何のモードもないですわ!?」
完全に声が裏返ってしまっているルナの声を聞いて、
〝今朝は、貴族令嬢モードなのかな??〟と、ユーゴは思ったのだった。




