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脱走聖女と幼なじみの騎士  作者: もりの
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資料室

「ところで、ユーゴのお父様にはご挨拶できたのだけれど、お兄様のジョセフ様にはご挨拶しなくてもよいのかしら?

ご挨拶も無しに、私が城内を歩き回っていると、御不快に思われるのではないかと思うの…。」

ルナがマージに尋ねると、返事が事もなげに返ってきた。

「ルナ様、ジョセフ様は病がちなので、ご自分のお部屋の外に出られることはほとんどないのです。ご心配は要りませんわ。」


「そうなの?」


〝一緒に食卓を囲むことも滅多になさそうだし、大きな貴族の家族は、疎遠な感じなのね…。〟と、ルナは思った。



 「ねえ、マージ、できれば今日は資料室に行ってみたいのだけれど…。」

と、ある日ルナがマージに言うと、マージは快く案内してくれた。


「このお城の資料室はなかなかのものだと聞いたことがあります。

武門として有名なルーセル辺境伯家ですが、代々のご当主様は領地運営や文化の発展にも熱心に取り組まれてきたので、たくさんの資料が集められているそうですわ…。」


城の回廊を歩きながら、マージは説明をしてくれた。



城の資料室は、さすがに中央神殿のものよりは小さかったが、置いてある資料の数は神殿に匹敵するほど多いようだった。

とても古い、羊皮紙を束ねてあるものもあれば、まだこの国では貴重な、紙の本も数多くおいてあった。


「すごいわ…。」

ルナはため息を一つついた。


ルナは、ブイエ村の毒性物質の検出や除去方法について、何か参考になるような文献がないかと思っていた。なぜならば、村の中心部で使われていた2つの井戸のうち、1つはまだ使用可能だが、その井戸もいつまた同じような事態になるかわからないからだった。


「えっと、どの辺りを見ていけばいいのかしら?」

ルナが並んでいる棚の前をうろうろしながらつぶやいていると、奥の空間に閲覧台があり、その前に置いてある椅子に座って休憩をしている男性がいた。


その男性はやせていて色白の顔をしていた。そして、上質なシャツとグレーのベストを着ていて、男性にしてはやや長めの髪の毛は、ユーゴとよく似た茶色だった。


「これは、ジョセフ様。おいでとは知らず、失礼をいたしました。」

ルナの後ろにつき従っていたマージが、少し慌てた様子で言った。


「え?! ジョセフ様って、ユーゴのお兄様の?」


「ああ。こんなところでお会いするとは…。初めまして、ユーゴの兄のジョセフです。」

ジョセフは落ち着いた様子で、ルナに声をかけてきた。


「初めまして、ルナと申します。お世話になっております。」

ルナは貴族令嬢としてのお辞儀をした。


「座ったままですまない。立ち上がるのも時間がかかってしまうもので…。」


「いえ、お気になさらず…。」

ルナは、そう答えながら、ジョセフの身体の様子に目線を走らせ観察をしてしまった。


ジョセフは、ルナの目線の動きに気がついたのか、苦笑いをした。

「流石ですね…。お願いしなくても、私を診たててくれるのですか?」


「申し訳ございません…。大変失礼なことを…。」

ルナは、自分がぶしつけなことをしてしまったと気づき、すぐに謝った。


ジョセフはルナが聖女であることを知っている人間だということを、ルナは思い出した。

そして、この場では〝聖女〟と言う言葉を使わずに、ルナをやんわりとたしなめてくれるジョセフの優しさと賢さを感じた。


「何の資料を探しているのですか? 私でよければ、お手伝いいたしましょう。私よりこの部屋に詳しい人間はいませんからね…。」

その言葉通り、ジョセフは座ったままで、「毒物関連はあちら…」「地質関係については向こうの棚…」と、資料のありかをルナに指し示してくれた。


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